QJY通信 93号

平成10年4月10日

春の女神に逢える山 ギフチョウの舞う 島根県赤来町 女亀山めんがめやま(830m)

R54のドライブ

南原峡はコバノミツバツツジが満開状態。広島市から県境方面へのドライブはどこへ寄っても春を身近に感じることが出来る。

本日の目的地は花の山ではなくて、ギフチョウの舞う女亀山。かつてやはり同じ時期に登り多くのギフチョウの春の舞いを見せてもらったことがある。

実はその時ここのカンアオイの正確な和名を調べていなかった。ミヤコアオイかサンヨウアオイのどちらかだが、花の時期でもある今なら観察さえ出来れば同定も可能だ。

春の女神ギフチョウはテレビでも良く取り上げられるようになった。ちょっと不思議だが、県内のいくつかの山で見ている。でも今日のように逢いに行って、ちゃんと逢えたらどんなに嬉しいだろう。

私の場合、特定の花に逢うために山に登り、丁度咲きごろのその花に逢うとまるで恋人に逢ったような嬉しさを感じる。その気持を今日、味わいたいものだ。

広島からR54を北上、赤名トンネルを抜けるとドライブインR54がある。トイレ休憩に丁度良い場所。また、杵つきのあんこ餅を売っているがこれがとてもおいしい。休憩用に少し買っていくことにしよう。

そこから峠の酒屋の前後の道(どちらでも同じ)を南下しひたすら山に向かう。

登山口

酒屋の先の小さな橋の周囲はツクシがたくさん顔を出している。タチツボスミレやホトケノザが咲き、どんどん行けば最後の民家の塀に「女亀山自然環境保全地域」の表示。舗装が無くなりスギ、ヒノキの植林の中を走り、少々不安になるが、間違える要素は無い。廃車となったマイクロバスの置いてある登山口まで一気に進む。

車が4〜5台は停められる。

あった、あった。

ウマノスズクサ科の地味な花が。

縦にたくさん(15個だそうだ)の筋が入る、ミヤコアオイだ。サンヨウアオイならこれが6本。俗にカンアオイと呼ぶが(属としてはカンアオイ属)正しくはそれは関東地方固有種で別名カントウアオイのこと。

頂上のものもミヤコアオイなのだろう。

周囲はミヤマカタバミの白く可憐な花が一斉に咲いている。陽が照らないとなかなか開いてくれない花だが、幸い今日は青い空が広がっている。

廃車のマイクロバスは昔からあったと思うが、どうも中に入って見ようと言う気にはならない。

看板には「女亀山島根県自然環境保全地域」としてその範囲2.73ha、指定S62.9.8の記述がある。県境を接する広島県側では半年前の3.31にやはり自然環境保全地域として指定されている。

神戸川の源流

左側は沢になっていて前日までの雨のせいで水量もある。

せせらぎの音を聞きながら山道を登ると、スギ、ヒノキの植林の中の山歩きだが、そう不快感は感じない。だが、足元には花らしいものは見当たらずミヤコアオイも姿を消した。カンゾウやキケマンが確認できるが。

と、そこに石碑らしきものが建っているのを見つけた。近寄ってみると「神戸川源流」とある。立久恵峡を流れる神戸川はここから始まっていたのか。こういう石碑は素晴らしい。およそセクショナリズムと功名の権化である「石碑」の多い中でこうやって川の源流を示す碑はもっとたくさん見かけてもいい筈だが。

周囲にはイチリンソウの葉や終わりかけたミツマタが黄色いボンボリを付けていた。

しばらく面白味のない丸木階段を進んでいると明るい陽射しの尾根筋に出る。

ブナあらわれる

ツノハシバミが花を付けていた。シュンランの花芽、ウリハダカエデやダンコウバイ、オオカメノキ。特にガマズミのつぼみにウサギの耳のような若葉が見えるとまるで幼稚園の年少さんが並んでいるようで微笑ましい。

 

 大ブナがあるぞ。そばには「山野草を取らないで」と看板がある。イヌシデやクロモジ、エゾユズリハが目に付く。

蝶が1頭(チョウの正式な数え方)飛んで来た。ギフチョウだ。じっとしていたら足元に平気でとまる。生まれて間が無いと思うが、忙しそうに飛び回る。

時期的にちょっと早いか、と心配したが山頂でたくさん見られそうだぞ。

ブナの実がたくさん落ちている。まだ花芽が出ていないが、晴天の日が続いているから時間の問題。

エビネ類の葉もあるようだ。ウバユリやウグイスカグラも目立つ。当然ミヤコアオイが花をつけていた。

map

山頂はギフチョウの乱舞

「芸藩通誌」には「女亀山池 岡三淵村にあり 池は頂にありて 四時水枯れず 神亀これに居る 里人雨を祈るに杭を池中に立つと言う」などと書かれているらしいが山頂には池は無い。

イヌガヤに覆われている。

一坪くらいの建坪に「女亀山神社」と書かれた社がある、ここが玄武岩丘であること、古くから神聖視された場所であったことの説明も。

頂上には昔あった小さな祠が無くなっていた。大き目の三角点の指標。そうか、ここは一等三角点の場所だった。

ここにシートを敷いて春の日溜まりの中で昼食をとることとする。

するといきなりギフチョウが3頭舞いはじめた。実際はテリトリ争いの切実な戦いなのだが見ている分には春風の中、舞を舞っているみたい。

目の前にもとまり、影を見ていたら頭にもとまったようだ。人を恐れない。

しばし時間を忘れるくらい見惚れていた。

北に三瓶山の山並み、シジュウカラの声は忙しそう。南側は広島の山村風景。

アカタテハが飛んで来たがすぐ攻撃される。アゲハの仲間はテリトリー意識が強い。ハチのような武器を持たないチョウがこれほど攻撃的だというのは非常に興味深い。

帰りはもう少し林の中を歩いてみる。

エンレイソウが大きな葉を揺らしながら地味な色の花を咲かせていた。ウグイスカグラは小さな花をつけ、長い冬の間に積もった落ち葉の下からウバユリの葉がのぞく。

遠目にカタクリかと思ってしまい、笑ってしまう。あばた模様の葉だ。

ギフチョウの疲れを知らない忙しい舞を見ていると時間など忘れるぞ。


[ギフチョウ]

アゲハの仲間では小さい部類だが、蝶好きのマニアの人気ナンバーワン。蝶の世界で「春の女神」の異名をとるのは姿の美しさと希少価値。環境庁指定の危急種で岐阜蝶と和名があるのは、日本で最初に見つけられたのが岐阜県益田町だったから。

成虫は約2週間の命。