つうしん休日は山にいます 発行 QJY通信社

98-05-15

まだ見ぬ チョウジソウ を求めて 島根県津和野町 地倉沼(430m)

中国自然歩道

本日の目玉、地倉沼は観光地津和野のはずれ、JR青野山駅から登る。沼だから平地の様だが、どっこい一つ山を越えなければならない。

その不便さと道の分かり難さがその地を秘密の花園にしてくれた、と言っていい。

ここはキョウチクトウ科のチョウジソウが咲く沼として有名だ。そして冬なら沼は枯れ上り、逆に今は湖面にたっぷりと水をたたえ、好きな場所には行かれないかも知れない。

カメラマンの私としては、樹木が水の中に立つ今の季節こそ嬉しいのだが。また、今日は風が無いので水面に写る樹木の光景が写真の題材として期待出来る。

朝方の青野山を後にして、津和野の駅でトイレ休憩、さらに益田市方面に抜ける。

車を国道9号の直地(ただち)児童館の敷地内に置かせてもらおう。少し北側に行けば路上の広い駐車場もあるが。

そして国道を渡り、川も渡り、駅とは違う方の踏み切りまで進もう。あたりはキツネアザミが咲く田んぼのあぜ道、ノアザミ、ナワシロイチゴが満開状態だ。お茶の産地ということで、成る程茶畑の多いこと

直地の踏切りに簡単な道路案内がある。ここは中国自然歩道の一部だ。ガムテープで案内の間違いを訂正してあるのだが、要はガムテープの訂正どおりに踏切り手前のあぜ道を左にとり、JRの線を陸橋下でくぐる。トキワハゼ、ドクダミはこの地では普通の花だ。普通と言えばずっとノアザミの赤い花が見られる。

ここはユズの畑、おりしも白いユズの花が甘い香りを放ちながら咲いていた。

廃屋と周囲のミョウガやクリ、カキ、ビワの植栽樹が淋しい。その淋しさを打ち消すのが今を盛りのキショウブの明るさだ。

サイハイランの山道

地倉沼へはこの先赤い鳥居をくぐり、急登の分かり易い山道となる。まだ見ぬチョウジソウは待っていてくれるだろうか。空は晴れてはいるが昨日までの雨で沼の水量が増し、状況が悪いかもしれない。

植林のスギ林となり、しばらくはつまらない山道だ。沼へ向かうのにこんな坂を登り高度を稼ぐのはちょっと意外。水筒の冷たいお茶も減ってくる。

と、下を見ているとサイハイランだ。

丁度咲き頃の見事な姿で二本立っていた。陽の当たらぬスギ林で登山者に笑いかけてくれる。このあと何箇所も咲いていた。いずれも今が咲き頃。広島県のものより葉が細いような気がするが、花はきれいだ。満開状態、ただ群生していないので豪華さは無いが。

時折明るく伐採地が広がるが、全般的には薄暗いスギ林。あのサイハイランが無ければすっかり気分は落ち込んでいたことだろう。

鞍部に出てオニノヤガラの数本の集まりにちょっと又気をよくする。葉緑素を持たない腐生植物で地下茎がナラタケの菌糸から栄養をとることが知られている。これでも立派なラン科の植物で時期的にはちょっと早い感じだがそれなりに自然豊かな深山でしか見られない。

道が平坦になり最初の分岐点がやってきた。地倉峠だ、中国自然歩道は左の道に入り日原町の島地区に向かう。

大蛇の沼

ここは右側の地倉権現方面へ向かう。

やがてベンチがあり、眼前に水面が見えてきた。樹木の間から見えるのが地倉沼だ。まだ全貌はつかめない。いやこの時期は水量が多くて水辺に下りられないのだ。冬季には枯れると言うのは信じ難い。

とりあえずベンチ右の道を進む。

map

少し進むと篭堂が見えてくる。人家があったのか石垣が組んであった。すると前方にがさっと音がする。ヘビだ。それも相当大きい、カマクビをもたげたのが分かったが、同時にカシャカシャと尻尾を振る音がするではないか。

非常に興味を持ったが薄暗くて良く分からない。なおも逃げようとせず、尻尾の音で威嚇する。日本にもガラガラヘビがいたのか。大きさは青大将だが逃げようとしないこの態度のデカさはヤマカガシだろうか。

ともかくヘビを全然怖がらない私に見つかったのが運の尽きだったようだ。石で殺すことは簡単だがそんな可哀相なことはしたくない。早くあっちへ行けよ、とぽんと石を投げてどこかへ消えてもらおう。びっくりするくらい早い速度で飛んで行った。

ここを守っているのだろうか。

水辺のチョウジソウ

鳥居の前から見る水辺の風景にチョウジソウの姿は見えない。ならばちょっと戻り下りやすい場所から下りて見よう。

そこは澄んだ水の中にミズギボウシの葉が沈んでいた。遠くの風景は予想通り、鏡の様な水面にうす緑色の樹木が写る。

あー良かった。風も無く、波も無い。写真になる。物音ひとつしない静かの湖。ここの樹木に記念のカマボコ板をぶら下げている人も。

しばし風景を楽しんだ後、ふと我に返った。「チョウジソウはどこだ。」

双眼鏡を取り出し対岸を探して見た。どことなく青い草むらがある。チョウジソウだ。確かにある。でもそこにはボートでもないと行けないのか。

再度右手の林の中に入り時折赤テープを付けながら、青い草むらに向けて回ってみる。水が多くて足元はちょっとぎりぎりの状況だったが、何とかハンノキの林の中を回り込むことが出来た。

そして水の中に咲くチョウジソウのそばに立つことが出来た。

チョウジソウ

チョウジソウは丁字草、フトモモ科のチョウジに似た花をつけることから付いた和名。青い花はとても清楚で可憐。ここには右手の沢から次々と冷たい水が流れ込む、そんな環境が適しているのだろうか。高さ1メートル、水の中から立ち群生する。回り全部がそうだ。

それも満開状態、ああ、シアワセ。

苦労して上がってきた甲斐があった訳だ。

<鏡のような水面の地倉沼 ハンノキの下はチョウジソウ群落>

つい先日まで真冬だった沼が、今一斉に春となったみたい。水は清く早春の様相だ。

感謝の気持を権現さまに手を合わせ急いで下山する。