QJYつうしん 第101号        休日は山にいます     1998/6/18

イナモリソウの咲く   山口県玖珂郡錦町 羅漢山(1109m)

 

おすすめの登り方

  良くも悪くも羅漢山は山口県を代表する山だ。



展望の良さは抜群、自然度も十分、しかし開発も十分なされていてかつての羅漢山を知る人を嘆かせる。広島県と山頂で県境を分かつ、と言っても広島側の人には山口の山というイメージがある。

多くの人に愛され、林間学校やキャンプでは定番の山である。一般の人には春の山菜採りから冬のスキーまでいつでも登れる山だ。

また、他の多くの山頂から認識しやすい山として有名でもある。例えば呉の灰ヶ峰からでもここの山頂を確認できる。それは何と言っても、山頂にある雨雲レーダーの観測施設が目に入るためだ。

ここへのアプローチはいろいろあるが、手っ取り早く登るなら生山(なまやま)峠からのルート。しかしこれはきつい階段道で、この山の魅力を無視した暴力的ルートと言える。

おすすめはその生山峠からの登山口、NTTのマイクロウエーブ施設の駐車場に車を置き、板押峠の登山ルート(キャンプ場ルート)まで歩いて戻り登山を開始、下山は車を置いた駐車場まで下りる。これなら羅漢さまに失礼の無い山歩きと言えるのでは無いか。今回はその行程を披露しよう。

歩く事の楽しさ

さて、予定通りNTTの施設前に車を置き、約2.5キロ板押峠まで歩いて戻る。この車道を歩くだけでもいろいろな花を見ることができる。

コアジサイやヤマアジサイが咲くこの時期はいつ雨に降られても仕方が無いが今日はとてもいい天気。ウツギの白い花やノイバラを見ながらの楽しい車道歩きだ。

もともと車は少ないから歩きやすい。

黒く熟したクワの実や黄色いキイチゴは人が歩かないからたくさんあるぞ。初夏の代表的な木の実が揃っているとは。

ニガナ、コウゾリナ、ジシバリが明るく咲く。こうして歩くのもいい足慣らしでもある。

バイカツツジが可愛い花をつけていた。ネジキも花満開。ヤマトウバナなど地味な花が多い中でイチヤクソウも咲いていた。

生山峠の名の由来「雷鳴轟き、大岩を巻く大蛇の生臭い匂いから付いた」など、こうして歩くからこそ案内板で知ることが出来るのだ。

さて2.5キロを40分かけて板押峠まで戻る。ここで入る細い道は「津和野街道」だ。

シロモジが青い実をつける。指でつぶすといい香りの化粧水が飛び出す。

ムラサキシキブやノリウツギはまだまだつぼみ。「佐伯中学校学校林」の標識を過ぎ、左羅漢山の標識に従うと、右前方に雨雲レーダー、通称「羅漢ドーム」の羅漢山が見えて来た。まだまだ遠いぞ。ここはキャンプ場、もっとも現在使われている様子は無く、管理棟も廃屋になっている。

先程の板押峠から20分、1.0キロの地点だ。

花の山歩き

観察会会員の本田さんから羅漢山でイナモリソウがきれいに咲いていますよ、と情報を得た。多くの花仲間はいいものだ。せっかくならそんな目的を持って登って見たい。

イナモリソウはアカネ科の多年草で、ピンクの愛らしい花。早春の白い花サツマイナモリは錦町に多いがイナモリソウは滅多に見ない。何しろこの時期の花だとは知らなかった。

このキャンプ場までは車で入ることも出来る。


ちょっと休憩して、これから山道を歩く。標識を見ると右手を示しているが、実は左が正解。標識に誰かがそう書き込んでいる。早く修正してもらいたいものだ。

入り口には何故かモクレンの木がある。まさかオオヤマレンゲが、と誤解してしまいそうだが、良く見るとモクレン、葉についた毛虫までモクレン専用のケムシで、昔、庭にあったハクモクレンの木に良く付いていたやつだ。

ヒノキの林の中を十分歩くと「男岩」と名付けられた巨岩がある。羅漢山はこのような岩がごろごろしていて、資料によれば熱変成カンラン岩となっている。他に羅漢石、八畳岩、仏岩、竜岩などたくさんあるらしい。

アカマツやミズナラの歩きやすい山道。道に沿ってイノシシのトラクター作業の跡が生々しい。足元には幼生のシロモジが多い。

ちょっと耳を澄ませば、カッコウやホトトギスがすぐ近くで鳴いている。今年はトケン類がなかなか来ないと三瓶自然館の星野さんが嘆いていたが、どうやらここへ来て出揃ったようだ。

ちょっと遅れていただけで、その証拠にホトトギスは「シンパイカケタカ」とさかんに謝っていた。

さて、最後は急登が待っているぞ。下りに使うととても危険な坂道でちょっとホネが折れる。クロタキカズラ、サンカクヅル、サルナシなどツルが巻き付いているのはノリウツギなどの落葉樹。

イチヤクソウがつぼみをたくさん付けている。

狭い山道に沿ってササユリが姿をあらわした。初夏に咲く香り豊かな大型美人、私のつけた呼び名は「草原の女王」、貫禄十分に甘い香りをあたりに振りまいていた。

道に沿ってその香りがずっと漂う。

風もあるのだが花の香りを感じながらの山歩きは理想の山歩き。これから山頂に立つと一体何が待っていてくれるのだろう。


3本目のササユリのそばで立ち止まって休んでいて、ふとその下にあるピンクの可愛い花が目に入った。イナモリソウだ。

花の径は一円玉くらい。チマキザサの中であまり日が当たらないだろうに。

そばにはイワカガミのつやつやした葉、イヌツゲも花を付けている。ウグイスは警戒音のケキョケキョケキョと明るい声。

五つ花をつけたササユリが山道の真ん中にひときわ目立って咲いていた。チョー豪華!

うっとうしいササをかき分けて頂上がやってきた。着いたところは羅漢ドーム。

で、このドームは一体何かと言うと、建設省のレーダー雨量観測所。カバーするのは広島、山口、島根、さらに愛媛と大分の一部だ。

山頂一帯はミヤコグサやコナスビが咲く。タニウツギは細長い実を付けている。

展望やぐらの上では山口県側のロッジルートかららしい3人の先行者が食事中だ。

下山のケモノ道

下山路は20分もあれば十分だ。

あっけないが故にこの山は敬遠される。本日のルートを使えば面白いのだが、殆どの人は近道をする。近道があるのだから仕方ない。

アサギマダラ(蝶)が優雅に飛び、その姿を追っていると、前方に何か小動物が動いた。もう、確認はできないがノウサギらしい。

アカショウマが今にも咲きそう。ヤマジノホトトギスも早く咲きそう。

途中の植林地帯の中に何やら大きな動物の足跡が残っていた。ツメ跡もある。クマだろうか。少し奥まで踏み入ってみた。興味深いがこれ以上は追わない方がよさそう。

ヒヨドリバナは小さなつぼみを付けていた。そのそばにちょっぴり地味なクモキリソウ。咲き始めの貴重な一本だ。

珍しいいろんな花が今日は見られた。

良くも悪くも羅漢山。

こうして歩く距離を作れば普段見えないものも見えてくる。梅雨の晴れ間のひととき、多くの花が咲いて待っていてくれる。山が好きな人はどうもこれほど便利な山は敬遠がちだが、アプローチが多い分バリエーションも楽しめるのだ。

ぜったいこのルートで登って見て欲しい。

帰路はもちろん羅漢の温泉で汗を流そう。