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980728休日は山にいます

四国カルストを歩く(東) ギンバイソウの咲く 天狗の森(1485m)〜黒滝山(1365m)

瀬戸見の森・ナガバノコウヤボウキ

四国カルストである。秋吉台ほどでは無いにしてもそのスケールの大きさは舌を巻く。ここの発進基地は天狗荘、とてもデラックスな国民宿舎で周囲の山歩きは山野草ファンには堪えられない魅力がある。

朝一番から山歩きに出かけられるのはとても幸せなこと。但し、昼食の弁当を夏休み期間中は中止しているのが残念。おみやげ用の牛乳パンを買い込む。

真夏なのにこれほど涼しい所があるのだろうか。特に朝の気温は20度程度で肌寒い。バンガローのある駐車場から東への縦走ルートを進もう。

目覚めの悪いシジュウカラが近寄っても逃げようとしない。ウグイスや遠くカッコーの声。

登りはじめた道筋にオオナンバンギセルのピンクの花が咲いていた。秋のヌスビトハギは咲き始め、だからお馴染みネズミノブラジャー状態にはまだまだ。

30分ほどで小高い丘「瀬戸見の森」に着く。

ブナの実がたくさん転がりコゴメウツギ、シモツケが花を終わらせている。ここから瀬戸内海が見えると言うので付いた名前だが、今日はガスがかかってどうしようも無い。

山道を飾るのはナガバノコウヤボウキ、枝先に花をつける普通のコウヤボウキと比べると少し雰囲気が違う。

うす紫のソバナは気品高く、小型のテバコモミジガサは愛らしい。イタヤカエデ、コハウチワカエデ、エンコウカエデ、ウリハダカエデ、チドリノキ、メグスリノキとカエデ科が続く。

尾根筋歩きの山道は驚くほどの多様な植生に心ウキウキの幸せ気分だ。

葉の形の面白いギンバイソウが現れた。満開状態、花はいつ見てもうな垂れるのが難点。

キンミズヒキは点々と並び、テンニンソウが群落を作る。

針葉樹は昨年の石鎚山で見たウラジロモミノキだ。あまり高くなく、ここでは落葉樹がメイン。

実を付けたシロモジでここの植物区系が「ソハヤキ」である事に気づく。この四国カルストの生成そのものが日本列島の誕生と密接なかかわりを持つ。高原に群れ遊ぶヒツジの様なカレンフェルトは昔ここが海の底だった時代のサンゴ礁から出来た石なのだ。

足元には草刈りで首を切られそうになったツチアケビがぽつんと立つ。

アカシデ、イヌシデ、クマシデと揃い、ハンノキも多いぞ。花被片の反り返ったヤマホトトギスが多く咲く。おや、秋の代表花ツクシクサボタンだ。

サラシナショウマやオオバショウマがつぼみの穂を付けている。

山道は石灰岩が続き、その陰にハンカイソウやコオニユリが立つ様はどこでも見られる風景では無い。本当にここへ来て良かった、と思う。

天狗の森・シギンカラマツ

山道はウツボグサの独壇場、しかしもう終わり。咲いているものだけでもホソバノヤマハハコやクルマバナ、カキランと数え上げればきりがない。

一時間も歩けば標高1484mの天狗の森だ。

明るく開けた場所ではハンカイソウが残り、コオニユリが派手に咲く。周囲をアサギマダラが飛び交い、テンニンソウはこれからの準備で小さな穂を付けていた。

四国の植生は本州のそれとは少々異なるが、ホタルブクロはどうも同じようだ。

ウバユリは少し小さい感じがするが。

花はもう終わっているがヤマシャクヤクの葉が目立つぞ。ツリバナ、マユミはこれから独特な実を実らせる。

11時近くなるが朝しっかり食べたので問題無い。気温も低くとても歩きやすい。

シギンカラマツの白い花は何故か輝いて見える。シコクママコナ、オオバノヨツバムグラ、ハエドクソウなども。

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黒滝山・ツクシシャクナゲ

クロタキカズラと言えばこの黒滝山(1365m)で最初に発見されたことから付いた名前だ。残念ながらそれほど山らしい山では無い。ツクシシャクナゲの木が多くある。5月頃は見事だろう。

その頃はアケボノツツジが全山を赤く染める。

赤い肌の樹木が目につくようになると、東方向の縦走路は折り返し点となる。この木はヒメシャラ。大木から幼木まであるが、遠目にも良く目立つ。

ヒメシャラはこの地を代表する樹木と言っていい。四国にはヒコサンヒメシャラとヒメシャラとがあるが、ちょっとその違いまでは私のレベルでは分からない。ナツツバキより樹肌が少し赤っぽいか。

東の端からさらに1〜2キロ進めば「大引割・小引割」と言う場所もある。トリガタハンショウヅルの名のもとになった鳥形山との間にある大亀裂で、有史以前の大地震によって出来たと言われる。

今日はここまで足を延ばすつもりは無い。

足元のヒナノウスツボやオニノヤガラに見惚れていたらクロタキカズラが見つかった。本家本元の植物が見られれば嬉しいものだ。

宿舎のチェックインは4時なのでこれから散策コースのどれかを選んで山歩きしよう。天狗池と呼ばれる湿原がポイントだ。

相変わらず山道は白い石灰岩が転がる。

水音に誘われて枝道に入るとオタカラコウが大きな蕾を付けていた。そのそばに三葉が特徴的なコフウロ。ヒナシャジンも白い小さな花をたくさん咲かせていた。

朝から歩き続けて7時間、早く風呂に入りたいよー。

カルスト学習館

カルスト学習館は4時閉館だ。

それを承知で山本館長にお話を伺う。

ヒナシャジンの周りを自分が草刈りをして、貴重な植物を守ろうとしたけれど、天狗荘の職員がエンジンカッターで全部刈り取ってしまったこと。メグスリノキは三枚の葉のうち、ひとつが必ず小さいとか、ヤマトグサは一ヶ月前なら咲いていたとか興味ある話が続いた。

そして館長から近くの森の中にキレンゲショウマの自生がある事を聞き出した。

こうしてはいられない、キレンゲショウマは今日の目的のひとつだから。

その場所は学習館からそれほど離れていない場所にあった。オオヤマレンゲに実がなり、花満開のイケマが咲く。ヒナノウスツボ、オオバヨメナと珍しい植物が。あったあった、宮尾登美子著「天涯の花」で一躍クローズアップされた花キレンゲショウマだ。

小説は地元の新聞にも掲載されたそうだ。

厚い花弁と大きな葉、高山にしか咲かない天涯の花にここで逢えるとは。