QJY108
980729 休日は山にいます
四国カルストを歩く(西) ヒメユリの咲く 天狗高原〜五段高原〜姫鶴平〜大野ヶ原
五段高原のツリガネニンジン
天狗高原は天狗荘の西に広がるカルスト台地で丁度山口県の秋吉台を想像して欲しい。違いと言えばここの標高だ。1200m〜1400m、だから珍しい植生があって不思議は無い。ここのキャッチフレーズは「空に一番近いカルスト高地」。
ジャージー牛が群れ遊ぶ牧場は、その牛が食べ残したハンカイソウが大型の花を付け、6月最盛期にはすごい群落であったろうと想像される。
ここの呼び物は、何と言ってもヒメユリ。多くのユリ属と違って上を向いて咲く。「受け咲き」と言う。
今回の旅はこの花を見に来たと言っても過言では無い。
天狗の鼻のトンネルを抜け、カレンフェルトの白い岩の並ぶ草原に入ると、そこは一面のツリガネニンジンの群落だ。紫色の濃いもの薄いもの、白花まである。カヤト原の360度すべてがツリガネニンジンだ。これほどの群落は見たことが無い。きちんと輪生に咲くもの、まばらに咲くもの、葉の数が3枚あり4枚あり、個性的な植物だ。
小さい道もつけてあり、草原を縦横に歩く事ができるようになっている。
標高1456mの五段城を中心に周回コースもあり、手軽なハイキングが楽しめる。
黄色のキクはカセンソウ、秋吉台でも見られる中型キクだ。ノギランも盛り。
そして目が慣れてくると点々と赤い花が一本ずつ見つかった。小型で濃い朱赤色は一度見たら忘れられない。 ヒメユリだ。
群生しないで散らばるように咲く。匂いも無く豪華さも無いが可愛らしさでは負けない。
カルスト台地だから、あちこちにドリーネの陥没帯があり、ハンカイソウやこれからのオタカラコウの大きな葉が目立つ。
地味なウバユリがその数に負けまいと咲く。
ヤマホトトギスは中国地方に多いヤマジノホトトギスに比べると斑点が少し大きいようだ。
ウツボグサは終わり、ヒヨドリバナも多い。
草原を歩き続けるとヒメユリはその距離に応じて姿を見せてくれる。一本に一花、又は三つくらい満開状態の咲き様を見せる。全身朱赤色つまり おしべ、めしべ共に花びらと同じ色で朝の濡れた空気の中にしっとりとたたずむ。
丁度良い時期に来れて良かった。
シオガマギクがこれから勢力を伸ばすのだろう、少しずつ咲く、葉まで(浜で)奇麗と言われたぎざぎざの葉はたくさん見かける。時折、はっとするのがオオナンバンギセル、優雅な咲き方だ。
姫鶴平のカワラナデシコ
姫鶴平は五段高原から西に広がる牧場地帯。車で通過すると、ホルスタインや黒い和牛が珍しそうにこちらを眺めている。姫鶴牧場では母子の牛が丁度離されていく様子を見学できた。モーモーと子を思って泣く母牛の姿は忘れられない。
車の旅は思い付きで寄り道をすることが出来る。牧草地の開けた場所に車を停め、少し歩いてみよう。
思いがけずカワラナデシコがたくさん出てきた。五段高原には無かったのが不思議。そしてオミナエシも多い。黄色いキクはコウゾリナ。
地芳峠のヒオウギ
地芳峠はは愛媛県側への帰路になる。峠には地芳園地と言う公園があって、植生を描いた案内板にはヤマユリの絵もあったが、本当かどうか不明。四国にはカノコユリがあることは知られている。広島県ではササユリのことをヤマユリと呼ぶから、これのことかとも思えるが。しばらく園内を歩いて見たが見つからなかった。
しばらく車を走らせていると、珍しい花が自然にあったのには驚いた。 ヒオウギだ。
崖淵にもたくさん咲いている。
ちょっと草原があるとオミナエシやカワラナデシコに混じってこのヒオウギがたくさん見つかるから驚きだ。じっと地面を見るとヒメヤブランも多いぞ。
今日は遠くが見渡せるが、周囲の花に気を取られて遠景など無用。それでも改めて見るカルスト高原の風景に心が落ち着く。
ヒツジが群れ遊ぶ様に白い岩が立ち並ぶ。
ヒオウギはそれからも手の届く範囲に咲いていた。この地では普通なのか。
大野ヶ原のイヨフウロ
更に向かったところは地芳峠から8キロ離れた大野ヶ原。ここの最高峰は一等三角点のある源氏ヶ駄場だ。標高1403mの山頂は源平の合戦場となった場所、四国カルストの西の端にあたる。
四国カルストを構成する愛媛・高知の4村3町の合同のパンフレットが宿舎の部屋に置いてあり、ほとんど行き当たりばったりの計画で動く私の山歩きには良い参考になった。
源氏ヶ駄場はとてもゆるやかな山頂で登山口から30分、車をシャットアウトした舗装道路を歩く。
四国の山は石鎚山、剣山と修験の険しい山を想像するが、四国カルストだけは女性的ななだらかな優しい山である。
終始、車を置いた場所を見ながら歩けるくらいだから余程樹木が無いと思えば良い。
ここの目玉は秋に咲くレイジンソウ。5〜6月にはズミの群落の花が見られると言う。
どちらもこの時期には無理だが、今は何が咲いているだろう。いきなり目に入るのがシシウド。大きな白い花に虫達が集まる。
天狗高原ではオタカラコウをたくさん見たが、ここで目にするのはメタカラコウだ。
そしてアキノタムラソウがもううす紫の花穂を立てていた。頂上まで雑草のようにはびこっているのがイヨフウロ(シコクフウロ)。イブキフウロのように花びらの先が三裂するものも多い。
ハンカイソウ、ヤマホトトギス、イブキトラノオ、オカトラノオと見飽きるほど色とりどりの花達。
時折射す陽射しはきついが、高原の風が涼しい。ずっとこの舗装道はお花畑だ。
ヒメユリもコオニユリも咲いている。コバギボウシ、キンミズヒキ、アカバナと続く。
石灰岩地に多いヤチマタイカリソウだろう、葉が確認される。どうでもいいかも知れないがヒメジョオン、ハルジオン、アカツメクサ、タケニグサも。
頂上は急げば15分、ゆっくり登っても30分だから、出来るだけゆっくり花を楽しみながら登りたい。源氏ヶ駄場の案内が見えてくると、オレンジ色のフシグロセンノウが現れはじめた。とても大きな花びらだ。ホタルブクロやクサフジ、昨日見たヒナシャジンも。
道沿いになおもイヨフウロのピンクの花が多い。
一等三角点の山頂には真新しい祠が建立され、その周囲にはまたもフシグロセンノウが咲き誇る。
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柳谷村のカノコユリ
旅も終わりだ。
雨に悩まされることは無かったものの、すっきり遠方まで晴れ渡ることも無かった。確か四国南部は梅雨が明けていたと思うが、今年は変な天候だ。カルスト学習館の山本館長も「早く咲いたものは、20日も早かった。」と、言われた。
さて、帰路は地芳峠から柳谷村を経由してR33を松山市まで戻る。
久万町まで戻ればあと1時間で呉・松山フェリーの堀江港だ。ただ松山市内は異常に渋滞の多いところなので注意が必要。
柳谷村のR33出口付近に面白い地名があった。「合格」と言う。その合格地区手前の古い郵便局前の断崖に、カノコユリの群落があったことが今回の締めくくりだ。
四国カルストの説明をしている手元のパンフには、春はアケボノツツジ、夏はヒメユリ、秋はアケボノソウと「花ごよみ」の写真がある。