QJYつうしん 110号

1998年8月27日

県下一のお花畑、イワショウブ咲く 広島県比婆郡西城町 池の段(1280m)

新しい道路

池の段へは、熊野の大トチの前を通って竜王山方面へ向かうのが普通。それは熊野川に沿った、ミカエリソウの咲く素敵なドライブとなる。

すでに初秋の8月下旬。ここを通れば季節はずれのヤマブキが必ず狂い咲きしていて、花ドライブの足を止めさせてしまう。フシグロセンノウやオミナエシ、クズの季節だ。

しかし、新しいドライブルート、比和町総合運動公園のそばを通過する広域農道を利用するのもおすすめ。

QJY第66号で紹介した「福田頭」の下山口を通過する広い道だ。道路沿いにオトコエシをたくさん見る。オミナエシが意外と見つからない。

ところでオトコエシの語源は男飯である。男が食べる飯は「白米」、女は「粟」。つまりオミナエシは女飯、花の色の白と黄色をこのように表現した。今なら逆かも知れないが、昔はそれほど女性は虐げられていたのか。

さて、滅多に行かない竜王山は車で相当近くまで行けるので、ちょっと寄ってみよう。

ヒキオコシとゴマナの多さに驚く。道路にはオオハンゴンソウ。一度ゆっくりここも歩いてみたい。

池の段前広場

トイレのある立烏帽子駐車場広場は車が2台、この時期のハイカーの少なさを思い知らされる。

本当は花の咲くいい時期なんだけどなあ。

500mほどの取りつきの山道は、アキチョウジやヒメキンミズヒキが並んで歓迎してくれる。キバナアキギリがもう咲いているぞ。いい香りのオオカニコウモリ、秋の盛りのアキノキリンソウも準備OKだ。

崖にはヤマアジサイに代わってキクバヤマボクチが咲き始めた。

樹木は当然ブナとミズナラ、そしてこの辺りに多いコハウチワカエデとウリハダカエデだ。

ヤマジノホトトギスはもう盛りを過ぎ、アキノタムラソウやヨシノアザミに取って代ろうとしている。

そして眼前が明るくなると、ここは「広場」、ホツツジが現れた。時期的には最後の一花のよう。

ウラジロハナヒリノキや「池の段」の花形イブキトラノオは完全に終わり。天気は悪くないが、大山まで見通せる晩秋の「池の段前広場」では無い。

反戦地蔵

大好きな「池の段」は春のイワカガミ、初夏のイブキトラノオやササユリ、秋のリンドウが有名だが、この時期は一体何だろう。と、思いながらも密かに期待している花がある。イワショウブだ。

本来なら大山以北の花、亜高山帯の湿原に多い花なので、ここで見られるのはとても幸せなこと。

広場は草刈りがしてあって、名物のイヨフウロが隅っこに追いやられていた。タンナトリカブトもある。良く見るサンヨウブシと違って直立し、花柄に毛がある、そして何より猛毒。

歩きはじめるとノギラン、ネバリノギラン、マツムシソウやオトギリソウが咲き誇る。早くもウメバチソウがたくさん白玉だんごの蕾を茎の先につけていた。

オケラやツルリンドウに混じって山道左手に、あったぞイワショウブだ。良く観察すると花穂の上から順に咲くようだ。花軸は粘っこい。

周囲はマルバハギが多い。

キュウシュウコゴメグサとマツムシソウの饗宴だ。そしてイワショウブがまた群落となって現れる。

左右に目を向けていたら、いつの間にか標高1280m「池の段」山頂に着いていた。緑の芝生と吾妻山、大膳原方面の展望が素晴らしい。

山頂らしく無い山頂を過ぎ、お花畑の散策道には早いリンドウが一輪ずつ、適度な間隔で咲いていた。

先日の深入山を上回る規模のお花畑だ。

なおもマツムシソウとイワショウブが美を競う。

小さなケルンを越えると更にキュウシュウコゴメグサ、ワレモコウの群落、そして次の小ピークは小さな地蔵様。何とこの地で「反戦活動」をしている奇特な地蔵様だ。

イヨフウロがちょっとした群落を作り、もう一度振り返ると立烏帽子(1299)と比婆山御陵(1264)が優しく聳える。そう、ここに来ると何故か心和らぐのだ。

MAP

池の段湿原

さらにリンドウの小道を進むと季節はずれのヤマツツジが一輪。カワラナデシコやつぼみのヤマラッキョウが愛らしい。

今日の天気はだいたい曇りで、時折ガスが周囲を包む。足元にネジバナ、ミヤマママコナが意地を張って群落を見せる。

適度なガスはお花畑を薄いフレームで囲んで、見る物を浮き立たせてくれるようだ。

そろそろ休んで昼食をとろうとすると、見慣れないキクが何株か咲いていた。

思い出せないので図鑑を出して調べて見る。

ノコンギクの雰囲気だが中央の筒状花の部分が大きく、たくさん集まった総苞片が均等に尖がり、全体の姿もいい。

ヤマジノギクだ。センブリも小さく準備中だぞ。

左手の湿原に向かう。タンナトリカブトの群落、コウリンカの群落。

こんな貴重な二種類の花に、今更ながらすごい場所だと思う。

湿地帯には笹原を抜けて下りて行く。池の段は標高表示があるものの登山の感じは無くて、むしろ下るような気楽さがある。

見られる花はまずマアザミ、別名キセルアザミの雁首を下に向けて沼の周囲を飾る。そして期待していた花、シラヒゲソウが咲いていた。

その数もすごい。サラシナショウマやイワショウブ、タムラソウがこれでもか、と咲き誇る。

ここだけでもじっと立ち尽くしていたい場所。

季節の早い変化をススキの白い穂とその根元に咲くリンドウの濃い紫色に感じながら、汗ばんだ顔にタオルで風を送る。

終点の大岩

どんどん奥へ向かうが、終点には大岩が鎮座している。ミヤマママコナとマツムシソウは相変わらず多いが、イブキトラノオの残花、ホツツジやワレモコウ、ヤマシロギクと本日のおさらいポイント。

更にイワショウブにも見送られ、そろそろUターン。ここはダイセンミツバツツジの多い場所だ。

同じ道を返すより、ちょっと登山になるが立烏帽子山経由で駐車場まで戻ろう。

立烏帽子登山

日当たりの良い斜面は時期が時期ならアカモノの咲く登山道、だからちっとも苦しくないのを覚えている。今日も一輪だけ狂い咲きを見たが。

ウメバチソウ、マツムシソウに混じってヤマシロギクが優雅に白い花を見せてくれる。

ブナやミズナラは樹高が低く、この山の厳しい自然を見せつけられた気がする。ホツツジも残り、ワレモコウ、ミヤマママコナ、オケラ、サラシナショウマ、イヨフウロ、ツルリンドウ。

下りになると何とナガバノタチツボスミレが点々と咲いていた。驚き。

アキチョウジとヒキオコシも最後に手を振ってくれる。広島県一のお花畑はどの季節も最高の花を準備してくれるようだ。ちょっと交通が不便なのがいい方向に作用しているのかな。

今日のイチ押しのイワショウブは良く咲く年とそうでない年があるように思う。頼りない細い葉のイワショウブに来年は是非逢ってやって下さい。


[編集後記]

大田川の大芝近辺に今年もエゾミソハギが咲き並んでいる。川の沿岸を赤く染めて、一部は水没までして。向こう岸をアオサギが飛び、ジョギングの人たちが周回コースを走る。犬の散歩をさせる人、汗を流してひたすら歩く人。

こんな市内のありふれた光景にもミソハギはやはり不釣り合い。いつからこの花ガ咲くようになったのだろう。

近辺ではシジミ漁を生業とする人もいる。やはり大田川はまだまだきれいな清流の川なのだ。カメラを持って戸坂あたりまで歩くと、いろんな花にも逢える。

ガガイモ、イシミカワ、メハジキ、カナムグラ。

こんな自然をいつまでも。