QJYつうしん 118号 1998年11月27日 休日は山にいます

コナラの黄葉は棄てたもんじゃない 雨でもいいか 大竹市玖波町 傘山(650m)だから

晩秋の傘山

朝からどんよりと曇っている。 その分寒さは感じ

ない。午後から雨になるという予報があるので、降ってもいいように、その名も「傘山」に出かけてみよう。傘山は行者山の奥に鎮座する尾根筋歩きの代表的な山だ。

近くの経小屋山は山頂まで車道があり、行者山はふもとを通る山陽自動車道の騒音が気になるが、傘山までくれば静かな山歩きが期待できる。

山陽本線JR玖波駅の横を佐伯町方面に上り、しばらく走ると「谷和7キロ」の標識に従い谷和林道へと左折する。入り口のみ細いがすぐに二車線の舗装道路となる。あたりを見渡すと常緑樹と落葉樹がほどよく調和して黄葉が美しい。

傘山登山道は小さな標識が目印、錦竜公園からの北出口だ。車も数台置ける。

いきなり尾根筋のコンクリートの吹き付け階段、大竹山の会が整備した赤いプレートに導かれ登りはじめる。

二本目の鉄塔まで30分

コンクリート階段の危なっかしさはすぐに終わり、薄日を背に受けて山道歩きが始まった。セーターを着込み、手には軍手の冬山歩きの格好はセンダングサなどの「ひっつきむし」が衣服につくのが不快だが、晩秋のハイキングにはふさわしい。道幅は思ったより広く歩きやすい。

アカマツ、オオバヤシャブシ、シャシャンボ、シロモジ、ネジキと予想通りの植生。足元にはコウヤボウキ、コシダ。

5分で最初の鉄塔。ここでアキノキリンソウの元気な姿に出合う。ナツハゼの黄葉は見事だ。コバノミツバツツジは紅葉している。カマツカ、ミヤマガマズミはいかにも晩秋の来訪者のために赤い実を残してくれている。

全山コナラが多いが意外と赤くなるようだ。コナラと言えば茶色い黄葉を想像するが明るい黄色から赤っぽいものまである。

関先生が恐羅漢あたりのコナラの黄葉は棄てたもんじゃない、といつも言っておられた。

右手にちょっとした岩。尾根筋歩きだから左右の風景が良く見渡せる。このあたりの山らしい岩峰の多い山容だ。

ヤマウルシの赤、アセビ、ヒサカキの緑、これぞ「調和」。道のどちらかにコシダが続く。

コナラは相変わらず多い。

一口に黄葉と言ってもこれほど変化が多いのか。中には緑っぽい黄葉があるぞ。近寄って調べてみる。木肌の様子からこれはアオハダだ。ひっかいてみると濃い緑の薄皮。

振り返ると行者山を超えて遠く大竹の工場の煙、太陽が曇り空の中に白く光る。身体が暖まって軍手が邪魔になってきた頃、二本目の鉄塔の下まで来た。

亀頭岩〜第1、2ピーク〜反射板まで1時間

山の会の赤プレートに従い進む。

アラカシ、シキミ、サカキの常緑樹は多い。岩の割れ目にシュンランの細長い葉。

左手に亀頭岩が見えてきた。割れ目が口に見える、目は誰かが丸く墨で描いている。ここでとうとうセーターを脱ぐこととしよう。

ついでに心落ち着く「和菓子とお茶」タイム。

カマツカの紅葉と常緑のタブノキ。おや葉の細いホソバタブもあるぞ。リョウブ、シロモジは黄葉、イヌツゲが膝の高さにあり、アカマツと併せまるで日本庭園の中を歩いている感じ。

最初のピーク(標高526m)は休憩から30分後だ。ここから見下ろすと点在する黄葉の広葉樹木がとてもきれいだ。

ここもコナラが多い。のんびりした山歩き、寒くないがその分今にも降り出しそうだ。

第2ピークを過ぎ道の上にヘビ皮やテンの糞が見つかる。ハイノキ、ヤブニッケイの道は良く人が歩いた形跡がある。

さらに進めば第3ピークとでも言おうか、中国電力の反射板があり、その右を回り込む。

map 

ウラジロノキの木の下で、山頂まで20分

急坂を下るとたくさんのイワカガミの葉、つやつやして大きい。オオイワカガミであろう。

するとまだ山頂ではないが右手に大岩の展望台が突き出ていた。ヒノキに囲まれたここから見下ろす光景は見事。526mピークでの感激を再び味わう。緑の中に黄葉樹木が点々と散りばめられ、鮮やかでは無いが広範囲な黄葉の俯瞰は日本の秋の代表的風情だ。

河平連山がすぐそこに見える。

リンボク、コアジサイが多く出て来る。ハイノキも見つかった。シロモジ、ヤマモミジ、当然コナラは渋い黄葉を見せてくれる。

初めて深い森が現れた。タムシバの葉を口に含み急坂を登ると三等三角点のある山頂だ。反射板から20分。しかし樹木が少々邪魔で、昼食と展望のためなら5分先の同高度の展望ピークがオススメ。腰掛けるのに丁度良い大岩があり、おりしも赤い実がたくさんばらまかれていた。

直径8ミリ程度か、表面にぶつぶつもある。ひょっとしてウラジロノキ(バラ科)か、と思って枝先を確認するとコアジサイやケヤマハンノキに良く似た特徴有る葉が残っていた。正解。

ぽつぽつと冷たいものが肌に感じられる。

急いで昼食とし、ここまでもってくれたことに感謝しつつ先を急ぐ。下山ルートは折り返さずこの縦走路を先へ進む尾根筋ルートが良いだろう。

アンテナ設備があり太陽電池が空を向いていた。山頂でこれを見かけたら電池の方向が真南だということを知っておくのもいいだろう。

下山は本降りに

これから1時間かけて尾根筋を下る。

ここまでの山道と異なり滑りやすい急坂。しかしここまでと同じくコナラの落ち着いた黄葉路。

谷筋道への赤プレートがあるが直進しよう。アップダウンはあるものの道幅もある程度あるので歩きやすい。いつのまにか傘をさして歩いているが、その傘があたることは無い。

シロモジやコシアブラが優しいうす黄色の黄葉だ。タブ、クロキ、リンボク、クリ、ウラジロノキ。

ヒメヤマツツジだろうか3本ばかり咲いていた。

空の色は意外と明るいが、降り方は本降り。傘山で傘をさすのも一興か。

谷和林道までの1時間の下りは楽しい山道だった。舗装道路に出てからのほうが良く濡れてしまった。車を置いた場所までは15分下る。

下りながらポケットの車のキーを探すがなかなか見つからない。とうとう着いてしまった。

あれ、キーがドアに付いたまま。


【編集後記】

幼い頃の思い出に「ご飯の香り」がある。

私の家は食堂をしていた。おおきな釜で炊いたご飯は業務用のおおきな「おひつ」に移し替える。そのお櫃を入れていた縄で編んだ保温器具の蓋を「よっこらしょ」と持ち上げて、豆ご飯をよそう時の幸せな香りを未だに忘れない。

縄の香りだったのかも知れない、ご飯をやさしく包む湯気の香りを忘れないのだ。でも残念ながらその物の名前を知らなかった。

先日、ある人がその保温器具は「ふご」という物だ。と、教えてくれた。同時に「ふご」を知っている人に初めて会ったと。

母に聞いて見ると確かにそれは「ふご」だった。九州から行商に来た人が天秤棒に担いで売りに来たのだそうだ。

辞典で調べてみると「ふご」は畚と書く。意味はわらで編んだ、物を入れるかご、もっこ。

電気釜の時代にはもう見ることの出来ない器具だ。「ふご」という言葉を聞くことも無くなった。今初めてその名を知ったのにその名を口にすることも無い。