休日は山にいます 990307

春の雨はとてもやさしいね 一等三角点のある 岡山県笠岡市 真鍋島

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ルーツを求めて

アレックス・ヘイリーが「ルーツ」という小説でデビューしたのは20年以上前のことだった。

ただでさえ、好奇心旺盛であった若き真鍋青年は自分のルーツを探るべく、姓と同じ名前を持つ瀬戸内海の小島に少なからぬ興味を覚え、そこを尋ねる決心をしたのは、30年前のこと。

瀬戸内海のど真ん中に真鍋島という島があることはうすうす知ってはいた。父親から聞かされた「先祖は海賊」という話も。

会社の入社歓迎のレセプションが東京で開かれた時、たまたま隣の席に座った女性が、「真鍋島」に良く行くと言ったのがきっかけであった。

当時の真鍋島はアンアン・ノンノなどの雑誌で結構有名で、それは冬は暖かく島全体が花卉栽培で生計を立てていて、美しい花の島としての観光、夏は瀬戸内海のど真ん中として、プライベートビーチそのままの浜辺のユースホステルがグラビアを飾っていた。

そしてただ1軒の真鍋氏宅(郵便局長)へ伺い家系図や、先祖の話を伺ったものだった。

あれから四半世紀、今では同じように尋ねてくる全国のまなべ姓を名乗る人達が自然に集まり「全国まなべ会」を結成し、私のような一般人から国会議員(環境庁長官)までもが会員として島を中心に友好の輪を構成している。

三年前広島で全国大会が開かれ、昨年は香川県が幹事役をして第18回の全国大会であった。

姓名の規模はマイナーでも組織の大きさ、つまり名字会としては全国一である。

ふれあいパークから宝塔(まるどうさま)まで

笠岡からの高速艇が真鍋島港につくと、大きな看板に全体地図が掲げてある。「5月から11月は花はありません」と書いてあるのは印象的。実際この島の主幹産業は冬季の寒菊栽培なのだ。

それゆえ、花の真鍋島として有名になった。映画「瀬戸内少年野球団」のロケ地として、200ヶ所以上の候補地から選ばれたのがここ真鍋島なのだ。また昔ながらの漁村の古い家並みは、暖かい懐かしさを感じる。

さっそく真鍋島港・切符売場の二階にある「ふるさと村資料館」(無料)を覗いておこう。郷土の古い道具などが展示してある。

我がまなべ会の真鍋礼三氏宅にあるホルトノキが郵便局の裏に見える。この島ではイワタイゲキの花と並んで笠岡市の天然記念物となっている。

この日は、絶え間無くしとしとと雨が落ちる最悪の日だったが、あちこちにシュロなどが植えてある暖かい島だけに、その雨さえやさしく感じる。

港から右へ進むと天神鼻の展望台が待っている。この島に自生するウバメガシはたくさんのドングリを道に落とし、トベラは乾いた実を開いていた。道端にはナズナやホトケノザが満開、咲いてはいないがツクシキケマンらしき群落も見る。

天神さまの境内にはオオバヤシャブシが早くも雄花を垂らしていたのには驚いた。

この展望台に来れば、ひねもすのたり、のたりなのである。なにより海がとてもきれい、瀬戸内海のど真ん中、ここが汚れたら日本もオシマイ。

真鍋島

すぐそばには、四季の花が咲く「ふれあいパーク」があり、今はナノハナ、スイセンが花盛り。

アキニレ、ハゼノキ、アカメガシワ、ウバメガシ、トベラ、アベマキと白い札で樹木の名前を記してあるのも岡山県指定ふるさと村の所以か。

特に真鍋島は野鳥の多いことで有名で、こうして歩いていてもジョウビタキ、メジロが目の前を横切る。すぐ近くで「ホーホケキョ」、と確かな声で春一番のウグイスが鳴いてくれた。

この「野鳥の森」を過ぎ、桜並木と熱帯植物園跡の奥には、我が真鍋会の記念碑もある。ちなみに私と父の名前を入れた石碑も立ててある。

ここには県重要文化財の宝塔(まるどうさま)という、源平合戦で敗れた真鍋氏を弔った慰霊碑らしき塔が奉ってある。

山の神から三虎ユースまで

笠岡の三洋汽船の事務所でもらった「まなべ島観光案内図」によると、熱帯植物園跡あたりから見る夕日が素晴らしい、とある。

夕日だけでなく、島の人の人情も素晴らしいと私は思う。出合う人たちが皆気軽に挨拶を交わしてくれる。植物園の前を引き返していると、女の人が「寄っていきませんか?」と声を掛けてくれた。うれしい島である。

あらためて周囲を見ると、先日西表島の由布島で見たモクマオウやフェニックスの大木がある。

山道は相変わらず手製の樹木名の札が掲げてあり、即ち遊歩道を歩いているという実感にもなる。道を間違えていないわけだ。

一概に島の道は案内が不親切だ。しかし、島ほど安心して歩ける山歩きは無い、とも言える。

山歩きは知的なスポーツだ。地図と立て看板を頼りに初めての山道に挑戦することは、適度な緊張と達成の喜びがある。 

120.74mの西の山頂は「山の神」と呼ばれ、民間信仰の対象になっている。それより驚くことは、ここに一等三角点があること。岡山県13のうちのひとつがこれほど低い山だとは。もっとも、鳥取県倉吉市の天神野は52mだから、三角点は高さでは無いということ。(第121号参照のこと)

山の神を後にし、南浜の三虎ユースまで進む。相変わらず遊歩道は歩きやすく、整備されている。何より、道に沿って「四国88ヶ所」「西国33ヶ所」を模した地蔵さまが道中を見守って下さる。

ナナミノキ、アラカシ、シャシャンボなどは明るい常緑樹だ。マルバウツギもあるぞ。

山道を下ると、なにやらいい香りの枯れ葉を踏んでいた。大木で樹皮がはがれている、細長い葉、ユーカリだ。並んでヒメウズの幼葉も多い。海岸性のトキワススキやダンチクが豪勢に立つ。

島にはつる性植物が多いが、サカキカズラの実がたくさんなっているのは見事だ。

ナワシログミ、ハリエンジュ、イヌビワの林を抜けると、右手に白い船を改造した三虎ユースホステルが見えてきた。昔はここによく泊まったものだ。御夫婦と子供が寅年でこの名前をつけたとか。

周囲には寒菊、電照菊の畑。

ホトケノザが春満開の群落を作る。ウバメガシはずっとこの島を代表するように生えていた。

海辺に下りるとツルナが多い。ハマダイコンはもう咲いている。切り花用か、サンカクバアカシヤに黄色い穂がついていた。

なんとも植生の豊かな島だ。瀬戸内海の暖地性、海岸性の植物相がここに凝縮されている。

城山と城山(じょうやまとしろやま)

真鍋氏は海賊であるから、この島の見晴らしの良い山頂から海を見張っていた。

寒菊の畑の間を抜け、お地蔵さまに見守られながら尾根筋を東に向かう。最初の山が城山(じょうやま)、山頂には石垣も残る。

キジが鳴きながら飛び立った。

さらに東にあるのが城山(しろやま)、ここも絶景の展望台だ。なんとも心おちつく風景。

岩坪の港に下りると、湾岸の舗装道路を歩いても車は走っていない。田舎だもんな。いや、たくさん軽トラが置いてあるのを見るのだが、どれもナンバープレートが無い。全部倉庫代りか?後ろからバイクが通り過ぎて行った。ややっ?これもナンバーが無いぞー! おいおい。

帰りは島のおみやげ「寒菊」を買って帰ろう。昔から一束100円だったが、今も同じ値段で港に置いてあった。

別に、名前が真鍋島だから薦めるわけでは無いが、あなたもこんな時間の止まった島に一度来てみませんか?寒い頃が最高ですよ。