休日は山にいます 990321

雪の山歩きで花に出合う 春一番の 島根県大田市 大江高山(808m)

QJY125

飯谷バス停からの登山

 芸北町の雲月山や天狗石山あたりに登ったことのある人は覚えているだろうか。山頂から北東に見えるラクダのこぶのような山、これが大江高山だ。三瓶山の人気に隠れて、意外に登る人が少ない。交通の不便さや急登の厳しさもその原因になっているようだ。

 広島市内からだとR261を大朝町から島根県川本町因原まで進む。江の川を渡って直進すると7キロで交差点があり、大家方面に右折、狭い道を進むと川沿いに下谷温泉を通過、町並を右折し左に大江高山の勇姿を見ながらバス停を探す。

 この時期にこの山に登るのは、ある花の写真を撮りに行くためなのだが、お彼岸の今日はどうも天気が良くない。

 今日のコースは飯谷バス停から登り、らくだの背を西に歩き、山田バス停まで下る縦走ルートだ。従って、車はどこに置いても同じこと、でもできるだけ下山路に近いほうが気分的には楽かもしれない。

 一周歩きができる山、特にきつい山ほどしばらく足を慣らすためにも、長く平地歩きができたほうがいいのだ。

 車で走っていて、道端のフキノトウやツクシが目についたので、下山路近くの県道わきに車を置いてみた。民家のそばを歩いていると色んな人が声をかけてくれる。「山に登るんですか?今日はあまり見晴らしが良くないよ。」

 どうでも良かったのが後ろから来たパトカー、「あのパジェロはおたくの車ですか?現金は置いてないですよね?」。

 実は目立つ場所に停めるのも盗難防止のコツなんだけどね。

 出発はやっと11:10だ、広島を出て2時間半かかるのは三瓶山に行くのと同等の距離。

 ふたつのバス停には山の案内を書いたパンフレットが箱に入れて置いてある。道は一本で間違えることはなさそう。山で花の写真を撮る場合、意外にふもと近辺にたくさん咲いている。ピストンで登下山するなら奥の神社の駐車場に車を置く。

 その登り口の八代姫命神社では7〜8人がちょうど春の祭りの準備をしているところだった。

 「もう昼なのに、これから登るの?」「今日は雪で無理だよ。」、ここまで来て帰るわけにはいかないんだけどさ。

大江高山

急登の山道

 神社の周囲にミヤマカタバミなど早春の花が並んでいた。スギ、ヒノキの植林がどうでも良いが、足元にヤマエンゴサクの可憐な花を見ると、何だか嬉しくなる。

 神社の上にやっと登山道の看板が見えた。

 ヤマアイはつぼみ、スズシロソウは白い花を見せている。植林のスギがこれから登る急坂の手助けをしてくれる。つまり余りにも急なため、掴まって登らないと滑るのだ。この傾斜は結局、山頂まで続く。一級品の難所がずっと続く。

 この山の、春の名物はギフチョウとミスミソウだ。なるほど、蝶の食草ミヤコアオイが小さな花をつけ、まだ咲いていないがミスミソウやイカリソウのかわいい葉も確認できる。

 おや、タヌキの溜めグソもあるぞ。

 一歩一歩が滑りやすくとても危険だ。これは、下りには利用できない、と見た。

 大砲岩を左に見る開けた場所には、見事にダンコウバイの黄色い花が群落を作り満開だ。

 前夜の雨が火山灰の黒い土をますます滑りやすくしてくれる。山道に白い雪が目立ち始めた。ヤブツバキも多く、落ちた花の赤と白の対比が面白い。雪の中にタチツボスミレやシュンランが花をつけていた。おお、寒そう。

 場所を特定することは避けるが、案内パンフレットにもあるイズモコバイモはたくさん見ることができた。冒頭で「ある花」と言ったのはこの花。

イズモコバイモ

 「山頂まであと100m」の看板、これはもっとこまめに表示して欲しいものだ。

馬の背の縦走

 山頂までは神社から1時間半程度だったが、積雪と滑ることへの注意でもっとかかったように思う。大き目の石標は一等三角点だ。はなれた所に「登山記録帖」も置いてあった。最近の記録は鈴が峰の人の3月17日・晴れ、というのがある。

 うらやましいなあ。見晴らしの良い山だが今日はガスがかかって360度と言われる展望は無理。

 これから西のピークに向かう。やっと普通の楽な山歩きができそうだ。30分の馬の背歩き、いやこの山を「らくだのこぶ」と表現しておいて「馬」は無いか。

 ブナがたくさんあるぞ。カンスゲの花は花粉を撒き散らし、トリカブトだろうかキンポウゲ風の葉が多いようだ。相変わらずミヤコアオイが目につく。

 先ほどまでの急登で、何だか足がだるい。

 西のピークは779m、ここも素晴らしい展望のはずだが、今日は降られなかっただけマシと思わねば。これからの下りも少々苦戦を強いられるが、飯谷へ引き返すことを思えば楽勝。

 ガスがかかっていても雪の白さで気分は明るい。気温はそれほど低くは無いのでちゃんとレインウエアーを着ていれば問題無い。

 6合目付近で「ご苦労さま」の看板が立ててあった。大江高山についてや地元の祭りの時期の案内まで書いてある。

 見下ろせばダンコウバイの花、そしてコタチツボスミレの花の群落、おや、この白いスミレは?葉がエイザンスミレのように細いが、赤紫色の花びらではない。久しぶりに見るヒゴスミレだ。

 道に雪が少なくなってきた。落葉樹から植林に変わりそれが竹林になるあたりでは、なぜかオモトが赤い実をつけていた。「ドドドド・・」はヤマドリの羽音、へたくそなウグイスの声。そう言えばウグイスカグラも咲いているぞ。おっ、倒木にシイタケがびっしり生えていた、もちろん戴いて帰ろう。

 日当たりが良い場所ではナガバノモミジイチゴが白い花をつけていた。その地面にひっそりとイズモコバイモが再び現れた。コバイモは「小葉芋」では無く「小貝母」と書く。ユリ科バイモ属コバイモ類に分類され、チゴユリを大きくした感じの素晴らしい花、下を向いた花びらに小さなたて筋が入って、図鑑ではホソバナコバイモに近縁かと思う。細い葉の緑が美しい。

山田バス停への下山

 広い場所に出て、振り返ると頂上がすっぽりガスに隠れた大江高山の姿があった。大山まで続く火山帯を形成し200万年前に出来た休火山と言われる。

 平地ではカキドオシがかわいい花を見せていた。ネコノメソウやハコベ、タネツケバナも。本来なら使うはずだったこちらの登山口の駐車場(10台くらい置ける)を過ぎ、民家にさしかかると黄色いラッパズイセンが庭先に咲いている。

 あとは舗装道路を県道のバス停まで出よう。

道端にはたくさんのツクシ、フキノトウ、セリなど。そう、収穫はたくさん。この辺では誰も採らないんだなあ。

一山全体をミツマタ畑にしている農家もあった。黄色いぼんぼりの花満開で、写真になる。

 何とか、ひどい雨や雪には遭わなかったが、一口に言って「きつい山」である。特に足元が滑りやすく、傾斜も急で、今日の逆コースは薦められない。

 さあ、山田バス停の自販機で缶コーヒーを買って、温まろう。帰路の石見町では香木の森に寄って「いわみ温泉・霧の湯」(¥600)につかり、ついでに夕食も済ませることとした。

 雪山でこれほどたくさんの花に歓迎してもらえるなんて、楽しい一日だった。

 もう春だぞ。