990417

この時期にはこの花… ヒトリシズカの咲く頃 東城町 帝釈峡

QJY126

帝釈宇山・高尾さん宅

東城町の仕事と言うことで、私に行かせてよと頼んだ。交通費はバス代しか出ませんよ、と言う。それはそうだ、軽い仕事で緊急性も無いからマイカーは認められない。でもこの時期の帝釈峡に咲く花をタダで見られるなんてラッキーなこと、寄り道を計画して早朝の出発だ。

町役場の担当者は東城町小奴可の出身だ。有名な千鳥の桜がどれくらい咲いているか訊ねてみた。「まだまだ、咲くのは今月末ですよ。」とのこと、寒い地方はやはり違うんだなあ。

そう言うわけで、昼前には仕事を済ませ予定通り帝釈峡に向かう。

その前に、高尾要さんの家に寄ってフクジュソウを見せてもらうことにしよう。

3月になるとテレビ、新聞で有名な高尾さん宅のフクジュソウだが、実は4月に入ってからしばらく見ることが出来る。いや、一面咲き乱れるさまは4月に入ってからの方がいいようだ。

この日、ご夫婦とも家におられて、「こんな大きな花をはじめて見たよ。」と見せて下さったのは直径6センチの大型フクジュソウだった。周囲にはタチツボスミレ、アマナがたくさん咲く。もちろん一面黄色のじゅうたんが広がって素晴らしい光景だ。

ひっそりとした帝釈峡

丁度、昼になったので上帝釈の入り口にある弥生食堂でうどん定食でも食べるとしよう。ここのうどんはとてもおいしいので有名。

連休の頃は大勢の人でごったがえす帝釈峡だが、2週間前の今日はちょっと寂しい。

歩き始めるとキブシが花穂を垂らしていた。足元にはタチツボスミレ。

そうだ渓流に下りてあのスミレを探そう。

まだ学名も付いていないと言われるケイリュウタチツボスミレだ。冠水するくらいの岩場にしか咲かないとはとても不思議だ。

あったぞ。コタチツボスミレのような小さな葉、花は普通のタチツボスミレよりちょっとスマート。水際の条件の悪そうな場所で咲いている。

今日は最初からいいことが続くぞ。

連休中は白雲洞の前のオドリコソウの群落が印象的だが、今は草丈も低く、小さなつぼみしか見えない。当然、ヤマブキソウなど全く見えず。

「鬼の唐門」の中はミスミソウが終わり、ヤマアイ、カテンソウ、フタバアオイなどがこれからと言うところだ。ミヤマイラクサも姿が無い。あと2週間でチドリノキが芽吹き、景色が一変することだろう。

と、下を見ると小さな花がひしめいていた。

そうか、この花はこの時期にもう咲いていたのか。地味なネコノメソウの中にあって、白い花と赤い葯がかわいいシロバナネコノメソウだ。道端一面に咲いている。そして可愛いユリワサビも。

再びサイクリングロードに出ると、絶え間無く続くのはアブラナ科のスズシロソウの群落だ。スズシロは大根のこと、白い帯が今日一日ずっと付き合ってくれる。

帝釈峡

犬の散歩の夫婦

右手の流れの淵から這い上がってくる人がいた。「手を貸しましょう。」どっこらしょ、と道路に上がって来た初老の男性は「カワセミの巣を見つけたので…。」と言う。「それは、覗かないで下さい。」と言うと「そうじゃね。」と素直に応えた。

前方に奥さんと犬が散歩中だ。

とても植物に詳しい人で、戦時中に口にした山菜の話をして下さった。「カタクリは抜いても根が必ず土中に残るんじゃ。天ぷらにするとうまいよ。」などと面白い話。「帝釈峡のカヤを良く見てやってくれよ。これほど直立したカヤはめったに無いよ。」

なるほどカヤはたくさんある。どれも大木で枝の張り方がいい。こういう樹木の見方をする人は恐らく、もと先生であろう。

しばらくこの人と植物の話をしながら歩く。

イチリンソウ、ニリンソウがたくさん咲いている。でも一番多いのはスズシロソウ。

雄橋まで歩いて来た。水の中にカワガラスが一羽遊んでいた。潜ったり、川辺を忙しそうに歩いたり。そして雄橋の天井の穴の中に入っていった。中からギャーギャーとヒナの声が…。そうか、遊んでいたんじゃなくて、エサを探していたんだ。

山の斜面にバイカイカリソウやヤマルリソウが可愛らしい。ほとんど落ち葉の積もった中で、春一番の花たちが咲き誇り、モンシロチョウが踊るように飛んでいる。

雄橋を過ぎるとヒトリシズカがたくさん現われた。そう言えば、連休ではいつも終わっていたんだ。

キケマンも咲いているなんて。

樹木はさすがに目覚めが遅い。ウグイスカグラは花を付けている。本当はヤマトレンギョウが咲いているのを見たかったのだが、昼から来たので長居は出来ない。

カタクリ、本日の代表花

断魚渓まで来るといつも休憩所を利用する。ふと斜面を見上げるとうす紫の大きな花が、カタクリだ。こんな所で出会うとは。

チドリノキがたくさんある場所だ。

20本くらい咲いている。群生地と違って、華やかさは無いがこの花を見るととても嬉しい。

その場所から奥へ進むと白いスミレに出合った。葉の色が茶色く焦げたような、そうヒカゲスミレだ。今日は最初のケイリュウタチツボスミレとオオタチツボスミレ、タチツボスミレと見て来たが、ここで初めて地上茎の無いスミレに出合う。

ヒカゲスミレ

名前はヒカゲでも割と日当たりの良い場所に咲いているのは何故だろう。

さらにヒトリシズカを多く見る。

マスの養魚場前にはセイヨウタンポポが花盛り、植えてあるのだろうハナズオウはまだつぼみのままだ。初夏に咲くヒレアザミなどは影も形も無いぞ。

そしてここで通行止めになっているのは残念な限りだ。先ほどの役場でこの情報は仕入れていたが、落石の危険があり開通することはないだろう。

代わりに対岸に渡って新しい道がつけられていた。お陰で大好きな場所がずいぶん荒されている。連休頃はホタルカズラの多い所だ。そして今はミスミソウがまだ残っている。清楚な花、ここのミスミソウは葉がちょっと斑入りで、花びら(正確にはガク)の数が多い。そしてヒカゲスミレも多く見る。バイカイカリソウやタチツボスミレも。シロバナネコノメソウやスズシロソウは途切れることなく続いていた。 あたりの景色はまだまだ冬のまま、それでも確実に春の花が咲いている。次の週末、さらに次の週末、と野の花は週替わりの定食みたいに次々咲き乱れることだろう。

季節の移ろいに戸惑っているのは人間ばかりだ。いつも「気がつけばもうこんな季節」、と決まり文句の挨拶言葉。小さなカナヘビもモンシロチョウも元気いっぱい「春」を過ごしているのに。

先月末に一週間沖縄で遊んでいたHさんは、本土に帰って来たらもう桜が咲いていた、と浦島太郎の気持ちになったと言う。じっとしていたら気づかないままに季節は進んでしまう。

気持ちをもっと鋭くしよう。季節のメッセージを注意深く読み取ろう。

The season turn、turn、turn…

と、昔流行った歌が聞こえる。


【編集後記】

ヒメニラ

久しぶりに総領町に出かけてみた。キバナノアマナの写真を撮っていると、どこかで見た人が寄ってきた。灰塚ダムの工事関係者の作業服を着て…。「あれ、桑田先生、その格好は…。」

灰塚ダムの失われる植物を守って下さっている、桑田健吾先生は今、建設省の依頼を受けて植物の保護調査をしているのだそうだ。ま、いろいろお考えも有るのだろう。

雑草の中に珍しいヒメニラが咲いていることを教えて下さった。目立たない小さな花、雌雄異株だがここでは雌株ばかりなのだそうだ。