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イカリソウとスミレの山道 伝説と展望の 小五郎山(1162m) 山口県錦町

QJY127

伝説の山

バス停のある向峠から見上げる山が、てっきり本日の目的地「小五郎山」だと思っていた。実際はもっと奥の、そのまた奥の、山登り気分が満喫出来る雄大で素晴らしい山だった。

小五郎山の伝説は、の名馬「竜の駒」を献上せよという命令に背いた罪で、息子の小五郎が京都四条河原で処刑されたことによる。それを知った重氏は愛馬もろとも長瀬峡の深谷川に落ちたという。深い歴史を背負った山だ。

この伝説がそのまま山名の由来なのだが、もともとは宇佐ノ岳という名があったそうだ。

登山口の記帳箱には先客の何組かの名前が入っていた。中には三次の労山の24名も。

歩き始めると、林道がしばらく続く。ウリカエデやクロモジが今を盛りの花を付け、タラの芽が早く採ってよ、と立ち並んでいる。タラの芽とコシアブラを今晩のおかず分くらいは確保できそうだ。

ナガバノモミジイチゴの白い花がうつむきかげんに多く咲く。イヌザンショウのトゲトゲとアカメガシワの赤い新芽が春爛漫に輝いている。

少し歩くと、四境の役にまつわる「隠れ家」の跡が立て看板に記してあった。重みのある伝説がここにも残されていたのだ。

つづら折れの山道

15分ばかり歩けば、林道途中から右手に山道があるのが分かる。小さな標識と樹木に巻かれたテープが目印だ。

ガレ場の林道から一転して山らしい道になり、ほっとする。足元の草花が一気に豊かに咲き始めた。タチツボスミレ、ウラジロイカリソウ、シハイスミレなど日当たりの良い場所で咲く。

ヒトリシズカがもうおしまいよ、と葉を開いていた。コガクウツギのつぼみ。階段の無い山道だから、咲いている花がとても自然に見える。

先ほどからずっと続く、ミツバツツジの赤紫色の豪華な彩りを、やっと身近に見られる場所があった。どうやらダイセンミツバツツジの様だ、ちょっぴり濃い赤とつやのある葉。

アゲハチョウがうれしそうに飛び回る。

少々のヒノキ林はあるものの、ほとんどが広葉樹林で林間が明るい。奥に入っていけばもっと貴重な植物が隠れているのかもしれない。

サルトリイバラが黄色い花をつる全体につけている。フジの花芽がユーモラス。一本足の傘のオバケ-ヤブレガサなのだろうか、雰囲気は冠山のニシノヤマタイミンガサらしき傘が開きかけている。

ヒノキ林も少しあるが、山全体はアカマツの二次林のようだ。低木はクロモジ、ダイセンミツバツツジ、林床にはまだ出たばかりのチゴユリの群れ。

スミレはタチツボとシハイの二グループだ。シハイの葉の裏はそれほど色が濃くない。最初はコスミレかと思った。

ゆったりした山歩き

細い山道の両側にはチマキザサだろうかササが多くなってきた。小五郎山はササの多い山として知られていた。

どちらかと言うとヤブコギの山として。

しかし思ったより山道は整備されている。定期的に草刈などが行われているのだろう。

遠くからツツドリのホホ、ホホ、ホホ…が聞こえる。もう初夏なのかな。

歩き始めて一時間も経っただろうか、気がつけば周囲はブナの森になっていた。ただ新緑のブナには今一歩の感じで、まだまだ冬の枯れ木の状態だ。

道をふさぐように横になった、アベマキの下をくぐるとシュンランが春の花を咲かせている。ついでに地面を良く見ると、ミヤマウズラの葉、ササユリの葉が夏を待っているのが分かる。シハイスミレ、イカリソウは先ほどから切れ目無く続く。

タチツボスミレの多いあたりで下山の男性とすれ違った。「もうすぐでしょうか?」「いや、まだまだですよ。」お世辞でもうすぐと言って欲しかったが、まだ、急坂がふたつはあると言う。やれやれ。

しばらく気持ちの良い林間の山歩きを続けると、ちょっとした休憩しやすい広い場所に出た。ここで早いけど腹ごしらえをしよう。

出発点の向峠から見上げていた山塊は十王山(873m)で、小五郎山はやっとこの先に存在する。

眼前に急坂が控えているぞ。何組かが下山して来た。皆リュックに鈴をつけている。

座り込んで昼食をとっていると、急に冷えて来た。しばらく暖かい日が続いたが、今日は風が冷たい。水筒のお茶がおいしい。

モミノキの大木が目立ち始める。

ツガやカヤも。

小五郎山

きれいに草刈されたササ原の急坂を登っていると、去年の穂をつけたイチヤクソウが数本見つかった。だいたいこの花があると相当自然度係数が高いと思っていい。

「もうすぐ山頂、うまいビールを飲もう」

うれしい案内板が掲げてあったが、今日はちょっと寒いんだけど。

高度も相当稼いだようで、冬枯れの山道にソヨゴ、アセビなど常緑樹が目立つ。少しなだらかになってクロモジ、ウリハダカエデの山道の足元には、山頂近くなのにフモトスミレが多くなった。

山頂の展望は…

ササ原の尾根筋にウグイスの声が響く。

ここで24人にすれ違った。そう言えば記帳箱の駐車スペースには一台も車が置いてなかったが、皆どこに置いているんだろう。

残念ながら先ほどからガスが濃くなって、展望はきかない。結局2時間以上かけて山頂に着いた。これほど奥深い山だとは思っていなかった。登り口より1ヶ月くらいは季節が後戻りしたような山頂。さぞかし晴天なら、展望は素晴らしいことだろう。

木の形などからヤマボウシ、マユミを連想する。

相変わらず、じっとしていると寒くなってきたぞ。後続もつぎつぎやってくるのは、さすが人気のある山なのだろう。

広い山頂は先ほどの24人がいても十分休める。地図を取り出すと、恐らく見えたであろう羅漢山、寂地山、冠山などが想像できる。

昼食を済ませておいて正解だった。身体が冷えないうちに下山しよう。

下山は階段の無い山だからスムーズに歩ける。

地面が濡れていれば滑りやすいかもしれないが。リュックを下ろした背中に吹く冷たい風とはうらはらに、ウグイスの春の声が耳に優しい。

カタクリの里と雙津峡のサツマイナモリ

頂上から先に進んで右谷山への縦走をする人もあるそうだ。間違い無くヤブコギを強いられる。

下山して六日市町樋口にある「カタクリの里」に寄ってみた。すでに花は終わり実ができている状態、近所の人も「ここは3月終わりから4月初めに咲くよ。」とのこと。ずいぶん早いんだ。5月連休に寂地山や大山などで見るのに。

さて、予定通り向かうのは雙津峡温泉。

寒い山のあとはこれに限る。いつも楽しみにしているサツマイナモリの群落は少し遅かったようだが、十分楽しめる量が咲いていた。かわりにミツバツツジの花はもう見られない。

ここの温泉は料金が安い、一人300円。

帰りは岩国方面から帰ることとしよう。


【編集後記】

会社をやめて、みかん農家を始めた人がいる。又聞きだが、和歌山県新宮市での話。大根一本をJAに出して、収入は一本につき10円だそうな。

ええ?1000本収穫しても1万円?

だから農家にとって、現金収入は夢みたいな話。

青空市で100円で売れるのはとびきりのボーナス、JAみたいに姿形を選ばないし。

冬場の道路工事などがあると現金が入る。冬場しか働かないからそのあたりの道路は何年たっても完成しないのだそうだ。