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サンインシロカネソウの咲く カタクリの 船通山(1142m) 島根県横田町

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神話の山

島根県に住んでいたことがあるので、この山に登ったことは何度もある。いつも登るのはこのシーズンだ。ちょっと早いとマンサクの花が楽しめるが、雪で登れない。遅いと山頂の名物カタクリが終わってしまう。

ちょっと気難しいのがこの山の特徴か、しかしこの山に登る人は山頂のカタクリが目当てだ。

さて、出雲地方の神話と言えばスサノオの大蛇退治を抜きでは語れない。

宍道湖に流れ込む斐伊川は昔からたびたび氾濫を繰り返し、地元の住民を悩ませてきた。そこに現われたスサノオは治水と製鉄技術をこの地にもたらしたと思われる。

そう、やまたの大蛇は斐伊川で、その源流である船通山にはたたら製鉄の原点があるのだ。当時の製鉄は剣を作ること、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)は製鉄のシンボルだ。

すると、スサノオは治水事業をした地元の権力者だったのか。(これは、私の説)

コゴミコースからの登山

登山基地になるのは、横田町のヴィラ船通山「斐乃上荘」だ。下山しての温泉もあり、カタクリ情報も教えてくれる。

登山道は二つあって、亀石コースと鳥上滝コース。最近は亀石コースしか利用したことが無い。何故ならカタクリの花の時期には、出合って見たい花がふたつあるから。

ひとつはハシリドコロ、もうひとつはサンインシロカネソウだ。これらは他のコース(鳥取県側も含めて)では見られない。ちなみにこの亀石コースを私はコゴミコースと呼んでいる。コゴミはクサソテツのこと、おひたしにするとコゴミ以上の山菜は無い。当然、少し戴いて帰ろう。

トイレのある最奥の駐車場にはすでに10台以上の車が停めてあった。晴天の今日はとても暖かい、リュックにビールや斐乃上荘で仕入れた焼き鳥、大福もちなどを入れて出発だ。

歩き始めるとトリカブトの葉があった。この段階では、この地方に多いサンイントリカブトなのか大万木山とここだけにあるサンヨウトリカブトかの区別は難しい。

それにしても出雲に住んでいた頃はこの山で随分植物の勉強をさせてもらったものだ。

オオタチツボスミレ、スミレサイシン、ツボスミレが咲き乱れている。ルイヨウボタンの若い葉、右手の沢にはキブシがぶら下がる。ヤマエンゴサクやフデリンドウも春を歌っている。

会いたかった花たち

スギの林がちょっとあり、そこを抜けると小さな橋がふたつかかっている。このあたりからハシリドコロとサンインシロカネソウの群落が始まる。今は満開状態。猛毒で、食べると走りまわると言われるハシリドコロは黒い花が特徴、水辺には愛らしいサンインシロカネソウの黄色い花が咲く。別名をソコベニシロカネソウ、花の付け根が赤く染まる。

雰囲気の良く似たネコノメソウの群落に混じる。

ツクバネソウやエンレイソウも花を付け始めた。ずっと沢沿いに登る。豊かな流れはサワグルミやアテツマンサク、アブラチャンを育ててきた。

シラネセンキュウ、ウワバミソウも初夏に向けて準備万端。

ツーツーピーのヤマガラがうるさいくらい。ところで「うるさい」という漢字は「五月蝿」と書くが、渓流に沿って小さな虫が飛び交う。きっと鳥たちはこの虫が目当てなのか。

サンインシロカネソウはずっと道に並んで咲いていてくれた。シダの仲間ではジュウモンジシダ、リョウメンシダ、クサソテツやヤマドリゼンマイが続く。ちょっとずつ違いが比べられるのは嬉しい。

サンインシロカネソウ

ミヤマカタバミとスミレサイシンが交互に並ぶ。サイシンはこの地方に多いサンインスミレサイシンだ。葉の先がとがっている。

この辺でサルスベリと呼ぶナツツバキの木が多い。そのそばにはヤマシャクヤクの葉が隠れるように立っている。

あたりは全部ブナだ。

行程の半分まで来るとヤマザクラやオオカメノキが咲いていて、山道もやっとなだらかになってきた。終わりかけだが純白の大型花、タムシバも多い。

遠くの景色が樹木の枝を通して見える。

水溜りの中にはハコネサンショウウオやブチサンショウウオの卵も隠れているはず。

エゾユズリハ、ナナカマド。ハウチワカエデや花の終わったダンコウバイ。

カタクリの山頂へ

ここではスギ林を見ることが出来る。もちろん植林では無く、日本海側の多雪地帯に多いアシウスギの群落だ。

ダイセンミツバツツジはまだこれから、と言ったところ。途中で涌き水をコップに受け渇いたのどを潤す。スミレサイシンの多い広場で休憩するが山頂はもうすぐだ。山道の両側に赤い花、カタクリが現われた。点々と咲き、山頂でのクライマックスを予言しているみたいだ。

ここのカタクリはとても可愛らしいのが特徴。寂地山のカタクリより小さい。向原などの大型カタクリは見るのもいや。

山頂ではたくさんの登山客が丁度昼時だった。ツノハシバミやダイセンヤナギが芽をふき、オオカメノキはバルタン星人の双葉を出して花の準備をしている。

もちろんたくさんのカタクリにうっとりとしてしまう。

カタクリはユリの仲間で、6枚の花被片、6個のおしべ、めしべの柱頭は3つにわかれるのが普通だが、ここでは栄養が足りないせいか4枚の花被片、4個のおしべ、めしべの柱頭は2つのカタクリもあった。実は先日、冠山で8枚の花被片、8個のおしべ、めしべの柱頭は4つと言う異端児のカタクリを見ているからもう驚かない。

花びら8枚のカタクリ花びら4枚のカタクリ

広い山頂には二等三角点、やまたの大蛇の尾から出た剣を記念した標柱やスサノオを祭った祠もある。

山頂からの眺めは最高で、北東すぐ近くに大山の勇姿がある。反対側には三瓶山が見え、吾妻山や烏帽子、道後山やその陰の猫山がとても近い。まさに360度の展望だ。

この広大な自然の中で、自分の存在のちっぽけなことに気がつく。

山はいい。そう、だから山はいい。

人間よ、おごるなかれ。

ここから鳥取県側に少し下ると、天然記念物の「イチイの大木」がある。周囲にもカタクリは見事に咲き、山頂の春は今が旬なのだ。

ツツドリが遠くで鳴いている。

下山は車を置いた場所へ同じルートで戻らねばならないが、2台あればもうひとつの鳥上滝コースを利用できる。

森林浴の深い森の中を歩くコースだ。

山陰へのドライブ

下山して、せっかくだからR432沿いにある「加納美術館」に寄ってみよう。今、備前焼を中心に茶椀などが展示してある。

こんな田舎の山の中に、立派な美術館があることに誰もが驚く。閉館時間を聞いても、「皆さんが見ているあいだは開けておきますから、ごゆっくりどうぞ。」と言われてしまった。

更に広瀬町方面に行けば、足立美術館があるのは言うまでも無い。清水寺を含めて、山陰の情緒ある旅が満喫出来る。


【ホテル・ルート9】0852-52-3359

島根県 八束郡 東出雲町 出雲郷(あだかえ)

和室で二人・朝食付き¥9000-、とても安く泊まれるし、もともと料亭だから夕食・朝食が安くておいしい。チェックインしていたら連休なので飛び込みでやってくる人が次々とあった。家族連れで、予約無しなんて、それは無いよ。

「とっとり花回廊」が始まり、例年でも連休は蒜山や大山には人が集まる。