アケボノスミレ や ワダソウの咲く 多飯が辻山(1040m) 広島県東城

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山名考

今はやりの、インターネットで「多飯」と入れて、この山の情報を探り出してみよう。

ホームページを開いている人の中には、山の情報を公開している人が結構いる。はたして、出てくる情報は、カレーの店やレストランの案内ばかり。なんと、大盛りの飯の情報しか無い様だ。

これほど、この山の名前はなんとなくユーモラスだが、山頂の神社で行われる「多飯神事」に基づいていると言われるから、大盛りの飯もまんざらウソではない。大盛りの飯と言えば、昔から庶民の夢でもあったことから、満腹になるまで食べる祭事と言うのは日本では珍しく無い。

ただ、その知識が無くとも、日本の山の名は、その姿形からついている場合が多く、山口県の「馬糞が岳」などは想像すると、こんもりとした山容が思い浮かぶのは無理も無い。

多飯が辻山も、りんご畑が並ぶ東城町小奴可地区から見あげるとお椀に飯を盛った形からついた名前であろうと、考えてしまう。ま、どちらにせよ、こんな名前の山もあっていいのでは。

ちなみに私のノートには1995年5月5日、晴天の中を登った記録がある。その時見た花は山頂のヒゴスミレとアケボノスミレとメモがあった。

この時ほど多くのヒゴスミレを見た経験は無い。ただ、スミレは割とあてにならない草本として認識している。つまり、ある年にたくさんあっても、翌年はぜんぜん見つからないとか。

分かりにくい登山口

東城町から西城町へ抜けるのに「竹森林道」を走れば一番いいのだが、間違えない方法は、JR内名駅の場所を地元の人に聞き、それから最初の林道への道に入る。

林道に出た場所が登山口だ。

一軒家があるので目印になる。この日は道路上に軽自動車が置いてあって通れない。この家を覗いて見ると、保険屋のおばちゃんが縁側でセールス中だった。まあ、ここを車が通ることは珍しいのだろう。

その車をどけてもらって10m先の広い林道のへりに駐車し、さっそく歩き始める。後ろに見えているのは白滝山(1053m)、北には猫山の南斜面も見える。

ツボスミレやミツバツチグリが山道を鮮やかに飾る。ヤマブキやミツバアケビのかわいい花、タチツボスミレ、小さなマムシグサも。

平地を10分ほど歩くといよいよ登山口だ。

バイカイカリソウが風鈴のような白い花をつけ、秋のキバナアキギリの葉がたくさん目につく。しかし明るいのはここまで。

暗い山道

これから続くのがスギ・ヒノキの植林の山道だ。休憩を入れると、ほぼ1時間は、あまり面白くない植林道を歩くことになる。

たしかに暗いのだが、シュンランやチゴユリ、シハイスミレが思ったより咲いているのが嬉しい。光が差し込む場所にはコゴメウツギやクロモジの若い木が育っている。

サンショウの幼木やギボウシの葉が春らしさを訴えているようだ。「福山山岳会」の掲げた標識が道案内をしてくれる。

盆栽にしたいようなミニのマムシグサが花をつけ、思いがけずセンボンヤリの春花に出会った。タチツボスミレは絶え間無く続き、時折立ち止まってシハイスミレの香りを嗅いでみよう。柔らかいバイオレットの香水がとても上品だ。

おや、葉がまだ出ていないスミレ、アケボノスミレだ。個人的にはスミレの中で一番好きなスミレで、ピンクの花びらの色は最高。

暗い山道なのに、明るい場所に競いあって花が咲く。花はまだだがイチヤクソウもあるぞ。

途中が面白くなくて、山頂が素晴らしい山とその逆で山頂はまったく駄目でも登山道が素晴らしい山はどっちがいいだろう。

両方いいのが一番だが、ともかく最後に山頂の花が期待できるのだから暗い山道もがまんがまん。でも、ちょっとでも明るい場所には若葉をいっぱいつけた樹木が待っている。

ここには5枚の葉と幹のトゲトゲが特徴のウコギが立っていた。別に珍しく無い木だが、なぜか広島県内には少なく、岡山県に多い。葉の中央に花が咲くハナイカダもあるぞ、まだ小さな花は咲かせていないが。以前住んでいた家の庭にあった木だから、若葉の段階でも判別できる。足元にはヒトリシズカ、アケボノスミレが多い。

ウグイスの声を聞きながら、これだけ多くの春の花に出会うと、何だか足が軽くなったようだ。

クマザサが深くなって、道が怪しくなる。コゴミも少しあるようだがもうのびてしまっている。空のどこかでヤマガラの声。

 

明るい山頂

T字路にたどり着いて、やっと穏やかな横歩きの山道になった。石仏がぽつんとたたずみ、またまたアケボノスミレの群落があった。30本はあるだろう、普段はあまり群生しないスミレだから、出合うだけでとても嬉しい。

アカシデの若葉、3枚葉のオオバショウマ、小さなマムシグサ、シハイもタチツボも。

タムシバに花がついているぞ。ウグイスカグラの赤い花、ほらほらだんだん種類が多くなってきた。

2番目の石仏、向こうに大仙神社が見えてきた。山頂すぐ近くだから、もちろん無人だがここにお参りするのはちょっと骨が折れるなあ。里の人たちの苦労がしのばれる。

さあ、久しぶりに明るい雑木林だ。

花をつけたツルシキミ、まだ咲いているコバノミツバツツジ。フデリンドウやアケボノスミレが満開。山頂はちょっと狭いがその奥に明るい斜面が広がる。キアゲハが忙しそうに前を後ろを道案内をしてくれる。

その斜面に見たことの無いハコベの仲間が咲いていた。良く見るとあちこちに。

ワチガイソウかと思ったが、花が大きいし、葉が上部に集まっていてちょっと様子が違う。

ワダソウ

リュックから図鑑を取り出して、それはすぐに分かった。ワダソウだ。分布は中部以北と九州となっている。ならばここでは珍しいが、あって不思議では無い。

シハイとタチツボは相変わらず多い。

明るい頂上の斜面で、昔見たヒゴスミレは葉を数枚見つけただけで、花は無かった。これは遅れているだけなのか、スミレ特有のきまぐれさなのか。

仕方無いか、でも珍しいワダソウを初めて見ることができたからそれで十分だ。別名ヨツバハコベのとおり、上部の葉は4枚が輪生しているように集まり、細かい毛が生えている。おしべの葯が模様のように美しい。

山頂近辺にこのワダソウはたくさん見つかった。

今の時期だからこそ、日当たりもあり、猫山などが見えるが、夏以降はちょっと樹木が展望の邪魔をしそうだ。

ちょっと寄り道

下山はもとの道を返したほうがいい。昔もガイドブックどおり先に進もうとしたが、途中で道が消えていたから。

先日の小五郎山と同じで、階段が無いのは下りがとても楽、すいすいと一気に下りてしまった。

帰り道は小奴可地区のりんご畑を通って見よう。

ちょうど花満開の時期、甘い香りが漂っている。蜜を求めて来る鳥を避けるためだろうか、どこの畑もネットで囲っている。ちなみにナシはハチがやって来ないため人工受粉させるしかないそうだ。

「市原の大コブシ」と看板のある大木のある川辺に来た。たしかにこれはコブシだ。東城町の花はコブシと聞く。山にはタムシバが多いのだが。