ダイセンミツバツツジが山を彩る 大神ヶ岳(1177m)〜立岩山(1181m) 島根県匹見町

QJY130

三坂八郎林道

目の高さが、近辺の山々を見下ろすような優位

を保ち、そそり立つ岸壁に咲く花の崇高な彩りをその目に焼き付ける時、山歩きはひとつの卓越した文化として、自らの誇りと満ち足りた達成感に酔いしれることが出来る。

それほどの山が、自分の領域(テリトリー)に存在することの嬉しさを感じることがあれば、これを自慢せずして何を喜ぶことか。

大神ヶ岳はそんな自己満足のみならず、衆人に山の楽しさを知らしめる、実に穏やかな且つ快適な山なのである。

と、まあ相当褒め称えるだけの「いい山」はざらにあるものでは無い。

山登りの趣味ではなく、花を愛でることが趣味の私にとって、この山は十分満足感を与えてくれる山だ。

何度も言うが、私は「登山」は嫌いだ。ある団体では「立ち止まると迷惑、花など見ないように」と登山前に注意があるという。そんな、団体登山などどうして人はするのだろう。

好きなのは花に出会う「山歩き」、そこに大好きな花があれば言う事なし。自然のふところに抱かれるために休日は山に出かける。だから花の前では腰を下ろして休むようにしている。

さて、本日の大好きな花は、ウスギヨウラク。

この花に出会うたびに、優しかった「あの人」を思い出したり、花の図鑑を開いて喜んだあの頃が懐かしい。

吉和村から島根県匹見町に抜けるR488を、途中から三坂八郎林道に抜ける道は昔から大好きな秘密の花園でもある。

サルメンエビネ、ルイヨウボタン、サンカヨウ、ヤマシャクヤク、ニリンソウなど滅多に見られない春の花があちこちにある。もちろんウドやフキなど山菜の宝庫でもある。

地図を見ると県境をはさんで、三坂山、大神ヶ岳、赤谷山と三つの峰が並んでいるのが分かるが、このうち赤谷山は地図上の山名で、地元では立岩山として通っていることを知っておかなければならない。山道の標識が二通りあるのだから。

三坂八郎林道のトンネルを抜けると島根県に入る。ここまでの道のりは、まさに新緑のトンネルを走ることになる。

トチノキやホオノキの大木、水辺にはカツラ、サワグルミ。いずれも気持ち良くそそり立つ。ここまでの道中、キシツツジやヤマシャクヤクに見惚れ、キョロロ…のアカショウビンの声を聞き、車道に沿って生えるウドを頂戴する贅沢な行程だ。

大神ヶ岳への登山口

鳥居のある登山口は、まず見逃すことは無いだろう。カーブの向かいには広場があり、数台の駐車も可能だ。すでに1台車が停めてあった。

三坂大明神、大神ヶ嶽、山葵天狗社と三つの名が書かれた看板もあり、ここから登るのだと言う事は一目瞭然。

山支度を整え、ジグザグの山道を歩き始める。

ササユリが夏には咲くのだろう、コアジサイやミヤマシグレの花芽も準備中だ。

杉木立を更にジグザグ登坂、ホオノキやクロモジの花。コシアブラにしても今出てきたばかりという状態だ。新緑の山歩きをしている実感が明るい山道に満ち満ちている。

ハナイカダ、サワフタギなどのつぼみ、来月もこの山は何か期待させてくれそうだ。

20分も歩けば、上の方に大きな岩が見える。

このところ雨が少ないせいか、水が無く涸れた沢をまたいで、味のある木橋が架かっている。ナツトウダイの花、ハスノハイチゴも花はまだだが多いようだ。

「平岩」はツルアジサイがからみ、ミズキの花も見られる。それから5分で岩がごろごろした場所があり、小さな祠が奉ってあった。「山葵天狗社」と書いてある。山葵はわさびと読んでいいのだろうか。

大きな岩の上に立つと、ツツドリの声。ナナカマドの木やハウチワカエデが目立つ。

続いて「潜り岩」だ。ふたつの大岩が重なった隙間をかがんで抜けると、タチツボスミレがまだ咲いていた。更に「三坂大明神」と名づけられた祠に着く。ここには島根くにびき国体の炬火採火の地と標した記念碑が立っている。出雲に住んでいた頃にあった第37回国体だ。

ウスギヨウラク

そこにはダイセンミツバツツジの真紅の花が真っ盛り。タニウツギがたくさんのつぼみをつけている。気がつけば、あたりに植林は無くなり、ブナが目立ち始めた。スギもアシウスギだろう、天然杉だ。太い幹と垂れ下がる枝は見事。

左-立岩山、右-大神ヶ岳の標識で頂上は間近だ。本当にタニウツギが多いぞ、6月は素晴らしい景観を見せてくれることだろう。

展望大岩に着いた。天下を取ったような雄大な気分はとてもいいものだ。足元には満開のイワカガミ、そして期待どおりウスギヨウラクの愛らしい花がたくさんある。

実はガイドブックにドウダンツツジ、ヤブウツギが多いとあったのだが、ウスギヨウラク、タニウツギの間違いだ。ウスギヨウラクはかつて名刺の写真にも入れたことのある大好きな樹木。花びらの模様が美しい。もちろんダイセンミツバの真っ赤な花。ツルシキミも多い。

山頂からは吉和冠山が見える。登山客も次々と訪れる。皆、新緑の展望に歓声をあげていた。

立岩山へ

ツクバネソウやエンレイソウの咲く山道を、左方向に向かうと立岩山だ。

ササが多くなり、天然杉の中を暑くもなく寒くもなく、快調に下る。そして次のポイント、ササ原の展望台へと向かうのだが、下りから上りへ替わるあたりでヒメナベワリが一本咲いていた。これもちょっと珍しい植物で、寂地山で見たことがある。

30分くらいで、その展望台にたどり着く。ダイセンミツバやイワカガミが咲き、オオカメノキも白い花を見せてくれた。クロモジもここではまだ咲き始めの状態だ。ササの中にはシハイスミレ、イカリソウ。

展望できるのは冠山や小五郎山、つまり大神ヶ岳と同じ。ここまで来れば、だんだん人が少なくなっているのだろう、ササのヤブコギが始まる。

振り返ると大神ヶ岳の勇姿が威厳を持った顔でふんぞり返っていた。

立岩の絶壁

そして大きな岩、と言うより巨大な絶壁に圧倒される。これが立岩だ。足元に咲いているイワカガミを、踏みつけないよう注意しながら立岩の上まで上がる。おお、足元がすくんでどうしようも無い。

それにしても雄大な風景だ。

高山に出かけたような、嬉しい気分、そこから先は10分以内で立岩山に到着する。展望は良くないが、ブナ、コナラの木が多く、ダイセンミツバやミヤマガマズミが元気良く咲く。

多くの登山者とすれ違い、挨拶をかわした。

帰りに一緒になった人が、このあたりはクマに良く出くわすよ、と注意してくれた。


編集後記

【カザグルマ】 雨の中を八千代町に出かけた。目的はカザグルマ。日本産のクレマチスと言ったほうが分かりやすいか。最近あまり見かけなくなった貴重な花のひとつだ。

大輪のその花は、遠くからでもはっきり分かるほど優雅に咲いていた。役場に仕事で出かけて、八千代湖の群生地が駐車場になってしまった、と言ったら、教えてくれた場所だ。

おりしもすぐ前の家で、猟で捕らえたのだろう、若いシカを解体しているところだった。

【お詫びと訂正】 QJYつうしん第40号で、「猫山の山頂にメギが赤い実を・・」と書きましたが、先日再訪し、花を見て、この樹木をメギ科ヒロハヘビノボラズに訂正します。