石仏とクロバナヒキオコシが迎えてくれる 岡山県上斎原村 三ガ上山(1062m)

三ガ上山(1062m)QJY133

上斎原の自慢の山

ここ備前の国、北に因幡、伯耆の国。つまり三つの国を見渡せるから付いた名前「三ガ上山」。女性的な山容とふもとに湿原、山道に草原、頂上に重要文化財の石仏を座して、花の山は多くの登山者に愛されている。

中国道を院庄ICで降り、奥津温泉を通り過ぎると上斎原村だ。役場の手前の信号を右折、ここは墓地のある所だが交差点にツルボの群生が見られる。山の案内看板があり林道が始まる。林道の舗装が終わるところが登山口だ。

車は登山口の空き地に置ける。

もちろん、もっと手前に置くことでたくさんの山麓の花が見られることは読者の皆さんは知っているはず。私の山歩きは山頂が主たる目的では無いので、当然ずっと下の空き地に駐車しておく。

ゲンノショウコやツリフネソウが雑草のごとく咲き乱れる。クリの林の中に濃いオレンジ色の秋の花、フシグロセンノウが満開だ。

舗装道路は全体的にスギの植林だが、カラマツ林も続く。そして時折現われる雑木林は、味のある木の実がたくさんなっていた。

オトコヨウゾメ、オオカメノキ、ハクウンボク、ミヤマガマズミ、まだ開いていないアケビなど。

ゲンノショウコはなぜか白花ばかり。

イヌタデ、キンミズヒキ、ネズミノブラジャー(ヌスビトハギ)やイヌトウバナ。ツリフネソウは適当な間隔をおいて群生している。今が盛りというところ。

登山コース(草原)

最奥の舗装道路が終わるあたりに空き地があり、車が2台停めてあった。ここからはススキの原の山道だ。「登山コース・これより2200m」とある。

道端にメドハギやヒヨドリバナがたくさん咲く。

ススキの原の中から「チョンギース」とキリギリスの鳴く声。秋本番のバッタだ。当然、遠くの森の中からツクツクボウシがうるさく鳴く。

広島を8時に出て、上斎原まで来れば11時を過ぎる。のぼり始めで、もう昼食の場所を考えなければならない。無理もない。200キロ以上離れているのだから。だがこの距離は普段見なれない珍しい植物への期待値でもある。

木陰で軽く食事をとり、あたりを見渡すと、オミナエシやクズの花が咲いていた。

周囲は草原だが、あちこちに湿原が広がる。

ノイバラの赤い実、今を盛りのオタカラコウ。太陽を浴びて明るい黄色がとても映える。

足元にはネジバナが可愛く咲く。珍しくねじれていないネジバナもあった。道の両側には、クロバナヒキオコシがたくさん現われた。濃い紫色の小さな花をたくさん付けて、優雅に立つ。

シラヤマギクやキクバヤマボクチ、ミヤマママコナも満開状態。オミナエシ(女郎花)に付かず離れずオトコエシ(男郎花)も咲いている。

ああ、これほどの「花の山」だとは。

近辺には、泉山、花知ガ山など人気の山が並んでいる。ここ三ガ上山は知る人ぞ知る「花の山歩き」が出きる山、特に本日の「目玉商品」はウメバチソウなのだが。さて、どうだろう?

眼前の目的地はピークが二つ見える。

期待が大きくふくらんで来た。だんだん近づく山の風景を見上げるこのひとときは大好きだ。

木陰で昼食をとり、立ちあがった頃、もう下山のグループがすれ違った。

終わりかけのダイコンソウ、相変わらず白花ばかりのゲンノショウコ。ミゾソバ、タニソバ、ツリフネソウ。 列記だけしておくと、アカバナ、オオカニコウモリ、アキチョウジ、キンミズヒキ、アキノキリンソウ、ヒメジョオン、アキノタムラソウなど枚挙にいとまが無い。

あまりの多さに、ヨモギやチカラシバの地味な花までがとても新鮮だ。

それにしても、倒れた人も引き起こすという花クロバナヒキオコシは元気良くたくさん咲いている。

花を見ながらだと、歩くほうも全然スピードがあがらず1時間くらいはすぐ経ってしまう。草原が終わり、自然林に入る手前には道端にオタカラコウの三人娘が並んでいた。

新聞の連載が終わり、この頃は「三人娘」をテーマに撮らなくなったものだ。と、そばを見ると、白いアケボノソウがすっくと伸びる。谷川のせせらぎの音が右手の方から聞こえてくる。

登山コース(山道)

秋とは言え、きつい日差しを避けられるのはやはり自然林の雑木林が一番だ。ここまで、汗びっしょりの状態だが、勾配は大したことなく快適な山歩きが出きる。

林間にはチゴユリやナルコユリもあるようだ。

途中一箇所、ロープが張ってある場所もあり、山の面白さを満喫できる楽しい山だと思うが、どうしても近所の泉山などにハイカーの足は向いてしまうようだ。

サワフタギの実が青みを増し、オオカメノキのバルタン星人(冬芽)が目立っている、これだけ見れば秋本番だ。

ふたたび、明るいススキの原に出るとあったあった、ウメバチソウだ。まだつぼみが多いが、咲いているのもある。山道に沿って点々と並ぶ。満開状態にはあと2週間くらいというところか。

明るい尾根筋で振り返ると、上斎原の町並みが箱庭のように見下ろせる。

凍らせて持参したスポーツドリンクもすでに空っぽ、風があまり無いので早く山頂に立ちたいものだ。

再び自然林の中に入って「頂上まで500m」の案内がある。足元にはアケボノシュスランらしき葉が確認できた。そう言えば、アカモノの葉がずっと続いている。環境的にはホツツジが咲いていてもいい場所だぞ

山頂の村指定文化財

最後の尾根筋に出ると、ササ原の終端に岩のあるピークが確認できる。登山者の姿も見えた。

ササユリ、カキランの実が立っている。イワカガミのテカテカした葉、ホクチアザミは丁度咲いている。風の強い場所なのだろう、どれも背丈が短い。

カワラナデシコが一本咲いて、ホソバノヤマハハコが見事に並ぶ。さすが1000m超の山は植生豊かだ。

頂上あと50mで、ホツツジがあった。想像どおり満開状態、狂い咲きのナガバノタチツボスミレも一輪、アキノキリンソウの陰に咲く。

頂上には「三ヶ山役行者」と看板のある石仏が村を守るかのごとく鎮座していた。そうか、ここは昔は「さんがせん」と呼ばれていたのかな?

役行者とはもちろん「えんのぎょうじゃ」だ。

山頂の石仏

石仏の裏には建立の年のことだろう、天正元年とある。歴史年表で調べると400年以上前、信長・秀吉の頃だ。これはすごい。少し先には、不動明王の石像、この二体の石仏は村の重要文化財として、大事にされてきた。

山のシンボルであり、上斎原村のシンボルなのだ。この山が山岳信仰の対象の言わば霊峰であったことは間違い無い。

ここから、先にも二番目のピークが見えるが、クマザサに覆われて道は消えている。ふもとから双耳峰に見えたのはそのせいだ。

丁度、山頂で休んでいる時は、太陽が陰り風もあってとても心地良かった。

泉山、花知ガ山、人形仙が見渡せる。

岩のある山頂は落ち着くものだ。ホツツジがたくさん咲き、岩の割れ目にホソバノヤマハハコが可憐な花を咲かせる。

秋の七草と、何といってもクロバナヒキオコシの優雅に咲く上斎原自慢の山「三ガ上山」は明日の元気がよみがえる素晴らしい山だった。