QJY135 平成11年9月17日
マツムシソウの咲く丘においでよ 無理せず遊べる 吾妻山の小坊主(1038m)

QJY135

放ったらかしの自然は無い

吾妻山に出かけ、見たいものがあった。

先日の岡山県立森林公園で見たマツムシソウの群生に負けずと咲く吾妻山のマツムシソウを見ておきたかったからだ。当然、山頂に登れば時間が無いので周辺の植物観察のみになるのは仕方が無いだろう。

比和町を過ぎると永原にある「かわせみ市」に咲いていたシデシャジンの様子を見ておきたいと思った。かつてQJY72号で紹介したのは8月の終わりだったが、果たして今はどうなっているだろう。

期待しながら通りかかると、かわせみ市はどうもこの一年開いていないようだった。それで周囲の草もぼうぼう、わずかにブランコがある場所だけがまともな状態ではないか。

草刈がされていないのでシデシャジンのような草丈が短い植物は生えることができない。残念ながらこの群生地も消滅してしまった。

人が入った為ではない。

人が入らなくなった為だ。自然のことなのに不思議だが、実は普通にありえる話で、小さな花の存在は、定常的な草刈がその要因であることが多いのだ。ここのシデシャジンも草刈されないために育つ要素を失った。

考えて見れば吾妻山の小植物は、放牧されていた牛がその草刈作業をやってくれていた。今はもう放牧は中止されている。あれほど見事だったキンポウゲ(ウマノアシガタ)の群落は人手の草刈であっという間に無くなったと聞く、かつては牛が食べないため残っていたのだから。

こんなふうに人と自然の関わりは根強いものがある。山野に咲く花は普通道端で見かけられるが、道は人が踏み込むため草丈の高い植物が生えないのだ。そこに小植物の生きる道がある。

モリアオガエルの卵塊のある休暇村宿舎裏手の池などは周囲に木が植えられていないため、カエルが地面に卵を産む。休暇村協会にはカエデなどを植えるよう要請してあるが来年どうするだろう。

R432を高野分かれ(森脇)から吾妻山方面に向かい、2キロ走ると久泉原の分かれだ。直進するとヒババレイ経由で吾妻山に向かう。ここの交差点にヒゴタイが2〜3本植えられている。今はもう自生しているものは見なくなったルリヒゴタイである。

添え木がしてあるからには恐らく植生のものか。昔は盆花として栽培も盛んであったが、今は栽培品ですら見なくなった。こうして添え木が必要な植物では仕方の無いことかもしれない。

「残す」と言う事は「放っておく」ことでは無いのだ。「保護」をする気持ちがどこかに無いと。当たり前のものが当たり前で無くなる。

キャンプ場〜吾妻山登山口近辺

昨年、指導員の交流会の時、早朝観察会を行った。その時発見したのが吾妻林道のある場所に咲いていた八重咲きの赤いゲンノショウコ。今年もあるかと探して見たが、見つからなかった。これも自然のなせる技か。

何やら不安を覚えつつ駐車場所から歩き始める。バンガローの並ぶあたりから道路の舗装が進み、かつて当たり前に咲いていたトモエソウなどが今は見当たらない。

キャンプ場の周囲には赤い実のゴマギがたくさん立っていた。

すると、林の奥にかろうじてタンナトリカブトが2本咲いているのを見つける。赤いゲンノショウコが歩道に沿って咲いている。先日の岡山県では白い花ばかりだったが。

そして芝生広場に出て、さまざまな心配事がいっぺんに吹き飛んだ。芝生一面に紫色のじゅうたんを敷いたみたいにマツムシソウが咲いているでは無いか。これほど広範囲に咲いていたとは。

湿地帯にはマアザミが首を垂れ、ハンカイソウが花を終わらせていた。サラシナショウマはそれでもまだまだ元気がいい。

キンミズヒキやアキノキリンソウも。

ウメバチソウはちょっと早かったようで、どれもつぼみの白い玉。歩を進めるに従って、マツムシソウの広大な草原が目に入ってきた。

今は牛が草刈をしてくれないが、どうやら今聞こえるエンジン音、草刈の機械が活躍しているからマツムシソウの草原が保たれているのだろう。

赤いタムラソウと黄色いオミナエシ、おおピンクのカワラナデシコも見かける。

それにしてもここのマツムシソウの草丈の短いこと。それは昔から有名だが、確かに先日の岡山県立森林公園の花に比べると種が違うみたいだ。

草原で草刈されているから伸びる必要が無いのか?一面、まさにじゅうたんの様に広がる。ついでにワレモコウも相当低いぞ。

小坊主〜茶坊主

マツムシソウの名の由来は当然マツムシの鳴く頃に咲くからと思いがちだ。図鑑にそう書いてあるものもある。他の説は、仏具でマツムシと呼ばれるものがあることから付いた名前というのがある。これは中村浩博士の説。

マツムシソウの花が終わり実になると丸い坊主頭になるが、それに似た形の仏具でナベナなどは花から似ているとも。

恐らく叩くと「チンチロリン」と鳴るのだろう。その想像力を掻き立てる由来のほうが楽しいではないか。中村博士の著書「植物名の由来」には「昔、六部と呼ばれた巡礼が家々をまわり、マツムシと呼ばれる鐘を叩いてお布施を請うた。」とある。

長田武正著、野草図鑑「たんぽぽの巻」には「松虫鐘」として絵まで載っていることを紹介しておこう。

さて今日は吾妻山には登らず小坊主と呼ばれる標高1037.8mの丘に向かおう。ここへのルートも全部マツムシソウだ。多くの人達が丁度お昼を食べている時間帯。皆この紫色のじゅうたんに満足しているようだ。

遅れ馳せながらカワラナデシコも咲いている。アキチョウジ、シラヤマギク、ヤマハッカも元気がいいぞ。ウメバチソウも咲いている。

さらに人があまり行かないのが、小坊主の南西にある1015.0mの小ピークだ。ここで同行の人にお茶を戴いたのでこの山を「茶坊主」と命名しよう。茶坊主の周囲にはゴマナが多く咲く。マツムシソウも相当多い。これからのウメバチソウやリンドウもたくさん見かける。

この辺まで草刈のブルドーザは出かけて来るようだ。ヒトツバヨモギが堂々としている。

湿地にはアブラガヤ、アケボノソウが見事に咲いている。芝生の切れるあたりの樹木はウリハダカエデが多いようだ。

サワフタギは青い実をつけ、イブキトラノオもまとまって咲く。

南の原までの散策

再びキャンプ場を通る。

香りの良いオオカニコウモリや葉のユニークなモミジガサが割と暗い林の道端に咲く。

春はオオタチツボスミレがたくさん咲いていた場所だ。

明るい南の原に出るとセンブリの葉が目に入る。このあたりは昔よりちょっと雑草が多くなっている。今は草刈をしないからか?

アカモノの多い場所だけにちょっと気になるぞ。

こうして山頂まで行かなくとも溢れんばかりの山の草花達に会うことが出来るのだ。

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