QJYつうしん 136号

 

休日は山にいます99-10-02
広島の歴史を見てきた縦走路 武田山(411m)〜火山(488m)広島市安佐南区

初心者の為の登山入門講座

9月の終わりに古市の公民館で花のスライドショーと講演を依頼された。

マツダ山岳部副部長の野島信隆氏が初心者向けの登山教室を開いている。そして講習も大詰めを迎え、いよいよ本日が実際に山歩きをしてみる日なのだ。

8月終わりから始まったこの講座は「パッキングの仕方」から「歩き方」「山の気象」「地図の見方」など楽しく安全な登山のために毎週開かれてきた。私の担当は「植物鑑賞の楽しみ方」。

で、スライドで山野草の紹介をしたというわけ。

ちゃんと「登山計画書」も各自記入し、万全の態勢で今日の日を迎えた。

目的地は広島の人なら一度は登ったことのある武田山。そして縦走路を火山に向かい下山するという、割とオーソドックスなものだ。

ただ個人的には初心者の皆さんにはもっと花の多い深入山あたりに出かけて欲しいのだが…。

何しろ秋とは言え、残暑厳しいこの時期には市内の山はあまり良い環境であるとは言いにくい。ハチが活動する時期であること。虫、特に蚊は産卵期で人にまとわりつく。草は伸び放題で足元が危険、陽射しは暑い、など条件が悪すぎるのだ。

逆に冬の広島市周辺の山歩きは快適で、暖かく、樹木の間から遠景も見え、特に遠くに見える雪を戴いた中国山地の山々がとても気持ち良い。これを知っている以上、やはりオススメの山歩きはオススメの時期にして欲しいものだ。

さて、公民館のスタッフを含め総勢23人がJR可部線下祇園駅に集まった。曇天の予想外に過ごしやすい日だ。ここから登山口である「いこいの森」までは40分くらい歩かなくてはならない。

出発前

武田山は甲斐の国(山梨県)の武田氏が安芸を治めたことから呼び名がついたと言われる。山城である以上抜群の展望を誇る。

広島を代表する山だ。

登山口「憩の森」

憩の森では最初で最後のトイレとなる。

道端にはキツネノマゴやゲンノショウコが咲き乱れ、池や畑は特産のセリが植えられている。

そしてひときわ目につくのが、ヒガンバナ。真紅の燃えるような色合いのヒガンバナは一部では嫌われるけれど、花としてじっくり見てみると素晴らしい造形美を持った花だ。

ヤマハッカやアキノタムラソウなど秋本番の代表花がこの公園を飾る。

ここまでゆるい上り坂を40分歩いて、背中は汗びっしょりだ。

武田山への悪路

歩き始めて驚いた。先日の台風18号のせいだろう、山道に沿って倒木や小枝が随分散乱している。まるで落ち葉が積もっているようでとても滑りやすい状態。

ここからの登山道は決して良い道とは言い難く、長い間の登山者の踏み跡がV字型の掘れた道となって、登り下りとも困難を極める。掘れた高さが大人の腰まである場所もあり驚く。

恐らく人の力で山道が掘れると同時に雨水の流れが土砂を流してしまったのだろう。そこにまた人が歩くので樹木の根が支えていた地盤も耐え切れなくてどんどん掘れてしまった。

しかしこの歩きにくい道が却ってこの山の魅力を出しているのでは無いだろうか。市内にありながらこれほど急坂のしんどい登山を経験できることをむしろ喜ぶハイカーも多いのだ。広島の山は県境付近では高原、草原のなだらかな山が多いが、市内の山は意外と急峻でアップダウンに悩まされる。 それに先日の台風の被害で道をふさぐ倒木が多いとあっては、武田山もハイキングなどと馬鹿に出来るものではない。

しかし未知の山ならともかく、過去何度も登った武田山だから、全然心配をしなくてもいいのが救いだろう。

「御門跡」では小休止して市内の展望を楽しむ。今日はちょっとガスがかかってリーガロイヤルの地上150m、33階建てのビルも霞んでいた。

お守り岩

パーティーは三つに分かれ、落伍者も無く山頂にたどり着く。公民館での講習内容に沿って地図の見方、歩き方など実践で学んでやっと今日が力を試す日なのだ。

早めのお昼には野島氏が味噌汁をサービスして下さる。お茶の先生も来てくれて優雅なひとときが過ぎる。

火山への縦走路

この縦走路の特徴はアップダウンが激しいこと。

次の火山は武田山より標高は高く、とても長い距離を歩かなければならないのに一度坂を大きく下る。下りたところが水越峠だ。

MAP

せっかく休憩地点でもあるので、自然観察会を開いてみた。ジョロウグモの話やアカメガシワの葉の付け根にある蜜腺についてなど。今回の参加者は皆こんな話を興味深く聞いてくれる。

今日の天気は夕方から悪くなるらしいのだが、そのせいか今はとても暑くて水分の補給は欠かせない。

峠で少し風を感じたものの、汗が渇くまではとても吹いてくれなかった。

アップダウンをもう何度か繰り返し、火山の山頂に到着。さすがに疲労している女性が目に付く。団体登山の厳しさは十分身にしみたことかもしれない。私が奨める山歩きは、目指すものが山頂では無く、起点と現在地点の時間差をメモしながらいかに予定時間内で戻るかを頭に入れながら花を見ることだ。

楽しい山歩きは無事帰宅することで終結する。

団体登山で「もう山はこりごり。」、と言う人が増えないか心配だ。

火山の山頂にて

さてこの山の見所は山頂では無く、もう10分ほど西に進んだ所にある大岩の展望台だ。普通の人は先ほどまでの疲れがここで吹っ飛ぶのだが、どうだろうか。

広島市内を見下ろし、もっと先の丸山を越えて畑峠、大茶臼山、鈴が峰など当然健脚向きの縦走路の延長も目に入る。

気がつけばガスも引いて、宮島や瀬戸の海の輝く海面がまるで一枚の絵を見ているようで、すぐにでも誰かに教えてあげたい気分だ。

すると丁度ここで携帯が鳴って「今どこ?」と、山仲間の声。で、眼前の絵画の様子をいろいろ表現するのだが、やはり分ってもらうのは難しい。

権現峠からの帰路

ここまで想像以上の倒木で山道がふさがれている事に難儀する。小さな柿の実が落ちていたのは歓迎だったが、少々渋みがあってとてもおいしいとまでは言えない。

おいしいのは何と言ってもナツハゼ。ほのかな酸味が気を引き締める。

サルナシも落ちていた。山陰では台風の去ったあとの山でクリやクルミを良く拾ったものだ。

ガマズミやソヨゴ、イヌザンショウやコジイが実をつける。アキノキリンソウがヤマブキ色で山道を飾っている。

権現峠は山本地区への下山路だ。ここからJR可部線の安芸長束や下祇園などへは歩いて1時間以上かかるから広いものだ。まさにヤブコギまで体験して参加者はむしろ貴重な経験を積んだと言って良いのでは無いか。

東山本のバス停もあり、やはり市内の山は便利である。