QJYつうしん 137号
休日は山にいます99-10-09
美しい火口湖をめぐる天上の縦走路・霧島連山 韓国岳1700〜新燃岳1421〜高千穂峰1574
夢だった縦走
久しぶりに読売の登山バスである。
添乗員は一緒になること、もうこれで3度目の松下君、総勢37名は九州きっての絵になる縦走路を期待して前日の夜8時に新幹線口に集まった。
花の山歩きが好きな私は、基本的には団体登山は嫌いだ。ちょっと珍しい花を見ていたらすぐに離されてしまうから。でも縦走となると話は別だ。マイカーで行けば同じ所に戻らなければならないが、バスツアーなら縦走が出来る。
なにしろこのルートは昔からの夢でもあった。
14〜5キロは歩かなければならないが、鹿児島上空を飛行機で飛ぶ時に見る、山頂に湖を持つ山々を実際に歩くなんて本当に夢だったのだから。遠く韓国まで見渡せるから韓国岳(からくにだけ)と言うくらい展望の良さを誇る山。
そして帰りにコスモス満開の生駒高原も寄ってくれると言う。この機会を逃すわけにはいかない。
えびの高原〜韓国岳(からくにだけ)1700
早朝5時に朝食を済ませ、6時にはえびの高原を出発だ。まだ東の空はほんのり明るい程度。たくさんの星がまだ輝いている。今日は間違い無く晴天だ。
歩き始めるといきなりミヤマキリシマの狂い咲きの花が見つかった。足元にはピンクのツクシアザミが咲く。
先ほどから鼻をつくのがイオウの匂い、そのはずで硫黄山・賽の河原のそばを通る。ここは明治の頃イオウの産地でもあった。
ここ、えびの高原は秋のススキの赤茶色がエビのようだから付いた名前と聞く。ススキの穂が赤くなるのは硫黄で土が酸性化しているためだ。
そして韓国岳の登山道が始まる。標高1700mの山頂まで1200mのえびの高原から登るのだから、これから表示される1合目につき50mのアップと言う事だ。
ノリウツギが多く、またとても可愛らしいキリシマヒゴタイが足元に咲く。林床には小さなカニコウモリのツクシコウモリソウらしき花が見られる。
シロモジ、タンナサワフタギが目立つ。そしてツクシアザミは定間隔で見る。
5合目で小休止だ。振り返ると白鳥山(1363)と台形の甑岳(1301)が朝日を浴びていた。どちらも山頂に水をたたえる臼状火山で一度は歩いて見たい山々だ。時刻は7:10、まだ目が醒めきらないうちの山歩きはペースが上がらない。
ここから上は尾根に沿っての快適な山歩き。頂上には7:50到着だ。一同感嘆の声をあげる。朝日を浴びて直径1キロの火口湖・大浪池を見下ろす。雲海の真っ白なベールをが火口を隠している。爽やかな快晴の青空と時折飛び交う赤とんぼ。
大浪池
遠く桜島の噴火の煙が見える、直下には地熱発電所からの白い湯煙。
この岩ゴロゴロの韓国岳も巨大な火口を持ち、北側の谷底には池がある。
前方には目指す新燃岳と遠く高千穂峰が美しく聳え立つ。陽の当たる場所とそうでない場所のコントラストの強烈な陰がまるで絵に画いたよう。
韓国岳1700〜獅子戸岳1428
縦走路だから当然アップダウンが厳しい。分かりやすく言えば「悪路」である。平坦地の琵琶池までは背の高さのササが足元を隠す。ゴロ石も多く、苦労しながら下山した。そして獅子戸岳までもう一度登るのだが、登りは快適な山道となる。
リンドウミヤマキリシマ
リンドウが時折現われて、歓迎してくれるからそれだけでも楽しい。ツクシアザミ、キリシマヒゴタイ。 獅子戸岳山頂に着いたのが丁度10:00。ここで参加者の一人がばて気味となった。この人、韓国岳ですでに水が無くなり、杖すら持っていないのは準備不足の典型例。
MAP
獅子戸岳1428〜新燃岳(しんもえだけ)1421
本日のメインとなる新燃岳には快適な道を50分でたどりつく。近づくに連れ、イオウの匂いがしてくる。横から射していた太陽も相当上に上がった感じがする。
新燃岳高千穂峰
大浪池の白いベールは取れ、水面が確認できた。それより山頂に立って、歓声が上がったのは中央の池の青いこと。夢のような色合いは、これまで山岳誌などで見た絵葉書そのままの光景だ。
北端から南端まで約15分かけて外輪山の尾根を回る。内側の岩の割れ目から煙も出ている。
昭和34年に大爆発して、最近でも噴出ガスが多いと時折入山禁止になるそうだ。多くの登山者ともすれ違う。
新燃岳1421〜中岳1332
ページの関係で詳しく書けないのが残念だが、この部分が植物観察では一番華やかな山歩きとなる。中岳までは低いススキの原で木道が作ってあり、保護されているのが良くわかる。
リンドウがずっと続き、ツクシアザミ、センブリ、ヤマシロギク、アキノキリンソウ、ヤマラッキョウなど枚挙にキリが無い。マイヅルソウの葉もあるぞ。
ミヤマキリシマはたくさん有り、咲いているのも多い。ああ、感激!
中岳1332〜高千穂河原
ここまで朝から歩いてくると、おなかがすいて来た。暗いうちに朝食を済ませて、もう11:45。
下の高千穂河原からの家族連れも多く、下山路は上がってくる人達と交差してしまう。ツクシアザミやヤマシロギクを踏みつけそうだ。
中岳から高千穂河原の駐車場(お弁当が待っている)まであと2.3キロとある。山で10キロ歩けば相当な距離。石畳が敷いてあるのが有難迷惑で、今日はともかく雨の日は滑ることだろう。
石の割れ目にキジムシロが多い。
秋の陽射しはそれほど強くは無いのだが、駐車場近くの森では日陰が嬉しくなる。屋久島と南九州の一部でしか見られないコバノクロヅル(ニシキギ科)の青い翼果を初めて見ることが出来た。
高千穂河原に12:20に到着。売店のおじさんに植物名を確かめる。
多くのハイカーはここに車を置き、タクシーでえびの高原まで回してもらうそうだ。高いだろうネ。
高千穂河原〜高千穂峰1574
14:00出発で向かう高千穂峰は富士山のような円錐状火山だ。その姿の美しさから霊峰として古代からあがめられてきた。「雲に聳える高千穂の…」、霧島神宮の背後に聳える山である。
近くにいたタクシーの運転手の話では、今日はめったに無い抜群の天気。霧で霞んでいることが多いのだそうだ。「霧島」の地名はダテじゃない。
登山道はしばらく森の中、そして強烈なガレ場歩きとなる。本日のメインイベントだ。
まずは「お鉢」と呼ばれる中腹の火口まで登る。丁度、富士山の南側にある宝永山みたいな山で、中腹から噴出した第二火口らしい。
山道は難行苦行の修行の道。強烈なガレ場が続く、これは下りも大変だ。2時間半かけて山頂まで登るのだが、ここまで相当疲労が重なっていて全員沈黙状態。北海道で見られるアースハンモック(凍結坊主・表土が盛り上がって小さな塊になる)も見られる。植物はコイワカンスゲだ。
ともかく、フィールドノートも私の頭の中も真っ白状態で何とか登頂した。日章旗の上がる山頂は360度の絶景、天孫降臨の伝説の山にこうして登ることができた。
山小屋は石橋さんと言う方の個人経営で、古くて狭く、水が無いので最近の女性にはちょっと辛いかも。しかし、沈む夕陽と都城あたりの夜景、手でつかめそうな満天の星空、翌朝6:10のご来光とこうして天候に恵まれた良い山歩きだった。
ご来光
帰りにはバス旅行ならではのプラン、霧島温泉のホテルで昼食と広いお湯に浸かり、コスモス満開の生駒高原にも寄って、目が醒めたら20:30、広島・新幹線口だった。