QJYつうしん 140号 1999年12月4日 休日は山にいます

花ざかりの町においでよ セトノジギクの香る 原発と漁業の町 山口県上関町

瀬戸内ドライブ

泊まりになってしまった呉市での仕事を終え、朝早く家路についた土曜日。丁度良いタイミングだったのか悪かったのか、友人からの誘いの携帯電話が鳴ってしまった。

この時期、どこかで花が見られないかと言う。

それならセトノジギクとツワブキがたくさん咲いている所がいいよ、と答えてはみたものの当然その人を誘ってドライブすることに成り行きが決まってしまう。ま、いいか、セトノジギクは大好きな花だし、最近出かけた元宇品で台風の塩害のせいか、一本も見られなかったのを心配していたところだ。

山口県側のノジギクは塩害を受けていないと思うので、楽しみである。そう言うわけで我が家を通過して山陽道を西へ向かう。かあちゃんゴメン。

平生町〜上関町

空が青く晴れ、暖かいのはこの地方だからか、柳井市から平生町を過ぎると大星山を左に見て、上関町方面への湾岸道路をゆったりと車を走らせる。

佐賀漁港を過ぎたあたりから、山すそに白や黄色の花が目立ち始めた。

白いほうがセトノジギクだ。最初は民家から逃げ出した寒菊が咲いているのかと思ったが、そうでは無い。もうこの辺では雑草のごとく咲いているのがわかる。

途中、車を停めるスペースのある場所では散歩しながら花を探してみた。

ツワブキ

大型の黄色いキクはツワブキ、淡い黄色の小さな菊はヤクシソウだ。どれも満開状態、ハゼノキの紅葉もあって見事な色模様を見せる。

ノジギクは葉のうすいものをセトノジギクと分類しているそうだが、確かに同行の人の話ではリュウノウギクなどと比べて葉がうすいという。

あまり今まで意識したことが無かったので自信は無いが、地域的な分類でも山口県側にあるものをセトノジギクと呼ぶそうだからそうであろう。

花としてのまとまりはリュウノウギクのほうが上だろう、ノジギクは舌状花の長さがリュウノウギクより短い。大きな判別点は、葉の付け根の形、リュウノウギクはクサビ形をしているが、ノジギクではこれがほぼ水平、ハート形も多い。

セトノジギク

このあたりの大きな群落では2坪程度の範囲をこのノジギクが占有している場所もある。あるものは崖から垂れ下がり、ノジギクの懸がいづくりとなって楽しませてくれる。

近づくとセンダングサの実がズボンにくっついて往生極めるが、黄色いカタバミの花など思いもよらない植物が見つかるから嬉しい。

むろつのてんぷら

思いもよらないと言えば、大橋を渡る手前から少し道をはずれて散策してみると、ノジギク、ツワブキに混じって沿岸部に5月頃咲くアツバタツナミソウが何株か咲いているのを見つけた。花は普通のタツナミソウだが、葉が厚く毛が多いのが特徴。
【その後、広島県内でアツバタツナミソウを多く確認していますが、これはコバノタツナミの可能性が高いです。】

アツバタツナミソウ

この花を見るのはこれが初めてで、普通の図鑑には載っていない。瀬戸内海沿岸や島にあると聞いていたので、知識としてはあったのだが、狂い咲きにしては珍しい花を見たものだ。

それにしてもセトノジギクの数は半端じゃない。上関の町の地図にも白い菊の絵が入っているから、町の自慢の花なんだ。

ここまでの沿岸道路はとても快適で、広いのだがところどころ旧道が残っていて、釣り人たちの駐車スペースになっている。

そんな場所に車を停めて歩いてみる。小さな葉が特徴的なアキニレが多いのに気づいた。これも瀬戸内の島々に多い。

テリハノイバラの赤い実やハスノハカズラの独特の葉、ゴンズイの実などが落ちているのを見つけながら楽しい散歩が続く。

橋の手前ではいつも立ち寄る「むろつのてんぷら」と看板に書かれた店を覗いて、つまみ食いの材料を買うこととしよう。ビールのコマーシャルでイワシのフライをぱくつきながら漁村を歩いているシーンがあったが、まさにそれである。

イワシのフライもあったが、ここはてんぷら5枚入りのもの250円を仕入れておく。

map
シャシャンボの大豊作

上関大橋を渡ると、すぐに展望台があり瀬戸内のゆったりした海の風景が広がる。真南の海面の反射を受け釣り舟のシルエットが美しい。

上がり口でタコヤキを買って、先ほどのてんぷらで昼食だ。コンビニの無い町では仕方が無い、でもこのテンプラはうまいぞ。

実をつけたモッコク、おやシャシャンボにも実がなっている。それにしてもたくさんの実だ。これほどのシャシャンボの実は見たことが無い。

友人は持って帰ってジャムにすると言う。

こんな空気のきれいなところのシャシャンボならおいしいはずだ。シャシャンボは穂状にナツハゼと良く似た実のつき方をするので、取りやすい。良くヒサカキなどと混生していて採取しにくいことがあるが、ここでは単独で何本も実をつけていた。

子供の頃に戻ってはしゃいでいると、女高生ふたりがやってきた。

「こんにちは!何してるんですか?」

携帯電話を持って茶髪、ルーズソックスのミニスカ娘だが、割とまともな口をきくではないか。この手の女の子は自分の娘より年下で、どうせ話していても不愉快なだけと先入観があったのだが。

シャシャンボを味見させたり、セトノジギクの説明をしてやったが、あまり興味はなさそうだった。でも「白いノジギクは町の宝なんだよ。」

「私たちは広島に遊びに行くのが好きなんだけど、おじさんたちはこんな田舎に来るのね。」と不思議がっていた。こんないい町はないんだよ。原発が出来てこれからどう変わっていくか分からないけど、おまえ達はこんないい町がふるさとだということを誇りにしてほしい。

室津のてんぷらはうまいね、と言うと、「あれは大好き、朝買いに行くと暖かいんだけど、もういちど揚げなおすとおいしいよ。」

そうか、電子レンジでチン、と言わないだけでも好感が持てる女の子たち。別れるときも、きちんと挨拶をして「気をつけてお帰りください。」と言ってくれた。

原発と漁業の町

展望台からの「のたりのたり」とした春のような海を見ながら、のんびりとする。ここにもセトノジギクが咲いている。飛んでいるトビを上から見て、真下には丁度「音戸の瀬戸」のような海峡を行き来する船を見る。同行の人のリュックからお菓子が次々と出てきて昼食になってしまった。

風景

ここ上関町はのどかな町である。

のどかなこの町に今、大きな問題がのしかかった、原子力発電所だ。国は2010年度末までに20基の原発を作る計画があるという。上関町に建設予定の原発は中国地方のほぼ20%をまかなうだけの規模があるという。

友人の中にはここでタイを釣るのが好きな仲間もいるが、原発が出来たら釣りには来ないだろうと言う。

原発が建てられる自治体には国や電力会社から莫大な保証金が転がり込む。

21世紀のミニスカ娘達よ、お前達の生まれた町はこれほど自然豊かな優しい町なんだよ。この町は保証金で成金になった町として名を残すのか?いつまでも日本中に誇れる、自然あふれる上関町であって欲しいのだが……。

帰路は柳井の白壁の町並みを拝見して、定番の製菓会社の「菓子の季」工場で名水を汲んで帰る事をおすすめする。