QJYつうしん151号

温泉つきのハイキング    ダイモンジソウの咲く裏匹見峡 島根県匹見町

平成12年10月22日

紅葉の季節にはまだ少し早い。

かと言って、花のシーズンが終わったわけでは無いから、気候の良いこの季節はハイキングを楽しもう。

もう5年も前になる、奥匹見峡に咲くジンジソウをQJYつうしんで特集した。QJY第7号だ。そうか、このつうしんはそんなに長く続いているんだ。

と、感傷に浸る「秋」。

表匹見峡

匹見峡に表と裏があるのをご存知だろうか。まるでビデオじゃなかったお茶の世界、いやいや奥が深いから奥匹見峡まである。

いずれも秋がおすすめの季節だ。

何しろ地図を見るとモミジのマークが並んでいる。

島根県匹見町に行くのに、度胸試しも兼ねてあの狭い吉和村のR488を経由することもできる。が、R191を道川(通称出合原)から表匹見峡をドライブしながら走る優雅なコースに勝るものは無いだろう。

これだけスケールの大きな渓谷が無名で、あたりまえのように存在する。匹見町の自然がいかに豊かなものであるか思い知らされるはずだ。

通り過ぎた「奥匹見峡」は大小の滝が流れシャクナゲや秋のジンジソウで有名。ここ「表匹見峡」は渓流の変化と大きな岩の渓谷美。

紅葉の名所でもあるが、この時期まだ色づいてきたとは言えない。

それでも道路のあちこちで車を停めて休憩している人の多いこと。ここに来るなら、仕事を忘れ、心からのんびりしたいものだ。

道路の整備が進み、いずれ川岸を通らずに匹見町へ向かうトンネルが開通する日も近い。流れはとてもきれいだ。匹見町までがとても近く感じる。

裏匹見峡

一時期はやった巨大迷路などのあるウッドパーク周辺(匹見町の中心部)からR488を広島県側に向かうと「裏」への案内が見つかる。「裏」なのだから別に派手でもなければ代表格でもないのだろう。それなら求める「自然」はたくさん残っているはずだ、というのが希望的観測。
流れ

ともあれ、「裏」の探訪は「匹見峡レストパーク」から始まることを知っておかなければならない。

駐車場、トイレ、食事処。

それと、案内に不明瞭な場所があっても「裏」だからと我慢しなければならない。

キャンプ場やケビンの完備したスタート地点からいきなり危なっかしい堰堤を渡る。「裏」だからと少々の危ないことも目をつむる。いやここは右岸側を歩かなくても左岸側でもいいのだが、心理として早めに向こうに渡りたくなるのだ。

カツラの木が青々とした葉を見せる。ハート型をしたカツラの葉は好きだが、紅葉にほど遠いことはちょっと残念。今年は紅葉が相当遅い感じだ。

高い鉄橋を歩くと下に実をつけたヤマグルマが目についた。この木を見下ろせるのは珍しい。ヤマシロギク、キクバヤマボクチが咲いている。
ヤマグルマ

バイカツツジ、コバノミツバ、ダイセンミツバなどツツジの季節も良さそうだぞ。クロソヨゴ(ウシカバ)や花を付けたシロダモの木、タカノツメもある。

樹木に名札がつけてあるから、覚えたい人にはそれなりに楽しめる。

ここで国道側に渡る橋があるが、渡れば引き返すしかないので真っ直ぐ進もう。植林のスギ、ヒノキが並びあまり面白くない区間が少しだけある。

「エンコウ淵」では赤い橋を渡る。

下が透けて見えるちょっと足元が涼しくなる橋、流れを確認しておこう、当然上流に向かって歩いている。きれいで水量も多いぞ。 渓谷美

ダイモンジソウ

初めて流れを左に見て歩くこととなる。

すると程無く期待した花が現れた。ダイモンジソウだ。切れ込みの深いかわいい手のひらのような葉、背丈の低い愛らしさいっぱいの風流な植物だ。

かつてはこの花を「滝にうたれる修行僧」と表現した。水のそばにしか咲かない。この花を持ち帰っても維持は大変なのに、年々数が減っていく。

オウレンも多かったのだろう、独特の切れ込みの多い葉が一面にある。おやシュスランも見られる。

鉄製の階段があってアップダウンが激しくなる。
ダイモンジソウ
厳密には葉の切れ込みの深い「ナメラダイモンジソウ」と言われる

全長3.4キロの遊歩道の丁度半分まで来た。

夢中になって写真を撮っていたら1時間半かかっている。ひえー、まだ半分?

トンボソウらしき咲きガラ、クサアジサイ、キバナアキギリ、オオバギボウシと植層の豊かさは驚かされる。

キッコウハグマがきれいに咲いていた。もちろんダイモンジソウは次々と現れ、ヤマシロギクも多い。

 

「荒神の瀬」「踏み戻し」など各所に名前がつけてあって花の場所を記録することが可能なのはとてもありがたいぞ。

ホオノキの大きな葉と小さなツガの葉が道の上に積もっている。おおクマノミズキの赤い山サンゴ。あきないハイキングなのだが休憩場所は全く無い。恐らく普通の観光客はほとんど歩くことは無いのだろう。その分自然が残されている訳だ。



しばらく水のそばから離れていたが長い鉄階段を下りるとまたまたダイモンジソウが大群落を見せてくれた。これは今までで最高の花の量だ。
群落

「群岩の瀬」「くぐり岩」を過ぎここは「見返り岬」、広く周囲を見渡せる。

イチヤクソウの葉もたくさんある。

ヨコグラノキの札をつけた大木があった。帝釈峡で見て以来だ。アケビが頭上になっているぞ。ムラサキマユミがツリバナ風の実をぶら下げる。
ムラサキマユミ

久しぶりに赤い橋を渡り、ここは「天狗の涼み岩」、もういちいちポイントの名前をメモしていられない。

再び赤い橋(そう言えば橋は全部赤い)を渡って国道側に来る。おやムクノキだ、おいしい実が鈴なりだぞ、橋の上から簡単に採ることが出来るのでありがたい。

帰路の国道

河原に人が多い、つまり国道に車を停めて下りて来た人たちだ。やはり予想通り3時間かかってここまで来た。

車を置いたレストパークまで戻るのには国道を歩くこととしよう。下り坂でもあるし1時間以内で戻れる。このあたりが「小天狗」だ。

見上げると鈴ケ岳の岩峰が迫ってくる。

アキチョウジが明るい紫色の花を見せ、ヤマシロギク、アキノキリンソウ、ヤクシソウなどがとても新鮮だ。あ、ジンジソウも咲いている。ダイモンジソウに比べる        ととても大きい。切れ込みの少ない葉、も         みじ饅頭みたいな葉と覚えればいい。

あら、水のある場所ではダイモンジソウもあるではないか、おお、これまでの苦労は何だったんだ!

道に沿ってナギナタコウジュが並んでいる。日本製のハーブだ。一級品のいい香りは葉っぱをちょっと揉んでみると良く分かる。

アケビの実が見られる。車を停めて木に登り採っている人がいた。落ちると痛いよ。

歩いている我々を不思議そうに車が見て通る。その車も前から来る車とすれ違えなくてバックを繰り返す。やーい。

吉和村経由の帰り道などとても通る気になれないな。それより匹見町温泉「やすらぎの湯」に寄って帰る方がいい。

なかなか豪華なお風呂で一人650円、今日は歩き続けたからこんな施設があることが嬉しいネ。

ダイモンジソウは今がベストだが、紅葉のベストシーズンはこれから。温泉つきのハイキングは絶対オススメ。



【編集後記】

紅葉が終わるともう冬と思っている人が多いのでは?広島県はスキー場が多いが、沿岸部は年中春の暖かさだ。是非、セトノジギクやシマカンギクを訪ねて欲しい。

昨年の12月、QJY140号では上関町の花を案内している。この時期でも花盛りなのだから。そして、シャシャンボのジャムでも挑戦してみて。