QJYつうしん 152号


平成12年11月18日〜20日

南国土佐の霊場を ヤッコソウが練り歩く      室戸岬と牧野植物園  高知県

四国にはこうして時々花を見るために来ることが多い。

いつも阿賀〜堀江フェリーを利用する。フェリーに乗ったのんびり感がたまらなく好きだから。それと、しまなみ海道は広島からだとちょっと遠回りでもある。

この時期は当然紅葉の季節でもあるので、面河川(高知県で仁淀川になる)の渓谷の紅葉の美しさが快晴のこの日の青空をバックに映える。

広島を朝一番に出て14:00に高知市の西隣「伊野」までやって来た。右をJR、左を土佐電鉄の線路が走るR33。ここで電車の「いの」という表示にちょっとむっと来る。来たばかりなのに「いの」は無いだろ?すると反対向きの電車は「ごめん」と書いてあったので、まあいいか。

高知県は東西に長い県だが高知市の長さも相当なもの、混雑した市内を抜けるのに時間もかかる。一部R32を経由して、R55を一路室戸岬に向かう。

白装束のお遍路さんの姿も多い。

さらに2時間走るのだから、室戸岬は沖縄よりはるかに遠いことになる。岬が近づくと道路に沿ってハイビスカスやアロエが満開だ。

四国霊場札所のヤッコソウ

四国霊場八十八箇所のうち26番目「金剛頂寺」は知る人ぞ知るヤッコソウの自生地だ。今はどこのお寺も車で行くことができる、案内標識も分かりやすいから道を間違えることは無い。

お遍路さんたちと長い階段をあがって、その場所はすぐに分かった。

大きな看板にヤッコソウの説明が書いてある。スダジイの根に寄生する葉緑素を持たない植物ヤッコソウはその名のとおりヤッコさんが両手を広げて踊っているように見える。ユーモラスな姿をした一見キノコのような植物。あの世界最大の花「ラフレシア」と同じ仲間というのも驚き。高知県出身の牧野富太郎が新種として発表した。

シイの大木(大木なのでスダジイかどうか確認が出来ない)の周囲に点々と、目が慣れるとたくさん出ているのが分かった。

肌色のヤッコソウは赤ちゃんやキューピーさんの人形が置いてあるようにも見える。大きさは小指の先ほど。雄花のキャップを取ると雌花が出てくるなんてどう考えても不思議。

男性ならどこかで見たような筒状の突起物・・・。
ヤッコソウ

さて、すぐに最先端、室戸岬にある「最御崎寺」も訪ねてみよう。ここも一箇所ヤッコソウが咲くので有名。売店には「ヤッコソウ出ました」と親切に張り紙がしてあった。店のおじさんに咲き具合を尋ねて見ると、「今年はあまり良くないね。」との返事だった。

しかし教えて下さった場所には20本以上のヤッコソウが見事に参勤交代の殿様行列で練り歩いている。なんとも微笑ましい光景だ。

お遍路さんたちも次々と見物にやってくる。この植物もだんだん有名になってきて、そのうちこんな近くで撮影させてくれなくなるかも知れない。いや、注意しないと地表から出てきたばかりの赤ちゃんを踏んでしまいそうだ。

時刻は夕方5時前。

おっとそうだ、急いで室戸岬の灯台に出る。丁度快晴の西空に真っ赤な夕陽が沈んで行く。

大海原を眺めながら、「思えば遠くに来たもんだ。」、それにしても今日一日移動日だった気がする。

シオギクとアゼトウナ

翌朝、今どきちょっと古くさい国民宿舎「むろと」から岬への山道はアワユキセンダングサ、シラヤマギク、ツワブキ、ヤクシソウが満開だ。

朝は岬の先端から東へ遊歩道を散歩する。
岬の遊歩道

いきなりシオギクとアゼトウナが素晴らしい光景を見せてくれた。ダンチク、イヌビワ、ホソバイヌビワ、ウバメガシ、ハマヒサカキ。挙げればキリが無いほど海岸性の植物のオンパレード。
シオギク

海岸の岩場に沿って遊歩道は1キロくらい続く。沖合いの岩場は釣り客でいっぱい、遊歩道はウバメガシのドングリ拾いの人たち。

暖かい日差し、今日も快晴だ。実をつけたマサキ、トベラ。小さなイチジクをつけたアコウの木を沖縄以外で見るとは思わなかった。ツルソバ、フウトウカヅラ、キンギンナスビまで。

ウバメガシのトンネルやアコウの大木などどれも見ごたえのある植物ばかり。アコウは気根が大岩を抱くように巻いている、いわゆる絞め殺し植物。同じクワ科のガジュマルの気根が枝の途中から出るのとはちょっと違う。

ずっとシオギクとアゼトウナは切れ目なく続く、遊歩道は黄色い花の帯。ノジギクも出てきた。本来なら足摺岬のほうに多くアシズリノジギクと言う固有種と認定されている。ここにあるものはとりあえずノジギクとしておこう。花はいい香りだ。

海が荒れるせいだろうかセトノジギクより葉が厚い。
ノジギク

タイトゴメ、ハマナタマメ、ノブドウ、ヒトツバ、センニンソウ、ニオウヤブマオ・・・。

ハマナデシコもまだ咲いている。

ハマゴウは香りの良い実。

浜辺に出るとサボテンが自生していた。リュウゼツラン、ハマユウ、ナワシログミ。おや、クワズイモの大きな葉だ。まるで沖縄のジャングルにいるみたい。


ハマニンドウの花が見事に咲いている。季節感がわからなくなりそうだ。ハマナデシコの赤い花。

「土佐日記 御崎の泊」の石碑がある場所まで1時間かけて歩いて、ふう、満足。

特にアコウの純林は絶品。コゲラがたくさん飛んで来ていた。エノキ、アオギリ、ヤブニッケイ、シロダモなど瀬戸内にも近い分布を見せる。

まばらな観光客の数、一人が「のんびりしとって、ええねえ。」と、ほざいておった。

寄り道そして牧野植物園

本日どうしても早く行きたい場所がある、高知県立牧野植物園だ。その前にいくつか寄り道をする。

キラメッセ・室戸にある「鯨の郷」、鯨の博物館だ。捕鯨文化の立場から鯨を見るのも大切。

ゆっくりR55を高知に向かう。岬と津呂の区間は「ハイビスカスロード」と名付けられ花が咲き乱れている。美しいアロエが街道沿いに植えてあり花をつけていることも南国ムードを満喫できる。伊豆半島でも同様な光景だったと思う。もっともシオギクのかわりにイソギクだったが。

そして阪神タイガースの春季キャンプ地でもある安芸では「野良時計」のあるコスモス畑で小僧寿しの昼食としよう。
野良時計

14:00に着いた高知市でちょっと寄りたい場所があった。前日のTVのローカル放送でやっていた、「カンラン展」だ。会場の「サンピア高知」はスポーツ施設で体育館を利用してカンランの品評会が行われていると言う。寒蘭は牧野博士が名付けたこの地方独特の和製ランで、体育館に並べられた絶品のカンランは値段をつければどれも2〜30万円はするという。
カンラン

シュンランに似た形のランだが細く大きい、一株にいくつも花をつけ、背丈も高くとにかく豪華。

これはちょっと広島では見られない。

いつもこうして思いつくまま行き先を変えてしまうので、私の旅は予定通りにはいかない。

そして五台山の牧野植物園にウキウキしながら飛び込んだ。入場券¥500−を支払う前に前庭には海岸の植物が植えられているのを見学できる。
牧野植物園 オオツワブキ

「土佐の植物生態園」と名付けられたこの区域だけでも見ごたえがある。

中に入ると牧野博士の生い立ちから一生を分かりやすく展示、博士がこだわった植物コオロギラン、バイカオウレン、ジョウロウホトトギスやヨコグラノキ。もちろんマルバノキやキレンゲショウマに代表されるソハヤキの説明、常設展と現在の特設展示「植物画」についてなど。

日本の植物学を世界レベルに引き上げた牧野博士の情熱と功績を今更ながら驚かされる。

しまったこれほど内容のある植物園ならもっと時間に余裕を持つべきだった。

それはそうと¥2,000−で年間パスが買えるのだそうだから、高知の人は幸せだ。

館内で今咲いているのはキク類、もちろんそれが目当てでやって来た。

萩にあるダルマギク、立久恵峡のオッタチカンギクにここで逢えるとは。ナカガワノギク、イソギク、ノジギク・・・、キクのオンパレードだ。
ダルマギク

花を見るだけの植物園では無い。植物学の歴史をここであらためて勉強できる。

しかし閉館の5時がすぐにやって来た。今度はもっとゆっくり見て回ろう。

国民宿舎「桂浜荘」はインターネット予約をした。とてもきれいで「むろと」とは大違い。桂浜もノジギク、アゼトウナが岩場を黄色く染めて咲いていた。今回の旅はこの2種のキクで満足満足。

そのうち雨がぱらついて来て、坂本竜馬記念館と桂浜水族館に寄り帰途についた。