QJYつうしん155号 休日は山にいます 平成13年3月31日



春満開のドライブに行くべし
ミツマタとコウヤミズキを見る旅

           向原町虫居谷〜南原峡

 

きっかけ

ホームページとはボランティアの原点では無いか。もちろん企業のものや、これで商売をしている個人もいるが、私を含め大多数のホームページ作成者は利害の関わらないところで地域の情報を全世界に発信しているのだ。

カタクリの里で知られる広島県向原町についてインターネットで検索していたら、ある女性の作っているホームページにたどり着いた。とても温かみのあるページで、私もこのような優しさ溢れるページを作ることが理想になっている。

http://ha6.seikyou.ne.jp/home/azami/

そう言えば、2年くらい前だったか向原町にミツマタの咲く谷があることを新聞で読んだことがある。さっそく彼女にその場所を教えてもらおうとメールを入れた。

彼女はすぐに返信してくれ、詳しくその場所を教えてくださった。

ミツマタと言えば「一万円札」に使われる和紙の原料として名高い植物だ。広島県ではコウゾ、ガンピともに山で見かけるが、ミツマタほど花がきれいな和紙原料の植物は無い。

見るなら桜が咲き始める前くらい、ちょうど今が時期のはずなのだ。

「五郷会(石見幸三会長)」という地元のグループが看板を立て、下草刈りをしてくれたと言う新聞記事も一昨日読んだばかりだ。

向原町・虫居谷

前日、出張先の東京ではもうサクラが満開だった、広島ではまだこれからなのに。まして向原町は標高がある程度高いので少し遅いはず。

私自身、年度末の仕事収めに没頭していたため、夕方から雨が降り始めていたことに気がつかなかった。朝、出かけるまでこの日の天気があまり良くないことを知らなかったわけだ。

しかし誘った友人は雨でも関係無く出かけると言う人。まあ、ミツマタの花なら雨には無関係で咲く。

しかし、せっかくこの時期に向原町と言えばカタクリが見られるのだから、本心は晴れていて欲しかった。つまりカタクリは曇っていると花を閉じる性質があるのだ。

案の定、たくさんのカタクリがつぼみをつけていたが、開いているものは無い。下を向いて無口になっている。しかし時期としては悪くなかったようだ。午後からなら開いていることだろう。

彼女が教えてくれたとおりに車を走らせ、目的地の虫居谷(むしだに)に到着した。


車を奥まで入れて停める。

流れに沿ってピンポン玉大の黄色いボンボリが明かりをつけたように並んでいるではないか。おお、咲いていた。そして支流の谷の奥にずっと続いている。


苔むした小石の上を踏んで、流れを飛び越えて向こう岸に渡る。

歩きやすいようにカズラを刈って下さった五郷会の皆様に感謝。

渡ったところにある潅木はキシツツジのようだ。ヤブツバキが切られているのが残念。カズラはテイカカズラ、ジャケツイバラ、ノイバラなど。


近くで見るミツマタはどれも大きい。小さな木だと上から見下ろすのできれいな花の姿が見られないが、こうして背丈よりも大きな木であればどの花も下から見られ、明るい黄色が映える。

気がつけばバックは青空だ。

谷の奥から暖かい陽が射し込んで来た。すると丸い玉にまるで電気が入ったように周囲が明るくなる。

「わーい点灯したぞ。」、童心に返る。

奥まで100メートル以上、全部ミツマタで埋め尽くされている。こんな群落ははじめて見る。

奥行き100m以上ある谷

湿度の高い森の中、ユキワリイチゲの葉もあちこちで見つかった。今後、この伐採で土が乾き、どう植生に変化を及ぼすか。

周辺のミヤマカタバミ、チャルメルソウ。樹木ではアブラチャン。ミツマタはその名前のとおり一枝が三つに分かれ伸びていく。「3の累乗」という数学の世界を思い浮かべ吹き出してしまう。

恐らく起源は栽培種だったものなのだろう、しかしここでは山陰のように農業としてのミツマタ栽培はなされていないようだ。

大土山のキャンプ場

この日は大土山(800m)に登るつもりだ。

向原方面に戻り甲田町に抜ける道を進むとその登山口はある。「大土山自然スポーツ林」と名づけられたこの一帯はその名のとおり自然林の中でキャンプ場や登山まで楽しめる。


実は昨年登ろうとして道路工事で入れなかった思い出がある。道路沿いにはシキミやヤマコウバシがたくさん花をつけていた。
ヤマコウバシ

すると虫居谷であれだけ晴れあがっていたのに小雨そしてだんだん雪になってきた。論山湖まで来たときには完全な大雪、とても登れる状況では無い。運転していても前が見えない。

楽しみの春の花が見られる状況では無さそうだ。今日の大土山はあきらめることとしよう。

ゆずりは農道

県道37を井原まで引き返し可部の大林に出る道をドライブしよう。農家の庭にはレンギョウが明るく咲く。また青空が出てきた。

途中から「ゆずりは農道」を利用して上根まで出る。この辺りのサクラはまったく咲く様子が無いぞ。白いウメがまだ満開状態だから。

南原峡までは慢性の渋滞の中をドライブしなければならない。周囲の山に点々と見られる白い花をつけた樹木はタムシバだ。

丁度昼なのに、大渋滞。よし、車の中で弁当にしよう。そのほうが時間の節約になるぞ。雨が降ったりやんだり。


南原峡

13時丁度に南原峡に着いた。

ここでも着いた途端に快晴の青空だ。最後の橋を渡ると流れの両側にコウヤミズキのうす黄色の花がびっしり垂れ下がる。細い花はキブシだ。

アブラチャンも小さな花を見せる。

駐車場から歩き始めるとコタチツボスミレが道端に見つかる。ミヤコアオイ、チャルメルソウ。気がつかないうちに南原峡はもう春満開の季節になっていた。

シキミ

気がかりは昨年夏崩れたと聞いた加賀津の滝周辺の植物達の様子だ。

遊歩道をこの時期飾るのはヤブツバキの赤い花。例年ほど多く咲いていないのかな。道の上に落ちている花の数がやけに少ない。いや、良く見ると株が何本か切られている。残念なことだ、何故なんだろう?

コウヤミズキの花は先ほどから絶え間無く楽しませてくれる。今、満開の花を今日はいくつ見たことだろう。

キブシ、ヤブツバキ、シキミ、ヤマコウバシ、アセビ。すべてがここには有るぞ。

ウグイスカグラも赤い小さな花をつけている。

マムシグサまでが見つかった。

クロモジ

最も奥まで来ると広場が出てきたのには驚いた。いや広場では無い、これが土砂崩れで一気に流された跡なのだ。

倒木はきれいに整理されている、トイレまで新しくなっている、休憩所が無くなり河原が出来たみたいだ。そうか、ヤブツバキが切られていたのは作業車が入ったからなのだ。

加賀津の滝は前と変わっていない。可愛いバイカオウレンが咲いている。自然の大きな営みと普遍の時の流れ。

バイカオウレン

こうして一往復一時間のいつもの南原峡、変わらないで欲しいという願いはとりあえず叶えられた。

  帰路の中電の施設の近辺でサルの団体が道路に出てきていた。山の中にはあまり食べるものが無いのかも知れない。

  一匹だけ見ることは良くあるが、こうして子猿まで含めた集団を道路で見るとは。