QJYつうしん 休日は山にいます

花曇りの春の一日   車を降りたところがお花畑 

       君田村・神の瀬峡


QJY156号 2001/4/14

高暮ダムへの道

三次を過ぎるとまだサクラも散ってはいないようだ。コバノミツバツツジも山をピンクに染めているというほど咲いているわけでもない。

まだまだ、春に入ったばかりの県北の山の姿。ヤマブキが咲き始めたばかりで、君田村への快適なルートを飾る。

夏には見事に咲き誇るヒマワリ畑は悲しげな墓標のような姿で枯れてうなだれたヒマワリが突っ立っている。たくさんの人が訪れ楽しんだあの夏の君田村は、まだ今年度のスタートを切っていない。  しばらく行くと、温泉宿泊施設「森の泉」がある。それにしても県内どこにでも出来てしまった温泉は皆、盛況なのだろうか。

ここを左に曲がると、あとは一本道、どこで車を停めても田舎の春の草花が待っているわけだ。

最初に停車したのは「高幡森林浴の森・キャンプ場」の前、何しろ見下ろすサクラが満開状態。直接キャンプ場までは降りて行かなかったがとりあえず周囲の植物観察をしてみよう。

カキドオシ、ナガバノタチツボスミレ、オオタチツボスミレなど。

春を満喫するのにスミレの花は欠かせない。

ゆっくり走っていると、歩いている人達が会釈をしてくれる。ここは気持ちのいい村だ。山々はパステルカラーで描かれた新緑一歩手前の状態、こんな時期が私はどれほど好きか。

そしてしばらく行くとカーブ左手に杵築神社がある。一見の価値のある木造の拝殿と、何よりトイレがあるためちょっと休憩にもいいだろう。

境内には大きなイチョウの木、サクラの花びらが風にはらはらと舞い、足元にはイチリンソウ、スズシロソウ、先ほどのスミレ類がたくさん咲く。
杵築神社

拝殿左手にある、畳半分程度の広さで囲った木の柵は牛の種付けに使われたと言われる。この話はヒコビアの三上翁が教えてくれたと府中町の漢方薬局「薬王堂主人」の話。

縛られた雌牛を雄牛が背後から・・・。

ま、これは儀式でもあり、良い子牛に恵まれたいと言う祈りを神前に捧げたことなのだろう。

しかしそんな経歴のあるものはちゃんと説明板を掲げて欲しいものだ。何かの都合で簡単に取り壊されてしまう可能性があるから。

番神さんのヤマエンゴサク

君田村には「番神さん」と言って子供を守る神様が祭ってある場所が何箇所かある。子供の健やかな成長を祈願して、誕生時や病気の快癒などで三次人形を奉納したとされている。

橋を渡ると懐かしい田舎の風景。

この番神さんを訪れるのは今回が二度目、昔と随分変わってしまった。正面に巨大な三次人形が飾られ、木の階段が作られていた。

番神さんの三次人形

何よりここまでの道路が整備されていることに驚きと無念を感じる。道路端にあった植物などはこうやってどんどん無くなって行くことが「無念」なのだ。もちろん地元の人達には便利さと快適さが与えられ土建業者などに公共事業が割り当てられる。

辺りにはツクシがたくさん、ひょうきんな筆を伸ばしている。オオタチツボスミレやイチリンソウ、タチイヌノフグリ、オオイヌノフグリ。

そしてタネツケバナなど並ぶ中に思わず歓声を上げたくなる紫色の花の群生があった。

ヤマエンゴサクだ。ものすごい数。

ヤマエンゴサク

あたり一面ヤマエンゴサク。丸い葉のもの、学名コリダリス・リニアリロバのとおり流線型の葉のもの。花付きが良いからムラサキケマンが咲いているかと錯覚する。

淡い紫色は周囲の山々のパステルカラーにもマッチしてうららかな春を演出しているみたいだ。絵心が無くても「絵」を画きたくなる、と山を見ながら連れの友が言う。

流れに沿って

三次で江の川に合流する前に、ここではたくさんの流れが集まっている。北部の山からの流れが結局山陰の江の川となることにとまどいを感じるが。さて、車を走らせていると、堰堤があったので、ちょっと入りこんでみよう。

サイハイランの葉が見つかった。

昨年の実をつけたタニウツギ、新芽を出したばかりのハナイカダ、今が盛りのウグイスカグラ。

小さな谷に下りるとイチリンソウやキケマンの仲間がある。キケマンは実の形で、ある程度同定出来るので、自然観察として同じ場所に通いつめることが大切だと思う。

もっと奥に入るとワサビが満開だ。ミヤマカタバミ、シロバナネコノメソウ、ボタンネコノメソウがおおらかに咲く。

更に車を進めると、沓が原ダムではサクラが満開。キブシが川端に花をぶら下げ、ところどころにコバノミツバツツジ(これも今の段階ではダイセンミツバツツジと区別できない。)も咲いている。

ちょっと足を止めるとスミレ類が私を待ち伏せしていて先に進めない状態だ。先に進めないのはスミレを調べていると時間がかかるという意味。まったくスミレちゃんは個性的で、大好きな花なのに戸籍調査は時間がかかる。いや、時間をかければ分かるのか、と言えばウソになるが。

新装なった神の瀬峡の広い駐車場には満開のサクラが4本ある、この下に車を停めてティータイムとしよう。花びらがはらはらと舞ってのどかな春だ。実はお弁当を忘れているので、お茶菓子が頼みの綱。でも「だんごより花」と言えるのは一年に何度も無いぞ。

イカリソウや咲き初めのコバノミツバツツジが嬉しい。近くの田んぼではもう水を張っている、カエルの声も聞こえる。夏にはモリアオガエルのタマゴを見かける場所。

民家の裏にはまだウメが咲いていた。ここは何度も言うがやっと春が来た場所なんだな。

時折薄日が射し、「花曇り」という言葉がぴったりのこの日の天気も嬉しい。

神の瀬峡キャンプ場

キャンプ場に車を置いて、危なっかしい細い橋を渡ってみる。高いところには結構水量のある滝が見える。残念ながらこの山道は今見えている滝まで行けないが、近くまでは行ける。中国電力が管理している区画のようだ。

山道にはミヤマカタバミやコタチツボスミレ、イチリンソウ、フキなどがあり、上まで上がると木々がまだまだ十分葉をつけていない。

ミツデカエデ、チドリノキ。森のブロッコリー、ニワトコも花をつけている。

足元にはシロバナネコノメソウ、おやこの葉はコンロンソウだ。黒っぽい筒状の花がある、有名な毒草ハシリドコロだぞ。今を盛りと咲いている。

ハシリドコロ

コチャルメルソウ、チャルメルソウ、若葉のミヤマイラクサ。最深部にはまたハシリドコロ。

この地域にはカヤとイヌガヤが共存する。

キャンプ場に戻り石垣にユキノシタの葉があるのを確認、この石垣には夏にキカラスウリが咲いたっけ。

その時にウラシマソウも見つけた記憶がある。今日初めてナガバノスミレサイシンも見つけた。ヤマエンゴサク、ヤマルリソウ、キケマンはもう珍しく無いぞ。

高暮ダムまで

更に奥へ進めば、ダムまでたどりつく訳だが、神の瀬峡のきれいな流れはとても心が休まる。奇岩やプクプクと水中から泡が立っているところもある。

所々から流れが滝になって落ちている。

そんな中に本日の最大の目的、サンインシロカネソウがたくさん咲いていた。

黄色い葉を輝かせるボタンネコノメソウと共生しているので、ちょっと気がつかないかも知れない。この花の最初の発見者は女性だった。ちょっと注意すれば気がつくのだが、広島県ではここしか自生が確認されていないたいへん貴重な種。

サンインシロカネソウはサバノオの仲間で、小さな黄色い花(キンポウゲ科なのでがくにあたる)の付け根が赤い。別名ソコベニシロカネソウなどと呼ばれるそうだが、可愛さでは抜群の人気者。控えめに下を向き、5月連休の船通山などでも沢沿いに見られる。

サンインシロカネソウ

岡山県,島根県,鳥取県で見たことがあるが広島県では今回が初めてだ。

サバノオの仲間らしく実は魚の尾びれの形をしている。

植生(群生として)は他県に負けないぞ。

50メートルくらいの幅で群落を作っている。ひとつの株に3〜4個のかわいい花をつけて。

水が大好きなサンインシロカネソウ、そばにはタチカメバソウの葉、コチャルメルソウ、チャルメルソウ、ん?ダイモンジソウらしき葉もある。

クレソンも花を付けていた。