QJYつうしん 160号 休日は山にいます  2001/7/28

百花繚乱のお花畑

トモエソウがくるくるまわるよ

  八幡湿原・千町原の夏の一日

通い続けて

八幡湿原に咲く野花は私にとって写真の題材でもあり、四季の移り変わりを教えてくれる自然の教師とも言える存在だ。併せて、自然保護の教訓をこの地でたたきこまれた。

マイカーの中に山ほどの山野草を押し込めて駐車している女性。注意してもその行為の何がいけないのかさっぱり理解していないことの恐ろしさ。明らかに業者と思われるトラックに積み込まれた、布で覆われた樹木。

こんな犯罪行為を受けてなおこの湿原は県内有数の自然豊かな植物相を示している。決して強いわけではない、自然はいとも簡単に崩れ去る弱さも持っていることは知っていて欲しい。

さて、私の好きなこの湿原の魅力は何だろう。

春の目覚めはリュウキンカ。水辺に黄色いじゅうたんを敷いたように咲く。ヒメザゼンソウはリュウキンカとともに氷河期の生き証人と言われる。

初夏は若葉とともに何もかもが生き生きと見える。湿原を紫色に染めるカキツバタや色とりどりのスイレンが日曜画家たちの題材になる頃はすべてが美しい。

そして梅雨が明けて、ニ川(ふたごう)のキャンプ場が子供達の声で賑わう頃、そう、つまりこの時期の八幡湿原を紹介しよう。どこに隠れていたのかと思うほどいろんな花が咲いているから。

長者原のノカンゾウ

R191を松原の交差点で左折すると、まず目に入るのが道路に沿って植えられたアジサイの植栽。青、ピンクと咲くアジサイ、植えられたものと知っていても素直に「きれい」と感じることだろう。

日陰に咲くものの方が青は鮮やかになる。これは紫外線の影響。しかし芸北町に入るとこのアジサイがばったり見られなくなるのは寂しい。

長者原で今見るならノカンゾウの群落だろう。
ノカンゾウ

ここまでの道すがら大柄で八重咲きのヤブカンゾウばかり目についているのだが、ノカンゾウはおとなしい一重咲き。田んぼのあぜ道に車を置いて散策して見る。

あぜ道に沿って今年もノカンゾウ群落は健在だ。少しずつ草刈されて範囲が小さくなっているのが気になるが。

ヤブカンゾウに比べて、葉も細く背丈も低いがキツネノカミソリなどとは比べ様もないくらい大型のユリだ。

薬用に用いると「金針菜」と呼ばれ消炎・利尿剤として有名。ワスレグサ属という分類もその由来を良く研究して見るとおもしろいかも知れない。

ネジバナ

周囲の田んぼにはたくさんのネジバナが立っていた。中にはほとんどねじれていないネジバナも。手のひらを差し出したような小さな花はアゼムシロだ。別名ミゾカクシ、この地域では良く見る。
アゼムシロ

休耕田の水の中にはコナギが紫色の花をつけている。その他、チダケサシ、キツネノボタン、つぼみのワレモコウなど。

コナギ

ビッチュウフウロの湿原

昔、ヒメザゼンソウのことを教えてもらうために90歳を越えた児玉集さん(牧野富太郎博士を案内したことのある地元の植物研究家)の家を訪問したことがある。

その時は湿地の奥へ奥へ入らされて沼の中のミズバショウを見せられた。「これわしが植えたんだけどね。」といたずらっぽく笑う児玉さんにも困ったものだが。

ビッチュウフウロはそんな湿原の道路端でお目にかかることができる。花びらに赤い血脈のような模様が入るきれいなフウロソウだ。

これからサワギキョウやサギソウも咲くことだろう。今年はトキソウの咲いている頃にも来た。今はオオハンゴンソウ、ハンカイソウ、咲き遅れたノハナショウブ、アギナシや咲き始めたナガボノシロワレモコウやナガボノアカワレモコウが見られる。ナガボノアカワレモコウ

続いて春にはシモツケソウの咲く湿原まで移動するとクサレダマが優雅に咲いていた。

クサレダマは「腐れ玉」ではなく「草連玉」のこと、結実すると玉状になるのでわかりやすい。この植物を観察するときは葉のつきかたに注目して見よう。図鑑にも「葉は対生、あるいは3〜4輪生」と書いてあるはず。

この近辺でも2枚葉や3枚葉のクサレダマが花をつけている。こんな葉の違いを見るのも観察のおもしろさ。そう言えばこれから深入山で見られるキキョウも、葉の付き方が普通じゃないよ。

クサレダマ

二枚が対生し少し離れて一枚出るもの、三枚輪生のもの、普通に互生のもの。

千町原の「かりお茶屋」

最近まで八幡湿原に来るなら弁当の用意は不可欠だった。飲料水の自販機ならあるがコンビニは無かったのだ。

しかし今は「かりお茶屋」が出来た。

営業時間10〜16時、火・水曜日定休

電話08263−6−2727

蝶の標本や動物の剥製を展示しているので勉強にもなるぞ。隣接する「芸北町の民家」も一度は見ておきたい。

ここには昔から使われてきた農耕民具が展示してある。もっともこの家そのものが素晴らしい。無料で上がらせてもらえることになっているそうだから、是非畳の上に腰を下ろしてみたいもの。

芸北の民家

牧野富太郎博士の句碑近辺も散策して見よう。陰に入ると夏とは思えない涼しさに驚く。

ビッチュウフウロ,ゲンノショウコ、ノコギリソウ,ハンカイソウ,エゾミソハギ,カワラナデシコ、オミナエシなど。

オミナエシ

コンフリーなど生活密着型の植物もある。

ヌマトラノオ

ちょっと空き地があれば車を停めて周囲を歩くのが花好きの法則。草刈りがしてあり祭壇のような石垣を見つけた。やはりここは神社か寺の跡かもしれない。その証拠に両側に立つボダイジュとイチョウ、昔の人の生きてきた跡だ。

近辺にはオミナエシ、マツカゼソウ、カワラナデシコが咲く。


まずこれほどの群落は日本でもここだけでは、と思うのがトモエソウだ。千町原のかなりの範囲をこの大型のオトギリソウが占めている。広い湿原を埋め尽くす黄色のスクリュー、入って行こうものならマムシに出会いそうになるのでここまで保護されているのかも知れない。
トモエソウ

双眼鏡で見渡すとかなり奥まで群落が広がる。

ミズチドリ

ミズチドリも青空をバックにすっくと立つ。終わりかけたオカトラノオのそばには直立不動のヌマトラノオ、花穂の下から順に咲く様はオカトラノオと同じ。カンボクはまだ実の色をつけていないようだ。

かりお茶屋の前の駐車場にはナツツバキが白い花を付けていた。植栽してあるものはコブシ、ナツツバキ、ナナカマドなど。


ニ川キャンプ場にもヌマトラノオの群落がある。水の中には黄色が鮮やかなアサザ、コウホネが咲き、アキノタムラソウやコオニユリ、オオヒナノウスツボなどが散策路を飾る。

オオヒナノウスツボ

ブタナ、ミヤコグサ、オミナエシ、ヤブカンゾウ・・・枚挙するとキリがない。

貴重種オオマルバノホロシやエゾミソハギは北方系。カラコギカエデは県内ではここでしか見たことが無い。

サワヒヨドリは中でもとびきりの美人だ、すらっと立ち化粧も控えめ、それでいて何故か存在感のある花だ。

明るい黄色の長細いすらっと美人はユウスゲだ。昼間はたいていしぼんでいるが

うす紫のスマートな花はコバギボウシ、湿原を代表する植物は季節による住み分けを確実に行っている。リュウキンカ→ヒメザゼンソウ→トキソウ→コバギボウシ→サワギキョウ→サギソウと変化するのだろう。おかげでいつ来ても飽きることの無い八幡湿原。
コバギボウシ

赤い実はミヤマガマズミ、イソノキなど。

満開状態はノリウツギだ。枝の先に白い装飾花とともに咲く。流れる水に足を入れるととても冷たいぞ。オニヤンマが目の前をパトロールしていた。

ノリウツギ

あまりの広さに今日はこれだけで精一杯だ。これで尾崎沼まで足を伸ばせば頭の中がオーバーフローしてしまいそう。



【編集後記】

臥竜山の「雪霊水」はどうしてこれほど冷たいのだろう。もっともこの近辺の気温は暑い時でも24℃くらい、次々とこの水を求めてポリタンクを持った人がやって来る。

雪霊水を一年置いて水が腐らなかったという話もある。

山頂直下で湧き出し、どんなに少雨でも涸れない。つまり雪霊水は相当地下から適度な圧力を得て湧き出しているに違いない。

ペットボトルに入れたとたんに水滴が表面を覆う。冷たくておいしい水、いつまでも。