QJYつうしん 161休日は山にいます
世界の熱帯植物の殿堂

  小笠原も東京なんだって?

      東京都・夢の島熱帯植物館
ヘリコニア・ロストラタ
2001・9・9

小石川からベイエリアへ

昨夜のうちに会社の用は済んでいた。せっかくの東京だから遊んで帰らなくっちゃ。

小笠原方面に台風15号がいてゆっくりこちらに向かっているという。東南アジアで発生するのではなく、太平洋生まれの暴れん坊も結構多いのだ。植物の移動にも台風はおおいに関わってきた。昨年台風で足止めをくった宮古島の博物館で少しは勉強したぞ。

そう言えば東京には「夢の島熱帯植物館」がある。本日の予定は小石川植物園なのだが、よし午前中に切り上げて出かけて見よう。

小笠原諸島は東京都に属し、この植物園は小笠原の植物を数多く展示していることで有名だ。

夢の島は東京都のゴミ処理のために作られた巨大な埋立て地で、ここに「夢の島熱帯植物館」があるということは、ゴミ処理で発生した余熱を利用しているわけだ。温室の暖房や館内の冷房、給湯に必要なエネルギーを清掃工場からの高温水を再利用してまかなっていることがこの施設の最大の売り物と言われている。

それにしても「熱帯植物」と聞くと、ワクワクするものがある。私個人も沖縄に出かけると必ず現地の植物園に立ち寄る。たぶん頭の中も「熱帯」なのだろうね。

熱帯植物はアフリカ、東南アジア、南アメリカの熱帯雨林や中央アジア、中央アメリカに代表される栽培植物、香辛料など人間生活に役立ってきた歴史など読み物だけでもそうとう面白い。

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新木場駅から園内まで

午後になってベイエリアである新木場に到着。地下鉄でもここまで来ると高架の上を電車が走る。窓の外に見える温室らしき大きなドーム、そのまわりを緑地公園が取り囲んでいる。

歩道を歩き始めて、まず目についたのがイワダレソウだ。小さな花を穂の上に並べて一面に咲いている。本来なら海岸地に多い植物のはずだ。
イワダレソウ

時折雨がパラパラと落ちてくる。青空も見えるからそうとう荒れているわけだ。これは台風15号の影響。

案内地図があちこちにあって迷うことはなさそうだ。これから「ユーカリ橋」を渡れとある。上を見上げるとなるほどユーカリが多いぞ。

中にはキャンドル・バークというコアラが好んで食べる品種も植えられている。大木だ。

ユーカリをはじめトウネズミモチ、ウバメガシ、赤い実をつけたサンゴジュなど確かに暖かい地域の植物が並んでいる。

どうやらここは相当暖かい場所らしい。

その他アキニレ、マテバシイ、アオキも。
ユーカリ

大きなユリらしき植物はハマカンゾウだぞ。ヤブツバキ、サイカチと完全に海岸地の植生ではないか。実をたくさんつけたイスノキ、有名な虫こぶもついている。ヒョンノキとも呼ばれるのは虫こぶに虫の出た穴があき、笛として遊び道具となるから。

遊歩道を歩いているだけでもこんなに楽しい。

鹿児島県の県木だったかカイコウズがまだ花をつけている。

カイコウズ
ハマカンゾウ

都市型気候で2〜3℃は通常より高くなり、周囲の施設からの熱気でこのあたりだけ太平洋沿岸地の気候になっているのだろう。

東京都でもここはまったく南国だ。

木陰から腰ミノをつけた女性が飛び出して、フラダンスを踊り出したらどうしよう。一緒に踊るべきか…・。と悩んでいたら、熱帯植物館の入り口に着いた。

休館日は月曜日、入場料250円、65歳以上は無料とリーズナブルな設定だ。

先ほどまでも十分亜熱帯の植物を見てきたのだが、目の前のおおきなドームの中は楽しみだぞ。入り口の垣根にゴーヤ(にがうり)の花が咲き、ルコウソウやアーティチョークが植えられている。

庭の水槽にはオニバス、植え込みにはランタナなどもある。ヤタイヤシというヤシは赤い実を芝生にたくさん落としていた。

それを眺めていたら、学芸員の人だろう、「それは食べられますよ。」と教えてくれた。ヤシとはいえココヤシのような大きな実ではなくて、トックリヤシのようなたくさんの小さな実である。

口に入れてみると何とも甘い、香りもいい。

ヤタイヤシ

三つのドーム

時折吹きつける雨でも、温室めぐりの植物園だから問題ない。ABCの三つのガラス張りドームは連続していて、Aは木生シダと水辺の植物、Bはヤシと人里の植物,Cはオオギバショウと小笠原の植物と分けられている。

Aに入ってまずフウリンブッソウゲが見事に咲いていた。そして水面に浮かぶオオオニバス、おやピンクの毛玉が乗っているぞ。サガリバナだ。
サガリバナ
シクンシ

今年は「とっとり花回廊」でも見られた。月下美人、オオオニバスとともに夜に咲く熱帯の花だ。ゲットウやガジュマルなど沖縄でお馴染みの植物も多い。

ゾウタケという巨大な竹にはこれまた巨大なタケノコが出ていた。

ゾウタケ

「暖かい」を通り越して「暑い」のは仕方ないか。

Bにはカトレヤをはじめラン科の美女が揃う。

トーチジンジャーは東南アジアの植物だが、その名のとおりトーチ(たいまつ)のような真っ赤な花をつけていた。

トーチジンジャー

そしてここの最大の特徴はCドームの小笠原諸島の植物だろう。無人島を意味するムニンという名を冠した植物に代表される。

ムニンヒサカキ、ムニンアオガンピ、ムニンヤツデ、ムニンタツナミソウなど。オガサワラススキやオガサワラグミなども。

一株だけになったと言うムニンノボタン。ムニンフトモモやオガサワラツツジは今、絶滅の危機にあるという。それまで無人島であった小笠原に人が持ちこんだ動物(ヤギやウサギなど)が野生化し、植物を食べ尽くしてしまったからだ。

すでに絶滅したもの4種、絶滅の危機にあるもの30種とも言われている。

オオギバショウは見上げるほどの高さを誇り、マツリカの白い花はつんとくる甘い香り。パパイヤ、パッションフルーツなどの南国の果物も見ごたえがある。

その他

ウツボカズラに代表される食虫植物もここの自慢の植物だろう。

特別の温室に約100種類あると解説してある。

もちろんドームを出て屋外の植物にも目を引くものがある。熱帯植物でもこのように寒さに強い種があるわけだ。

ブーゲンビリア、トケイソウ、ブラシノキなど。
オオオニバス

レストラン、売店、イベントホールなども完備していて退屈しないぞ。映像ホールでは熱帯植物と人々の暮らしをいすに座ってじっくり勉強することが出来た。

熱帯雨林がいかに人の暮らしに役立っているかを解説し、それらを守らなければならないわけを優しく教えてくれる施設なのだ。

18世紀末から1990年にかけて熱帯林の半分が消滅したと言われている。現在もその進行速度が弱まったわけでは無い。
ジュズサンゴ

熱帯林を持つ国の貧困がさらに開発に拍車をかけている。今、タイやフィリピンで台風や洪水などの自然災害が急増している事実、先進国の容赦無い木材の買いつけなど考えてみればわが国日本もその加害者に違いないのだ。

失われた森をいかに元に戻すか。21世紀の人達の使命は重大だ。


【編集後記】
JRや地下鉄をフリーに乗りこなせる「東京フリーきっぷ」は緑の窓口で1580円、使ってみるとこんなに便利なのかと感心してしまう。切符をいちいち買わなくても済むし、ひと駅でも気にしないで乗り継ぐこともできる