QJYつうしん 162 休日は山にいます
船で渡る自然のたから島

    ツメレンゲとシャシャンボの

             福山市鞆町・仙酔島 平成13年11月24日




福山へのドライブ

友人のホームページに仙酔島のツメレンゲが咲いたとあった。仙酔島は福山市の鞆にある。

実は私は福山に7年間住んでいたことがあって、福山はちょっとうるさいよ。鞆といえば娘が2歳の頃、5月の恒例行事「観光鯛網」の招待を受けて出かけたことがある。

もう24年前のこと。その頃でも鯛網は実際の「鯛網漁」ではなく「鯛網ショー」だった。

船の底を開けると生け簀(いけす)からタイやヒラメ、フグが出てきて、網にかかる。それを舟歌とともに引き揚げて船上はさながらオークション会場となるのだ。

もっともショーと知ってか知らずか、引き揚げられる網の中を見て観客はやんやの喝采、大物しかかからない便利な網であるが、「おう、兄さんそのタイしめてくれや!」と景気良く買いつけるから魚もうまいのだろう。

娘が目を丸くしてタイタイがぴちぴち跳ねるのを見ていた記憶がある。

今の季節はサヨリやデビラの一夜干しが堤防に並び、ドライブに訪れた観光客は買っていく。
対潮楼(朝鮮通信使たちはここで潮待ちをした)

渡船に乗って

広島を出たのが10時だったから、鞆には12時に着いた。福禅寺対潮楼から眺める仙酔島や弁天島の風景はとても素晴らしく、江戸時代この地で潮待ちのために休んでいた朝鮮通信使たちをおおいに喜ばせたという。

往復240円の切符を買って、運行時間5分で着く仙酔島に渡ろう。20分ごとの就航「第二べんてん」は満員の乗客だった。

この島には特別何かあるわけでは無いから、船で来た人達は降りたらただ歩くだけ。島の海岸に沿って遊歩道が完備してはいるものの、国民宿舎・仙酔島の露天風呂に入って帰るのが普通のパターンなのだろう。

船を下りるとやたらウバメガシが多いことに気づく。そう「備長炭」で有名な火力の強い炭の原料である。その根元にツワブキの明るい花。

国民宿舎のまわりは大勢の人達が散策していた。おにぎりだけ持参していたので魚の味噌汁「漁師汁」250円を注文する。あまりにも良い天気で青空の下の昼食がうまい。

遊歩道を彦浦へ

で、さっそく歩き始めるのだが、海岸に沿ってウバメガシとそのドングリがたくさん落ちていた。国民宿舎の前の「田の浦」の浜辺には子供達が裸足になって水に入っている。
田の浦

遊歩道の左手には岩盤の間にハマナデシコの咲きがら。右手が日当たりの良い南側で釣り糸を垂れている人達がたくさん。
ツルナ

暖かい陽射しを受けて、昼寝している人の多いこと。この辺でそれほど大漁は見込めないからかな。

ツルナに黄色い花がついていた。食用にもなるツルナ、植物名に「ナ=菜」がつくと食べられると言う定説がある。ちなみに最近味噌汁に入れて食べたらホウレンソウのような食感であった。

ツルナはキャプテン・クックがニュージーランドからイギリスに持ち帰り「ニュージーランド・ホウレンソウ」と名付けたというからおいしいはずだ。

ウバメガシが遊歩道に絶え間無く続く、タブノキ、トベラなどもここでは当たり前の海岸性植物だ。

山を見上げると鮮やかな赤、ハゼノキだ。ハマナデシコも咲いているものがある。と、そのそばに本日の主役が簡単に見つかった。

map

ツメレンゲだ。日当たりの良い岩場で満開状態。見上げるととても登れそうもない高い場所にたくさん自生している。

ベンケイソウ科らしい肉厚の葉がレンゲ状に重なり、少々の寒さには負けない力強さを感じる。ツメレンゲと言えばシジミチョウの仲間のクロツバメシジミが付近にいないものかと探して見たが見つからなかった。
ツメレンゲ

遊歩道ではこの島が火山の爆発によって出来たらしい岩盤や地層を見学しながら歩くことができる。火山灰である凝灰岩など溶岩で構成された島なのだ。

彦浦は大きな浜だ。この島にはいったいいくつ浜があるのだろう。ここでも一組家族連れがのんびりと昼寝をしている。あれほど船が満員だったのに、ここまで足を伸ばす人はいないのか。

塩の工場があり石垣に紫色の花の群落、コバノタツナミソウだ。この時期にも咲くんだね。

ヒサカキ、トベラ、もちろんウバメガシ。

浜辺にはハマヒルガオやツルナ。
タツナミソウ

烏ノ口岬の展望台

長い浜辺から山道の遊歩道に入る。

目に鮮やかな紅葉のハゼノキ、ヤマモモもたくさんある。コシダやウラジロ、イヌビワ、トベラ。

雨が降らないので乾いた道を歩く。

ネジキ、モッコク、クロキ。おやネズも結構有る。ネズはこのあたりでは「むろの木」と呼ばれ、成長が遅いが良質の船舶用の木材になるので重宝された。むろの木は漢字で「天木香樹」と書く。

大伴旅人の歌(奈良時代)

吾妹子が 見し鞆の浦の むろの木は

         とこ世にあれど 見し人ぞなき

一緒に見たむろの木はずっとあるのに、我が妻はもういないと嘆いた歌。

林の奥でガサガサ音がするぞ、ヒサカキを折って持ち帰ろうとしているオジサンがいた。神道、仏教を問わず使えるのがヒサカキである。

前が開けるとここは瀬戸内海を一望できる展望台。

あれえ、シャシャンボにたくさんの実がなっている。どの木もたくさんなっているぞ。これは収穫しないわけには・・・。おいしいジャムになる。日本のブルーベリーは気づく人がいないから採り放題だ。ノジギクは見つからなかったがヤクシソウはたくさん咲いている。

シャシャンボの実と彦浦の浜

帰り道は山道を通ってみようかな。見上げる大弥山の裾野には真っ赤なハゼノキが点々と。春のヤマザクラのような存在感がある。時間があればじっくりこの稜線コースを歩いて見たいものだ。

仙人が丘と御膳山

赤岩展望台のあたりではクチナシの実を発見。

日当たりの良い仙人が丘ではまたまたシャシャンボの実に圧倒される。キチョウも飛び交いまるで春になったようだ。歩くと汗ばむくらい。

空をトビが優雅に舞い、波の音が近づいて来る。国民宿舎の近くまで戻るとまた人が多くなった。

今日は目的のツメレンゲも見つかったし、最後に御膳山に登って弁天島を見下ろしてこよう。丁度、逆光になっているため弁天島がシルエットになっている。

弁天島(帰りの船から)

仙酔島の植物について書いた看板によると「約50年前の火事でアカマツ、アカメガシワが生えてきた。しかしその後、ウバメガシ、トベラ、ツブラジイ、ヤマモモが戻ってきて以前の自然に帰っている。」、それは良いことだ。

自然のたから島「仙酔島」、国民宿舎で入手したパンフレットにはそう書いてあった。

工業都市福山にあってこれだけの自然は素晴らしい。丁度、米子の町を抜けて美保関までドライブしているような感覚。

ひなびた田舎道を走る独特の雰囲気。

帰り道、運悪くバスに先行されて、抜くに抜けないあきらめの境地に幸せを感じる自分がいた。


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QJY通信社   休日は山にいます     真鍋節夫

【編集後記】

車にナビをつけた。日本語が通じるせまい島、どこに行っても家があるからナビなんて要らないのだが、確かに技術の進歩はすごい。

まず驚いたのが「VICSシステム」、交通渋滞や高速の工事、故障車、事故、駐車場の空き状況まで教えてくれる。

到着予定時刻も正確に教えてくれるから、本来の地図情報だけで無いことが良くわかった。楽しいのは走っている近辺に美術館があったり池があるのが分かること。

交差点や橋の名前も覚えられる。新しい技術はどんどん進化しているね。