QJYつうしん 休日は山にいます
167号

2002・5・25

裏口から入ってみるか    マイナスイオンのハイキング 三段峡・山県郡戸河内町

三段峡の裏口は

この時期に雲ひとつ無い快晴、いつもののんびりドライブは戸河内ICを出ると、新緑に目を奪われてまぶしいくらいだ。

三段峡を歩く場合、普通ならJR三段峡駅から遊歩道を2時間以上歩いてやっと出合橋までたどり着く。ふだん歩かない人なら、ちょっとくたびれて大変だ。

三段峡は自然豊かな大好きな場所なのだが、最近QJYではこの表街道を避けて裏街道を選ぶことが多い。

秋の紅葉の時期には、人の少ないゆったりとした山歩きが出来たのを覚えている。夏の始まりのこの時期に歩いたことが無いことから、是非このコースの紹介を兼ねてハイキングする事としよう。

R191の小板と言えば、「きのこの食事処」がある場所、その先の十字路を左折して終点まで走ればくだんの裏口は門戸を開けてくれている。

<餅ノ木の入り口>

終点というのは「餅ノ木」という集落のことで、今では農家が一軒あるのみになっている場所。その先は何故か通行止めになっているから、広場に車を停めることとなる。通行止めになっていなければ、田代出合を経由して恐羅漢山へのルートでもある。だからここまですれ違う車さえ無かった。

秋には知られざる紅葉の名所。人ゴミの三段峡を避けて、静かなデートを楽しめる場所。

夏の使者、ホトトギスが初夏を告げる鳴き声で「行ってらっしゃい」と呼びかけてくれた、ヤマセミらしい鳥の飛ぶ姿も見かける。

餅ノ木を出発

1台先着の車が駐車している広場に車を停め、植林のスギ林に沿って歩くと、水の音に誘われていることに気づく。そして雰囲気のある木橋を渡る。待っててくれた最初の彼女の名前はタニギキョウ、小さな小さな恋人だ。

ウワバミソウも地味な花をつけ、ヤエムグラ、ヤグルマソウも咲いていた。ウバユリ、ナツトウダイも準備OK。ササユリはまだまだつぼみの状態。

<タニギキョウ>

おやハスノハイチゴが咲いているぞ。大型の白いバラ、このイチゴは小指みたいに伸びてあまり食欲は沸かない。何より葉柄が葉の中ほどから出ているのが特徴だ。
<ハスノハイチゴ>

歩いて5分でこれだけ見られればとりあえず嬉しい。そしてヤマシグレの花。コアジサイがつぼみの状態、ヤマアジサイはまだまだ。

このルートは三段滝まで1.3キロと一番短い。短いだけでなく、流れに沿って下るわけだからすいすいと歩けて早い人なら30分で到着する。

そして最大のオススメは人が少ないこと。

出発地点の「クマに注意」の看板がどうも気になる。だから、一人ではちょっと怖いぞ。

当然、貴重な植物がそのまま残っていることが想像される。左に見る流れは聖湖から。水の好きな低木、サワフタギが白い花をつけていた。

オオバアサガラ、コバノトネリコなどこの時期の定番植物が花を咲かせている。

今日は何故か歩き初めからおなかがすいた。早く三段滝まで到着してお昼にしたいな。でも出発が10時なので2時間かけて歩く予定。

足元を這うクロタキカズラ、大きな葉はスミレサイシンだ。ハンショウヅルはまだつぼみ。
<コバノフユイチゴ>

小さな滝とマイナスイオン

山道も貸し切り状態で、流れの音も涼しく感じる。15分で最初の滝が右手に現われた。中間地点の「玉緒の滝」にはまだ早い、少し小さめの滝だ。中村玉緒さんに敬意を表して、この滝を「新太郎滝」としよう。

水しぶきが起こるとマイナスイオンの発生があると言う。森林浴と合わせて気持ちの落ち着くハイキング。リラックス、リラックス。
<山道>

いや、言われなくとも落ち着いたハイキングが楽しめる。

新太郎滝周辺には花をつけたヤブデマリ、川岸には残花のキシツツジ、目の高さにはコケイランの花やイワカガミの葉が目に入る。

ウリノキはまだまだつぼみの状態。

がく片の数が2〜3個はコツクバネウツギ、花を終えたウスギヨウラク、これから期待のバイカツツジは歩行者の頭をかすめて枝を伸ばす。

川から聞こえるカジカの心地よい鳴き声、おや、キョロロロ・・・ロと更に心地よい声はアカショウビンだ。どこかの枝で川魚を狙っているのだろう。
<ヤマジノタツナミソウ>

黒い影が流れを縦断して行く、カワガラスだね。

シロバナショウジョウバカマらしき花の跡。ヤマジノタツナミソウは集団で咲いている。アップダウンはほとんど無く、とても楽な山歩き。さっさと歩けば良いものだが花を見落とさずに丁寧な山歩きを心がけたい。

水気のある場所ではナメラダイモンジソウのもみじの葉が可愛いらしい。岸辺にはヤシャゼンマイ、空は青く青く高い、入道雲もあるぞ。

 

猪上がらずと玉緒滝

  樹木のおさらいをしておこう。

  青々とした夏の葉はミズナラ、アワブキ。幹の黒いイヌブナも多くなる。葉脈の数が15くらいあるのと裏の主脈に毛が多いのが特徴。
<サワフタギ>

  ツリバナ、ハリギリ、ダンコウバイ、キブシ、ハクウンボク、オオイタヤメイゲツやオオクロモジ。

クジャクシダ、マムシグサも多いのだが、一番多いのはウワバミソウか。

ずっと右岸を歩くのだが、小さな滝が目につく。代表は玉緒滝だ。
<ヤマシグレ>

フタリシズカ、アカショウマのつぼみ、おやイワタバコもあるぞ。三段峡を表ルートで歩くと、ダイモンジソウなど決して近くで見ないものだが、この裏口コースはイワタバコまで見られる。

淵には魚影、水面を低く飛ぶ虫を水中から狙っているのだろう。

おっと、山道で踏みつけそうになるのはコケイランだ、道路にあまりはみ出ると踏まれるよ。

コバンノキも赤い花をぶら下げている。
<クジャクシダ>

「千編渡り」ではツタウルシのつぼみ、タニギキョウ、サワフタギ。高木のトチノキから花が地面に落ちている。セリバオウレンの葉、ササユリの葉、またまたコケイラン。

「丸淵」にはダイセンミツバツツジとコバノミツバツツジを見かけた。ムラサキマユミの葉も特徴的。往く春を惜しむようにギンリョウソウが白く光る。

大木はサワグルミとナツツバキ。

最終コーナー

ここで初めて後方からハイカーが一人追い抜いて行った。表ルートに比べると河原に下りることが出来る場所も少ない。しかしオオバアサガラなどが優雅に花をつけ、マイナスイオンの健康ハイクが出来るだけで不満はまったく無い。

あ、そうか、この環境が気持ちを落ち着かせてくれているから不満など起こらないのだ。
<ヤグルマソウ>

最後は急坂を登り、三段滝の上部に出る。高い場所から流れを見下ろす。この流れは樽床ダム(聖湖)からの八幡川と呼ばれる生活廃水川であることを認識しているので、さほど清涼感が感じられないのが残念だが、名も無い滝からの水を集めて、柴木川と呼ばれる水系となった三段滝あたりでは轟音が響いて豪快だぞ。

<三段滝>

今度は急坂を下り、樹間から約30メートルを落ちる三段滝を見ると、涼しさも百倍だ。

到着場所は三段滝の正面の展望台。

時刻は丁度12時、ハイキングだからお弁当が本日の主役。小さな花をたくさんつけたコゴメウツギのそばでシートを広げよう。
<コゴメウツギ>


【編集後記】

  ベニバナヤマシャクヤクの自生地は広島市内安佐北区のスギ林の奥の沢にある。車を停めて歩き始めたら、作業中のトラックのおじさんが「今、木が倒れたみたいだから、気を付けて。」と注意してくれた。

  林業の事故は悲惨だ。細い樹木でも倒れるとテコの原理で致命的になる。

楽しい山歩きは、無事家に帰ってこそ。

  ハイキング程度でも二人以上で歩くことを心掛けたい。