QJYつうしん  休日は山にいます第168号

のんびりしようや 島の休日 コオニユリやハマナデシコの咲く
阿多田島・広島県大竹市

平成14年7月7日

小方港からのフェリー

大竹市の新しい商業区域は沿岸部の埋め立て地に「ゆめタウン」を中心として数々の大型店舗が集まって非常に活気のある一帯となっている。

その南の端にあるのが小方港、阿多田島へのフェリーはここから出る。

真夏の太陽がさんさんと輝き、港の周囲では釣り人がのんびりと家族連れでくつろいでいる。


小方港を9:30に出るフェリーは10人足らずの客で、これも釣り人がほとんどだ。630円の切符は船内で販売される。甲板に出て風を受けながら、朝凪の海をすべるように走ると、阿多田島へは定刻の10:05に到着だ。

阿多田島港の事務所にトイレがあり、島の全体図も掲げてある。何しろ初めて来た島なのだから、この看板の地図だけが頼りだ。

島一周の道路を歩くと、約5キロ、1時間と書いてある。花を探しながらのハイキングだから1時間は無理だが、帰りの船は12:30ではちょっともったいない。せっかくの好天気だし、そのあとの15:50にしてゆっくり回ってみたい。

島への旅は、のんびりしなけりゃ意味が無いさ。

海の家あたた

阿多田島神社の横を通って、ゆるやかな坂道が始まる。この島の人家はほとんどこの港の周辺にあり、畑もこの辺だけで見ることができる。

ビワが鈴なりになっていても誰も収穫しようとしないようだ。アカメガシワ、ノブドウ、ナワシログミ、オオバヤシャブシ、それに絡むつる性植物など沿岸暖地部の植物が並んでいる。

畑仕事のおばさんが、「昨日すごい風が吹いてね、ヒマワリが倒れたの。」と笑いながら話す。ここの人達はバイクですれ違っても必ず会釈してくれる。

「チョン・ギース…」道端の草の中からもうキリギリスの鳴く声。オカトラノオはほとんど終わり、夏草のムラサキツユクサが元気に咲いている。

イヌビワやウツギの実。

おやオトギリソウの黄色い花が。

ハマナデシコも赤い花をつけているぞ。ツワブキのつやのある葉が目立つ。

ハマナデシコ アカテガニ

溝の中からガサガサと大きな音がする。赤いハサミのアカテガニだ。そうか今、島にいるんだという実感はこのカニの走りまわる音。

峠に「左・海の家 433m」という、妙に詳しい看板があった。まずここに寄ってみよう。

ヒナギキョウが点々と可愛く咲く。

おやこれはフシグロ、小さな花が咲いている。ネジバナも多いぞ。オトギリソウも。とても島に来ていると思えない組み合わせだ。
ネジバナ ヒナギキョウ フシグロ

赤い実をつけているのはイソノキ。これも芸北町で見ることがある植物。

白い花を並べているのはシャシャンボだ。こんなに豪華に花がつくのは島ならでは。
シャシャンボ

こうして歩いて行くと、大竹市立の公共宿泊施設「海の家あたた」の前に出た。ここのトイレはどうやら開放してあるようだ。通りすぎると青い海が見える。その前にあるのが「灯台資料館」だ。大竹市の有形文化財と表示がある。

海を見下ろす絶景の場所、設置してある双眼鏡は無料。そして階段をゆっくり下りて行くと、突然、沖縄で良く見るようなのんびりとした海の光景に出くわした。ああ、心が癒されてくる。


灯台資料館

青い海と優しい風、眼下に白い浜辺。

ダンチクやトキワススキが南国ムードを出してくれているのだ。花は咲いていないが、セトノジギクがたくさんある。ツワブキとともに12月初旬には見頃になることだろう。
田の浦

派手に咲いたハマナデシコは次々と現われ、とっても地味なフシグロがたくさんあるぞ。

足元ではアカテガニやフナムシが逃げまわる。ネジバナだって負けていない、とにかく大型。

浜辺を見下ろす岩場に腰掛け、ぼーっとしているとつい眠たくなってしまった。時間に余裕があるからそう思うわけかな、やはり12:30のフェリーで帰らなくて良かった。

出来たら一日中寝そべっていたいような海の光景。ハマボッスもたくさん咲いている。

おっと、先に寝そべっていたアオサギが飛び立った。驚かしてゴメン。

 

島一周の道路(南側)

先ほどの峠まで戻り、南側の道路を歩く事としよう。ここまでネジバナ、フシグロ、ハマナデシコの咲く姿に十分堪能したのだが、せっかくのハイキングだから一周して瀬戸の光景も楽しみたい。

このあたりのオカトラノオはまだ咲いている。ヒメヒオウギズイセンの鮮やかな朱色が樹林の下部に見られる。白い花はノハカタカラクサ、ツユクサの仲間だ。
イタチハギ カエデドコロ
【以前この花をキクバドコロと記述しておりましたが、読者の方のご指摘によりカエデドコロと訂正いたします。仙台の岡上様有難うございます。】

アカマツ林と照葉樹、落葉樹が折り重なるように植生を構成している。やはり多いのがアカメガシワ、オオバヤシャブシ、ヒメヤシャブジ、カクレミノやヌルデ、ハゼノキ、イヌザンショウ。

巾4〜5メートルの舗装道路がずっと続くが、車が通る気配はなく自然観察路としては最適だ。そして次々と現われる新しい植物。

先ほどから赤い実をつけているのがイソノキだが、淡い色の実は?ゴンズイだ。
ゴンズイ

足元にはまたまたネジバナ。

フシグロは相変わらず多いし、オトギリソウの黄色い花も見過ごせない。クズがもう花をつけているぞ。この香り、何かに似ているね・・・、ああファンタグレープ!そう思ったら、いい嗅覚だ。
クズ キキョウ ミヤジマママコナ

あ、キキョウが咲いている。つぼみはたくさん。これも大型、ヒナギキョウと同時にキキョウが見つかるなんて。

次に現われたのがカエデドコロ。この花も良く見ると可愛いよ。もう何が出てきても驚かないぞ。まるで花屋さんにいるみたいな感覚になりそう。
コオニユリ トキワススキ ツワブキ

おお、コオニユリだ。やっぱり驚いた。それも南岸道路の日当たりの良い場所では確実に咲いている。なんと、キキョウとコオニユリが入れ替わり現われて来る。県北の深入山にいるみたいに。

グランド、て言うか、空き地にトイレがある場所。そこから海岸に出られそうだ。やっと昼食。ここでものんびりしよう。

ハマゴウ ツルナ

それにしても人家は一軒も無い。当然人にも逢わない。やっと海岸で家族連れの乗った船が停泊していたのを目撃。船は便利だなあ。

ちょっと岩場でツブ(貝)でも拾って帰ろう。誰もいないから、獲りほうだい。

島一周の道路(北側)

宮島をこの方向から見るなんて。一周道路は大竹市に面した海岸線に出る。それにしても暑いこと。時折、木陰があるから助かるね。

不思議なことにフシグロやコオニユリなどは全く見なくなった。入江はカキの養殖場となっている。ニワトリが道路に出て遊んでいるぞ。
内深浦

ま、いいか、自動車が通らないのだから。

道路に沿って、あちこち水場がある。そこでは例のカニさんたちの天下。

黒いモンキアゲハが頭をかすめる。そうか、コオニユリのシーズンはアゲハが活躍しなくちゃ。と、考えていたら目の前を白っぽいチョウが通りすぎた。イシガケチョウだ!イヌビワが食草なんだよ。
イシガケチョウ(♂)

夏に着る「甚平」、それも麻と木綿の混紡でできていて、着心地がとてもいい、そんな羽根をぴたっと開いて地面にとまってくれた。

北側の道路はサクラ並木となっていて、木もかなり大きい。フサアカシヤも多く見たから、春一番も見ごたえがありそうだ。

サクラの木の下に来ると必ず上から落ちてくる虫がいる。さっきからいったい何がどさっと落ちているのかと不思議がっていたら、どうやらナナフシが落ちているようだ。ドジな虫。
ウラジロ ヤマツツジアレチハナガサ

ゆっくり歩いて、やっと港までたどり着いた。

どうでもいいから自動販売機があればいい。

出発30分前だが、帰りのフェリーが着くなり、客室に飛びこんだ。ああ、クーラーが効いてて涼しいよ〜。