QJYつうしん  休日は山にいますQJY169 2002.08.31

台風の草原は海原のよう   サイヨウシャジンの鐘が鳴る丘

              山口県秋芳町・秋吉台

指導員・三県交流会

今年でもう八回目である。

何の話かって?

(財)日本自然保護協会の自然観察指導員の資格を持つ仲間が集まって、研修と親睦を兼ねての一泊旅行だ。

現在、島根・山口・広島で交流の輪を作っている。昨年、広島がホスト役となり、蒲刈島で「藻塩作り」などのメニューを取り入れて開催した。あれから一年、今度は山口が私達を招いて下さる。

顔なじみが70名、秋吉台に集まった。

これに先だって、私はある人にメールを送っている。秋吉台で植物観察をするということで、どうしてもお会いしたい人があったから。その人は山口生物学会会員で秋吉台のことなら何でも知っている秋吉台の主「松井茂生先生」だ。

先生の書かれた「秋吉台の植物」は現地に行かないと入手できない。この本は本日の集合場所、秋吉台エコミュージアムに置いてあるのだ。

広島から秋吉台まではゆっくり走っていると3時間はかかってしまう。他のメンバーは何を考えているのか9時?に出発するというので、私は7時に出て、周辺を2時間は散策することとした。

折りから台風15号の余波で、途中雨に降られてしまうが、美祢ICではすっかりあがってくれた。但し、時折すさまじい突風が吹く。高速道も走行中に風にあおられると大変だ。

長者が森周辺の散策

秋吉台までの道にニワトコによく似た植物が咲いているのに気がついた。ソクズだ、広島ではあまり見ない雑草。あちこちで見かける。

途中のコンビニで昼食を用意、秋芳洞入り口で仲間のN氏と落ち合い、一路秋吉台に向かった。秋芳洞の前では客の呼び込みで声がかかる。ここも近年の景気の落ち込みで、相当観光客が減っていると言う。

今まで秋吉台には何度も来ている。

QJYでは第94号で春の秋吉台を紹介しているが、秋でも散策の場所は変わらない。

長者が森の駐車場から、一旦車道をくぐって歩き始めよう。

足元にはキツネノマゴの小さな花、黄色い花はカワラケツメイ、ノアズキだ。マメ科にあって花が左右対象とならないノアズキはあちこちで群生している。散策する道に沿ってクズが元気良く咲いていた。あとで確認した話だが、今年は特にこのクズの花が良く咲いているとのこと。もう秋の植物に変わろうとしているわけだ。

そう、秋を代表するのがこれらマメ科の植物。

ヤハズソウ、マルバハギ、コマツナギ、メドハギなど。もちろんミヤコグサやクローバ類も多く見る。

それより風が強くて帽子が・・・、いや帽子どころか自分が飛ばされそうだ。もちろん写真などとんでもない。風のやむのを待ってもムダと言うこと。

おや紫色の穂が立っているぞ、カワミドリだ。秋吉台では初めて見る。うすいピンクはカワラナデシコ、この小道は春にはスミレが咲き乱れる場所だ。

黄色いキクが3種類、ありきたりのコウゾリナ、石灰岩地に多いカセンソウ、これは珍しいホソバオグルマ。花が少ない時期と聞いていたが、なんのなんの、見事なお花畑ではないか。

オトコヨモギの陰には草原のお嬢様、サイヨウシャジンがすらりと伸びて咲いていた。この花とツリガネニンジンはいったいどう見分けるのだろう。松井先生に会ったらまずこれを聞かなくては。

ナンバンギセルの大型版(でもオオナンバンギセルではない)、オミナエシやサワヒヨドリも多く見る。フシグロ、ツルボ、オケラなどメモしていると前に進まないぞ。

あれ、この黄色い小さな花は?

ミシマサイコだ。目をこらすとあちこちにたくさん見える。根を乾燥させて解熱、解毒の漢方薬として利用される。その名前が「柴胡(さいこ)」なのだ。ミシマは静岡県の三島市。
<<写真1>>

オトコエシも咲き始めている。ここにはオミナエシと交雑したオトコオミナエシが見られるのだそうだが。花が終わっているのはアキカラマツ。

シラヤマギクに混じって繊細な咲き方をするヒメシオンも見られた。ヒメジョオンではなくヒメシオン、うーん植物の名前で頭の中が大混乱しそう。

エコミュージアム

集合場所では山口の指導員仲間が待っていてくれた。なんと松井先生の「秋吉台の植物」を一冊ずつ配布して下さるではないか。

カルスト大地の成り立ちを展示したこのエコミュージアムで秋吉台の四季の映像を見せてもらう。山焼きのシーンでは木の焦げた匂いまで出てくる仕掛けに一同びっくり。
<<写真2>>

強風の中の山歩き

さっそく午後のプログラムが始まった。

洞窟探検希望の組と草原歩きの組に分かれる。もちろん秋吉台の神様「松井先生」引率の草原組に加わって、「雨でも何でも来い!」の気持ちで行くこととした。

長者が森でその成り立ちを勉強したあと、地獄台に向けて歩く。早や、ヒキオコシも咲き、リンドウの若葉も見られた。ムラサキセンブリやウメバチソウの幼葉を見つけると嬉しくなる。10月はもっと楽しい季節になることだろう。

カレンフェルトの岩の間を風に揺られながら歩いていると、まるで船酔いにでもなったように感じるから怖い。その夜の皆さんの感想を聞くと一様に「船酔い」の文字が出てくる。

少々ナナメになっても体が倒れないくらいの強風、試しに片足で立ってみたが無理だった。でも雨はまったく心配無い。

草原が海原に見える。大波に揺れる海原。時折、すごい音で山全体が揺れる。

もし帽子が飛ばされたら、二度と回収は不可能だろう。

洞窟探検に出かけた組はこの時、沈黙の暗闇を体験していたと言うから、まさに天と地の違い。

さて、サイヨウシャジンとツリガネニンジンの違いだが、「ここのツリガネニンジンは皆サイヨウシャジンです。」とは、一同大きく頷いてしまった。

そのような小さなこと、どうでもいいじゃないの、とはパニック状態で草をかきわけ歩く女性たち。松井先生は道無き道を歩き、結局正しい道に出る。
<<写真3>>

そこは広い牧草地。

立て札には「キキョウがたくさん咲いています。農家のみなさん草刈はすこし待ってください」と書いてあった。そして、その周囲はキキョウが咲いている。ジーンと来る感激。

そう言えば秋の七草がすべて咲いているではないか。フジバカマをサワヒヨドリに置き換えれば、クズ、ナデシコ、ハギ、キキョウ、ススキ、オミナエシと勢ぞろいだ。

松井先生は観光化した「山焼き行事」、地質に厳しい規制があるのに動植物にはゆるいことなどをメールで憂いながら返事を下さった。大きな問題を抱えながら秋吉台は存在する。観光地「秋吉台」で生計を立てている人がいるだけに問題は複雑になる。

ヒキヨモギの黄色い花、驚くほどのミシマサイコの量、サイヨウシャジンの清楚な姿。

このあたり、春にはオキナグサが咲いていたっけ、ここにはニオイタチツボスミレが。センボンヤリが、ホタルカズラが・・・・・。

どの季節でも秋吉台はすばらしい。

しかし確実にその悠久の自然の営みが崩れようとしていることも確かだ。

ボランティアで募集した山焼き隊にケガ人が出たら保証問題になるご時世、何故山焼きをしなければならないのか理解していない観光客。

所詮、人の手の入らない自然はあり得ないのだが、過剰に人が関わり過ぎてバランスが崩れている。

阿知須の波打ち際

この日の夜は松井先生やエコミュージアムの館長さんを交えてこんな問題を話し合った。と言っても解決策は出るわけも無い。

70人の指導員が見た「秋吉台」は、観光客の見る「秋吉台」と同じなのだろうか。たまに来た人が答えを出せるほど「自然」は甘くないよね。

<<写真4>>

そして翌朝、ホスト役の山口県が計画したのは宇部・阿知須の干拓地のカブトガニ観察だ。

前夜の台風で大きなカブトガニが打ち上げられていた。

これも絶滅が心配されている。波打ち際をあるくといくつか抜け殻を見つけることが出来たが、瀬戸内海ではどこでも見られたカブトガニが、今では本当に少なくなっているのだ。

それでも自然の状態で見られるなんて驚きだ。向うに「きらら博」のドームが白く輝いていた。