第170号

 2002年10月14日

 

QJYつうしん  休日は山にいます

青空と秋風とくれば

   恐羅漢山〜旧羅漢山

    広島県戸河内町

登山口の秋風

昨年くらいまでだったか、通行止めが続いていてしばらく通ることが無かった恐羅漢スキー場への山岳ドライブウェーを久しぶりに楽しんでみたくなった。

今日は少し早いが、紅葉のシーズンは絶景のドライブが楽しめる。山道にはヤマシロギクの白い花、所々にノコンギクも咲いているようだ。

内黒峠に着くとちょっと車外に出ておいしい空気を吸ってみたくなる。そう言えば24℃に設定してあるエアコンが暖房になっていた。先日まではこれで冷房だったのに。秋も深まってきたようだ。

峠の壊れかけた避難所の前にはナギナタコウジュがいい香りで咲いている。日本の代表的ハーブだが、実際は葉に香りがある。また県内のものはここのように花の穂が太いフトボナギナタコウジュと分類されているようだ。

<ナギナタコウジュ>

峠を下ると車窓右手に砥石郷山(1177m)の姿が見える。あと10日くらいすれば素晴らしい紅葉の景色に魅了されることだろう。ところでこの山の名前は実際に近辺で砥石が産出されたことによるのだそうだ。砥石の成分は石英で、これが細かく流紋岩などに混じっているのだそうだ。

さて、牛小屋駐車場にはすでに7台の車、見上げるスキー場は紺碧の青空の下にある。

このスキー場経由で登山する人がいるが、きついし面白味は無いことだろう。せっかくなら山道歩きの「夏焼峠」経由をお奨めする。砥石郷に寄って恐羅漢に登る人も多い。特にこの時期は紅葉したカエデ類が山歩きの楽しさを倍増してくれるから。QJY47号でまさにそんな山歩きを紹介している。

夏焼峠への山道

足元にはほらね、意外と落ち葉がたくさん。とくにカエデ類の落ち葉の道は上を歩くとサクサクサクと心地よい踏み音がする。これはカエデの葉が落ちた時にはすっかり乾いているため。

ウリハダカエデ、ウリカエデ、コハウチワカエデなど。

道端の小さな葉はコアジサイ、チゴユリもユキザサも見られる。咲いているのはアキノキリンソウ。くっつき虫のキンミズヒキやノブキもそろそろ威力を増しそうだ。

至るところで水が流れ出ていて、アケボノソウも残花がちらほら。

ヨシノアザミはスマートなアザミだ。ネズミノブラジャー(ヌスビトハギ)もすっかり花を終えて、洗濯物を干している。

ナナカマドはまだまだ赤くなっていないが、強烈な紅葉を見せてくれるのは悪役ツタウルシ、真っ赤な色で警告しているのかな。なにしろ、かぶれやすさでは最強だ。

<ツタウルシ>

山道にはそれでもちょっと面白くない外来種がはびこっている。オオバコやヒメジョオンだ。スキー場があるということで避け難い状況もあるだろう、しかし県内でもこのあたりまで来れば外来雑草はほとんど見なくなるものだ。

落ち葉の小道を歩きながら、それでも何か面白いものでも無いかと探しながら歩く。

つやつやした真っ赤な実はツルリンドウ、つるをひっぱると連なった実がまるでクリスマスの飾り付けの赤ランプのよう(←いい表現だねえ)。

あと少しで夏焼峠というあたりでブナが現れた。ここの標高から言えば登山口でももっと見られていいはずなんだけど。

ユキザサには赤くてかわいい実が。ヤマシロギクやノコンギクも時折見られる。

<ノコンギク>

峠から尾根筋の山歩き

今の気温は17℃くらいと読んだ。もっと低いと汗をかかない、もっと高いと直射が辛い。こうやって体感で読んでみるのも重要だ。日差しのある場所ではちょっと暑く感じる。

また自分のフィールドノートにはこの日に着ている服装をメモしておくのも大切なこと、ちなみに今日はTシャツとベストで丁度いい。だけどリュックの中にはいくら快晴でも雨具を入れておくこと、山の天気は変わりやすいことと、汗で身体が冷えた時にカッパが防寒具の役目をしてくれるから。

<紅葉の山>

それとリュックはいつも同じ重さにすることを心掛けよう、いざという時にリュックに入れ忘れた、では情けない。

ところで夏焼峠をちょっと古い山屋さん(登山家)はナツヤケノキビレと呼ぶ。今でももちろんそう呼ぶ人は多いし、ここが広島の登山のメッカとして人気がある間はそんな「玄人」っぽい呼称をつい使ってみたくなるものだ。

クロモジはもう春の新芽を抱いている。木の肌でわかる樹木は覚えやすい、はがれた感じのリョウブとナツツバキ、ウリハダ模様はそのまんまのウリハダカエデ、ヤマザクラと見間違えるのはヨグソミネバリ(アズサまたはミズメ)だ。樹皮をはがすと鼻につーんと来るサロメチールの香りがする。

尾根道はやや水平になり歩きやすくなった。スキー場の道はこんなに楽ではない。何よりこうしていろんな樹木を楽しみながら歩けるのだからやっぱり登りはこちらがお奨め。

 

 

ちょっと色あせた感じのヌルデ、多くなったコミネカエデは逆にきれいに色づいている。大きな葉の濃い紅葉はどうやらヤマブドウのようだぞ、なかなかぶら下がったブドウの実は見つからないが。

まだ緑の葉を優雅に残すのはオオカメノキとハクウンボク、紅葉も黄葉も緑葉も見られて青空の下の恐羅漢はこれほど素晴らしいんだ。

ゆっくり観察しながら登っていると、2〜3人ずつのグループが追いぬいて行く。

巨大な樹木は何だろう?地面に落ちているのはブナの実だ。道をふさぐ大木をよっこらしょとかわし、紫色のアキチョウジの群落に心がなごむ。

サルナシやリョウメンシダ、ツルアジサイなど。

やっとヤマブドウの実を見つけたぞ、口に含むと甘酸っぱい。それならあのサルナシも食べれば良かった…・、いや山の動物のものだから…・。

スキー場からの合流点を通過し、10分もすれば山頂だ。

お山の大将(山頂にて)

大岩と大木の切り株が並ぶ1346m、県下最高峰の山頂には10人くらいの先客が待っていた。あとからも続々やってくる。気持ちの良い山頂だ、近辺にここより高い場所は無いのだから。

あまり風は無いが、その分時折吹く秋風は冷たくて心地よい。久々に山歩きらしい山歩きをした。

岩にからむツルアジサイやひょっとしたらクロヅルらしき葉もある。

<旧羅漢の山頂・展望岩>

まだそれでも昼食には時間があるが、山歩きをすると不思議におなかがすくものだね。さて早めの昼食を済ませるとせっかくだから旧羅漢にも足を伸ばそう。旧羅漢はかつては最高峰と呼ばれたことがあるが、今では恐羅漢のほうが高いとされている。

何故、「旧」と名付けられたかはそんなかつての歴史が物語っているのだろう。

そのくらいあまり高さに差が無いのだから、遠くから見ればこの二つの山は双耳峰に見えるのではないだろうか。山頂から西に見える丸い丘が旧羅漢だ、一旦底に下りて再び登れば20分で旧羅漢の山頂に到着する。

陽の当たらない鞍部(谷底)は湿気もあり、今まで見なかった植物も多く見た。ツクバネソウ、ツノハシバミ、ミヤマシキミなど。
<リンドウ>

旧羅漢の山頂は大岩の展望岩がどーんと眼前に出現するので誰でも分かるだろう。その背後の大岩もよじ登ることができる。恐羅漢に早めに登って来た人なら誰もがここまで足を伸ばすことだろう。山頂から見る天然杉の光景、紅葉した樹木を点々と確認して秋風の心地よさを再度感じていると、あとからやって来た人も、「ああ、いい風ですね。」と話しかけてきた。

ここからさらに進むと、水越峠まで下りることができるらしいが、駐車場に置いた車の関係上、ピストンするのは仕方ない。


旧羅漢からの展望とヤマシロギク