QJYつうしん  休日は山にいますQJY171号

名山を眺めながら登る山

   小春日和のマッターホルン

       広島県大竹市 燕山(489m)

2002年12月1日

名山に隠れた山

実は、先週も三倉岳に出かけている。その時とても気になる山があった。三倉の東にそびえる岩山だ。鋭角の山容と山頂に目立つ大岩、三倉の人気に隠れているものの、その姿はまるでマッターホルンのようで、登山意欲をかき立てる。

その名を燕山(つばくろやま)、由来までは聞いていないが恐らく山の形から受ける精悍なイメージから付いた名前であろう。

山を歩き、愛でる時、その山にいるとせっかくの外見が見られない。名山はその姿を眺めてこそ名山なのである。三倉が名山であることに異議はないだろう。しからば、その名山を眺めながら登るマッターホルンに立ってみれば、名山の魅力が以前にも増して感じ取られようというものだ。

取りつき

三倉岳の入口「三倉平駐車場」は国体の時の人工登坂施設がある場所の駐車場だ。トイレもあるのでここを利用しよう。

登山口はそこからアカマツ林の舗装道路を200メートル下った場所、つまり三倉Aコースの起点の反対側になる。川を渡って鉄製の橋が燕山の登山口への取りつきだ。

シリブカガシ、ソヨゴ、シロモジ、ネズ、コナラ、アセビなどの道を歩く。それよりずっと手前にもこの道路には広い駐車スペースがある。従ってAコースの起点の空き地に駐車するのはやめよう。ここは山道の説明看板を確認するための場所だ。

橋の手前にはバイカツツジ、橋を渡る間にはタラヨウの木が見られる。川の巾はわずか10メートル、正面にこれから上る燕山の前峰が見えている。  登山口までは荒地でアカマツの二次林だ。

<登山口の橋>

道端にはウツボグサ、ナナミノキ、ミズナラ、アラカシ、シャシャンボ、アセビ、ヒサカキ、つぼみをつけたヤブツバキ。

山道は枯れ葉に覆われたサクサク道、緑の木肌が美しいウリカエデがすっくと立つ。シュンランの葉やヤブコウジの実を確認しながら進むと右手に砂防ダムがあるのでちょっと寄って見よう。ここにある木はコウヤミズキのようだ。春の花芽を膨らませている。カキノキもあり熟れた実がひとつぶら下がっていた。

鉄塔から第一大岩まで

枯れ葉の積もった晩秋らしい山道をサクサクと音を立てながら歩く。右手から聞こえる流れの音。

左手に鉄塔が見えたらここが登山口だ。

これから尾根筋に沿って登ることとなる。

今日のように天気が良いと、背中に陽を浴びて気持ちいいぞ。ツクバネウツギ、コガクウツギ、リョウブ、シャシャンボ、ヒサカキ。

足元にはコウヤボウキ、黄緑色のコシダが山道の両側をびっしり埋め尽くす。従って朝露で濡れているとスパッツの用意は必須だ。

<尾根筋から見る三倉>

左手には三倉の三美峰が見事に並ぶ。山好きならこれを見ながらの山歩きはどれほど元気付けられる事か。朝日を浴びた朝日岳、左へ順に中岳,夕陽岳と並ぶ。山岳信仰の修行の山として福・徳・寿の称号を与えられたとも聞く。

この時期なら樹木が葉を落としているので、見通しが良い、なるほど広島を代表する3本槍だ。

目の前に現れた最初の大岩、これを「第1大岩」としよう。この尾根筋ルートは大岩のポイントがあるだけでも歩いていて楽しい。

第1大岩〜第5大岩まで

山道は踏み跡がしっかりしていて間違えることは無いだろう。ママコナ、サカキ、茶色くなった葉を残しているのはコナラの幼木だ。

ヒヨドリが人を見て驚いたのか、声を上げて飛んで行った。登山者が珍しい山だからかな、隣の三倉岳には先週は車が置けないほどだったのに。

アカマツの葉がやけに短い、実も多いし木が相当弱っているのだろう。

第2大岩を過ぎて、第3大岩は小さなピークだ。ここでお茶タイム。だんだん三倉の三本槍が良く見えるようになったが、朝日岳が前面に出てきた。三倉ではなくて二倉の状態。

タカノツメ、ネズ、黒い実をつけているのはナツハゼだ。今年はシャシャンボは実のつき方がよくないぞ。足元にはシリブカガシの実が落ちている。 小さな岩が続きはじめたので番号が分かりにくくなってきたが(この大岩の番号はQJY独自です)、第4大岩あたりでは朝日岳が随分こちらに出てきてそのうち一倉岳になりそうだ。

シャシャンボ、アセビ、アカマツ、ソヨゴ、ヤマツツジ、コバノミツバツツジ、ウラジロガシ、リョウブ、タカノツメ、ウラジロノキ。足元にすっかり枯れたママコナ、あ、花が一輪咲いていた。

いい山どころか、素晴らしい山だ。三倉の人気の陰でひっそりと隠れているものの、こうして名山を眺めながらの小春日和の山歩きが出きる。

たどり着いたのが第5大岩の小ピーク、おや、一人先客がいるぞ。

第5大岩〜第6大岩〜山頂大岩へ

第5大岩の上から山頂大岩の写真を撮っている人がいた。話しを聞くとここに右側にある別ルートで登り、下りは尾根筋を利用するのだそうだ。もっともこの人もはじめて来たそうで、入手した案内ではそうなっているという。

ふーん、そうかなあ、山は尾根筋から登るものなんだけどなあ。特にこの山は三倉を眺めながら歩けるのがいいのに。

ともかく山頂がはっきり見えて、三倉も見えて今日の天気は最高だ。久しぶりにかく汗、それでは一緒に山頂を目指しましょう!

第6大岩ではモッコク、シキミなど。ツツジ類も多い山だ、春はきれいだろうな。尾根の左側が大きく崩れやすくなった砂の多い場所が2ヶ所ある。

この辺はアカマツが並んでちょっとした日本庭園を形成している。

山頂への取りつきは大岩を左に回り込む。ここを注意して、さらに最後の岩場はロープを伝っての冒険も必要。しっかりした岩場の間を足場を気にしながら山頂の岩に上がっていく。

あの男性は危険を感じて、山頂はあきらめてしまった。その勇気は大切だ。登りながら「こりゃ、下りは大丈夫だろうか…。」と不安になるからだ。

<頂上から見る三倉は一倉>

特に一人で山歩きをする人は、無理をしてはいけない。山頂は目的ではなく、無事な帰還こそ最終目的なのだから。

山頂にはナツハゼが紅葉して並んでいた。見下ろす西カントリークラブでゴルフをしている歓声も聞こえる。500メートル足らずの低い山だから。

背後は河平連山、ウラジロノキの立つ前方彼方には吉和冠山が見える。

こうして岩をよじ登って山頂に上がる場合は、自分の通ったルートを忘れないようにしなければならない。下山の時につい迷うことがある。登る時と下山時は景色がまったく違うから。たいてい色のついたテープがあるのでそれを目に入れておこう。

ここの山頂にはカマボコ板での個人標識がひとつも無かった、その点でも気持ちのよい山だ。あんなもの見るために登ってきたのではないから。

三倉側の大岩は絶壁になっていて大変危険。それでもそのそばでお昼にしよう。ちょっと早いけどこっちを眺めながらのお弁当は最高だよ。栗谷の町並みも一望、お茶がおいしいこと。

下山路もピストンで

下山時に第5大岩で左側の別ルートを選ぶこともできるので、先ほどの男性に道を確認している。

取りつきの鉄塔のひとつ奥の鉄塔を目指して下りれば良い。そして実際に下山してみたが、特に植生は変わらないし、やはり尾根筋のピストンのほうがおすすめだ。

特にテープを頼りに道を選ぶと途中で明らかな間違い表示があった。急にヤブコギになるので気がつくが、下山時に道を間違えるとリカバリーが大変。どうしてもこちらから下山したいなら踏み跡どおりに下りるのが正解だ。