QJYつうしん  休日は山にいます 2003.4.27

おにぎり山のキスミレと 男池のシロバナエンレイソウ
QJY174

大分県くじゅう高原の春

高原の涼しさ

  「くじゅう」と書く場合が最近のガイドブックで目立つようになってきた。久重、久住、九重など外部の人には間違えやすい表記がある。北部の九重(ここのえ)町、南部の久住(くじゅう)町、久重連山の最高峰は久住山であるとか。

  近々町村合併などで地名についての「苦渋」の選択があることだろう…、なんちゃって!

  いずれにしても広島からくじゅうに向かうとなると山陽道〜中国道〜九州道〜大分道と延々400キロの道のりをドライブすることになる。

  朝6時に出発すれば、中心地の長者原(ちょうじゃばる)に着くのは正午になるから、その日の登山を目指すなら3時出発と言う強硬手段にならざるを得ない。個人ハイクでそんな無理はしたくないのでやはり6時出発としよう。

  まずは昼食後の長者原の自然観察をしてみる。日当たりの良い「タデ原湿原」は野焼きのあとの黒々とした土の上でサクラソウが元気に咲いていた。広い木道がしっかり作ってあるのでハイカーは双眼鏡で確認するしかないのだが。

  足元には日本一小さなスミレ、フモトスミレがたくさん。そして雨ヶ池越〜坊ヶつるへの山道を歩き、南側の遊歩道も歩いてみよう。
コバノミツバツツジ

  ここでの楽しみはコバノミツバツツジとツクシシャクナゲ。どちらも鮮やかなピンク色の花を咲かせていた。シキミやツルシキミ、足元にはエイザンスミレやシハイスミレ。

  時折、陽は射すものの夕暮れはぐっと冷え込んでくる。宿舎のコスモス荘のロビーにはストーブが出ていたがそれで当たり前の気温、山中では零下になることは普通と言うから、キャンプの人たちも大変だ。

おにぎり山のキスミレちゃん

  朝からびっくりするような快晴、東の三俣山から登った朝日を受けて西の泉水山、黒岩山がくっきりと見える。

  この時期のくじゅうの山々は春の山菜・ワラビ採りの人達で大賑わいだ。3月の山焼きのため、イタドリなどが黒焦げになって立っているのでズボンはもちろんシャツの袖まで真っ黒になることは承知の上。ビニール袋を下げた人達が腰をかがめて山麓にうようよいる。

  おにぎり山の存在を知ったのは宿泊したコスモス荘の支配人のアドバイスからだった。この近辺の山は3月にはどこも山焼きが行われる、泉水(せんすい)山や涌蓋(わいた)山などいずれも山道をキスミレが咲くことで知られている。

  キスミレは山頂で咲くわけではないから、どの山に登ってもいいのだが、中でも手っ取り早く見られる山を教えてもらおうとしたわけだ。
一面のキスミレ

  そこで「おにぎり山」がいいよ、ということになった。場所は泉水山の手前だそうだ。

  そこに向かう車道沿いに黄色い花が並んでいた。道端に咲いている黄色い花は何とセイヨウタンポポ、わざわざ車を降りてがっかりしていたら、おやその先にも黄色い花が…。ミツバツチグリなんかじゃ無いぞ。キスミレだ。

 

目が慣れるとハルリンドウやフモトスミレ、食べ頃のワラビなどたくさん見つかる。

  もうこれで十分なのだが、せっかくおにぎり山の存在を聞いたのだからそこに行かなくては。でもいったいどの山なんだろう。

  泉水山の北を巻く車道に出ると西に涌蓋山の重厚な山容が目に入った。朝日を浴びてとてもきれいに見える。登山欲をそそる独立峰だ。

  左の斜面にいかにも公共施設らしき建造物が建っている、「県立九重少年自然の家」だ、まずここに入って山の地図でもあれば戴こう。

  館長さんらしき方に教えてもらったおにぎり山はちゃんと登山道もついているらしい。子供達が登る適当な高さの山なのだ。そしてパラグライダーの出発基地としても利用されているそうだ。

  登山口近くに車を置き歩き始めると、何だ舗装道路がついているぞ、車は進入禁止だが、おかげで足元が汚れないで済みそうだ。

  両側の真っ黒に焼けた土の色とは対照的に小さな黄色いキスミレはびっくりするほどたくさん咲いていた。右も左も、前も後ろもキスミレばかり。ハルリンドウ、フモトスミレも初めてこれほどの量を見るのだが、なにしろキスミレの多さに圧倒される。

  広島の県北で見るダイセンキスミレは葉に艶があるのだが、キスミレは柔らかい薄い葉をしている。特に山焼き跡の黒い地面に良く生えている。

  舗装はすぐに終わり、急いだら山頂には20分もあれば到着するかも知れない。「おにぎり山」と書いた札の立っている山頂で一休みして次に行こう。以前は立派に立っていたのだろうアカマツらしき巨木も山焼きで枯れたまま立っていた。
おにぎり山から見る湧蓋山

男池のシロバナエンレイソウ

こうして遠隔の土地に来ると地元の植物写真を載せた本を買い込むことが多い。

そのなかでシロバナエンレイソウ(男池にて)、と記述されているのがあった。別の本にもやはり男池の名前があるではないか。


そこでカーナビで「男池(おいけ)」を選択し連れて行ってもらおう。「男池湧水群」と地図に出てくる。約30分で着いたその場所は駐車場も一杯で超人気スポットであることがわかった。
男池の泉

皆さん手にはペットボトルを持っている。「男池の名水」として涌き出る水を持ち帰る人が来ているようだ。そして入口からカメラを持った人達が立ち止まっては花の写真を撮っている。今日はそんな同好会の集まりがあるようだ。
ヒカゲスミレ

イチリンソウ、ヒカゲスミレ、ムラサキケマン、カキドオシなど。

木道もあり歩きやすい。入口で渡されたパンフレットによると約20分で遊歩道は終わるようだ。でも花はいろいろ咲いていそうだぞ。

すぐに水が涌き出ている泉に着く。
フデリンドウ サバノオ

中国地方では見ることの無いサバノオが可憐な花を咲かせていた。ツクバネソウは地味な花、マムシグサの派手な威嚇攻撃。樹木ではカエデ科でカジカエデ、テツカエデ、ナンゴクミネカエデなど。その他ゴマギ、ケヤキも多い。

黄色い可愛い花はまたキスミレ?いやこれはツルキンバイのようだ。

ジロボウエンゴサク、ヤマエンゴサク。エンレイソウの小さな葉はあるが花が無いぞ。


おやここのヤマルリソウは白花ばかりだ。

ここから久重連山にも行けるように道があり、平冶岳、大船山などへの登山口になっている。まさかシロバナエンレイソウは山道にあるのだろうか。

道の途中で野鳥を狙っているカメラマンがいた。先ほどからツツドリの声が聞こえている。「カワセミでも待ってるんですか?」「いえいえ、ミソサザイが来るんです。」なるほど…。
ツルキンバイ

やや広い草地にも大勢のカメラマン。皆さん花の写真を撮っている。草原と違ってここのリンドウはフデリンドウだ。

もうちょっと進んでみると遠くに大きな丸い葉が見えた。咲いているならあの程度の大きさかな?おお、シロバナエンレイソウだ、と言うよりアカバナなのだが。内花被片の無いエンレイソウより大型で赤い花びらをしている。正確にはムラサキエンレイソウと呼ぶものか。10株くらいあるぞ。

何とか遊歩道沿いで見ることが出来た。
シロバナエンレイソウ

奥には水量豊かな滝があり、そこで折り返す。タチツボスミレやヒカゲスミレも咲いている。巨大なオヒョウの木、カツラも大きい。

さあ、これから広島までの400キロを運転しなくては。14時に出て20時に到着、NHKの大河ドラマには間に合った。