QJYつうしん  休日は山にいます  第175号

羊の草原はお花畑

ノヒメユリやキキョウが咲く

福岡県北九州市 平尾台 2003年8月10日

平尾台自然観察センター

  「日本三大カルスト高原」を知っているだろうか?山口県の「秋吉台」、高知県愛媛県にまたがる「四国カルスト」、そして今日の目的地北九州市の「平尾台」である。

  今まで何度も出かける機会がありながら、実現しなかった因縁の場所でもある。それは出かけるならばあの可愛いユリを見てみたいと思っていたから。あのユリとはノヒメユリ

ヒメユリのように上向きでは咲かない、他のほとんどのユリがそうであるように、ノヒメユリは青空のもと、恥ずかしそうにうつむいて咲くのだ。また、時期としてはお盆の前くらいの今がベストシーズン。実はこの時期ここ数年、ほぼ毎年四国カルストの天狗高原に出かけていたためだ。

そんなちょっとした理由で足が遠ざかっていた平尾台だが、やっと来ることができた。

朝から広島を出て九州道の小倉南ICで下りる。ここから平尾台までは10キロも無い、交通に関しては非常に便利な場所にあるのだ。

ただ注意点として、長い距離を高速走行しているのでR322を左折し、平尾台までのジグザグ道をついスピードを上げて走ってしまわないようにしなければならない。約6キロはつづら折れの狭い山道。カーブのオーバーランは怖いぞ。

まずは平尾台自然観察センターに寄ってみよう。  ここでは今咲いている植物や地形の話、観察コースの紹介などをパノラマ模型を使って展示してある。飲み物を仕入れ、車を置いて歩き始めよう。

茶ヶ床園地

  向かい側の平尾分校から平尾台山神社を経由して「茶ヶ床園地(ちゃかとこえんち)」までのハイキングコースを歩いてみよう。

  神社の手前の民家で番犬の見送りを受け(つまりうるさく吼える)、木陰にヤブランが咲いているのを見ながら歩く。ルートは案内板があるので間違えることは無いだろう。

  暗い林を抜けてやっと草原に出た。ふっと気持ちが軽くなる瞬間だ。茶ヶ床園地まで450メートルの地点、おお、すぐにノヒメユリが目に入った。外見はコオニユリのようだがミニコオニユリといったところ。九州から南にしか自生しない貴重なユリだ。良く見ると草原のあちこちに高さ1メートルくらいで目立つように立っている。

  ユリ科ユリ属としては最小だそうだ。色も薄いものから濃いものまでいろいろ、おしべは閉じていて花被片と同じ色だ。

  園芸種以外では初めて見たから「感激モノ」。それにしても目が慣れるとあちこちに見かける。しかしコオニユリほどまとまって咲いているわけではない。同じ色のヒオウギも目につく、これだって自然のものは貴重だ。紫色の大型花はキキョウ、たくさん咲いているぞ。茶ヶ床園地までの散歩道はまさにお花畑そのもの。

 羊群原とノヒメユリ

羊群原

大きなベンチのある茶ヶ床園地から見えるカレンフェルトの白い岩の数々、これが見事に群生している一帯をその風情から「羊群原(ようぐんばる)」と名付けてある。

確かにそんなイメージなのだが、この一帯の岩は特に色が白く輝いて見える。風景写真を撮っていたおじさんとしばし歓談、「撮影にはあのあたりが最高」とお墨付きを貰った場所に向かった。シシウドそっくりのヨロイグサ、ミシマサイコはもう黄色い花火のように輝く花を見せている。

のんびりした草原の中にもちろんノヒメユリの可憐な姿があちこちに立っている。初めは、この花ちゃんと見つかるだろうか、と心配をしたものだが、なんのなんのこれほど有るとは・・・。

  ヒオウギ

クララはすでに咲き終わり、ツクシハギが咲き始めている。サイヨウシャジンか、ツリガネニンジンも秋の訪れを待ちかねてすでに咲き始めている。セッカが落ち着かない声で頭上で鳴き、遠くブッシュの中からクマゼミの声。

ああ、いい時に来たものだ。

広谷湿原

茶ヶ床園地から30分歩くと湿原があるという。ここにハイキングに来たのだから当然歩くのだが、車やバイクは進入禁止となっているその道を平気で次々と入ってくる車が多い。

パトロールの軽自動車もある自然観察センターではそんな取り締まりはやっていないのか、ちょっと不信感が募る。ここに来た人達はどんな気持ちでこのルール違反をしているのだろう。

大型のコオニユリも時折目につくようになった。数では圧倒的にノヒメユリのほうが多い。ヒオウギも忘れた頃に姿を現わす。

黄色いヒキヨモギが歩いているそばに出てきた。カワラナデシコの群生も。コウゾリナ、カセンソウ、アレチハナガサなどもある。

 ミシマサイコ

峠を越えて湿原の木道が右手に見えた。たくさんの人達が徒歩でここを目指している。適当な距離なのが幸いしているのだろう。湿原と言ってもその規模は小さなもので咲き始めたサギソウがぽつんぽつんと見えている。ヌマトラノオ、ヒメシロネ、モウセンゴケ、コバギボウシ、スイランなどお馴染みの湿原植物だ。

ちょっと場所を変えてサギソウの多い所を見つけ写真に撮ったが、あまり人目につかないほうが良いだろうと思いそそくさと引上げた。周囲にも羊の群れ(石)が点在する。ここは2億5千万年前には海の底だったのだ、羊たちはその頃の動物の骨などが石になったもの。

 サギソウ

 

千仏鍾乳洞

茶ヶ床園地まで戻ると暑さでめまいがしそうだ。そう言えば日陰など無いからちょっと苦しい。広大な草原に自販機などあるはずもないので、水分の補給はしっかり準備しておく必要がある。

先程からある方向に向かってたくさんの車が向かっていることに気づいた。「千仏鍾乳洞」と看板に書かれたその先は余程の人気スポットと見える。この暑い盛りの鍾乳洞ならきっと涼しさも満喫できるかな。

 

鍾乳洞までの道すがら、小さな花をたくさんつけた高さ1メートルくらいの花穂が目に入った。花に色は無く、すっくと一本立ちあがっている。ゴマノハグサだ。葉はツリガネニンジンのようで、花が虫に食われたものかと思ったが、虫眼鏡で確認するとヒナノウスツボそっくり。

こんな植物が隠れているからこの草原は面白い。  鍾乳洞の駐車場は広いのだが満杯状態でたくさんの車が列を作って並んでいる。もっとも車を置いてから200メートル以上歩かなければ鍾乳洞には到着しない。

 ゴマノハグサ

入場の前に履き替えのサンダルを貸してくれる。これはどうやら洞窟内で水の中を歩くこととなりそうだ、そんなところが盛夏の人気スポットなのだろう。

洞窟は入ったとたん冷気が気持ち良く、しかし狭いため往復の人がすれ違いに苦労する。そんな中を800メートルも先まで進むのだから身体の芯まで冷えることになる。

途中から水の量が増え、道中半分は水中歩行になり先程のサンダルが役に立つわけだ。これは冷たくて気持ちいいぞ。いや冷えすぎてしびれるような感覚を覚える。ちょっと老人子供にはきついかも知れないが何とワイルドな洞窟なのだろう。

最大膝の高さまでの深さがあり、天井からの水滴も絶え間無く落ちてきて、夏であることをすっかり忘れさせてくれる。これだけたくさんの人が来るはずだ。最終地点はもっと先までキリがないのだそうだが、照明が準備されている最深部で引き返すこととなる。

すっかり身体を冷やしてリフレッシュすることができた。

 千仏鍾乳洞

平尾台は広島から4時間弱、ドライブはハードだが別世界の体験までできるハイキングコースだ。湿原有り、カレンフェルトの羊の群れ、草原の草花も含めてまたひとつ好きな場所が増えてしまった。
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