QJYつうしん  休日は山にいます

黄金の花の山歩き QJY177 2005/3/26

       アオモジの花の咲く

広島県呉市 鉢巻山(400m)野球のシーズン

春風に吹かれて

標高400mの低山、市街地で斎場前の墓地から取り付く山、あんまり期待も大きくなかった。今までこの山を知らなかったわけではない、この時期にはもっと素敵な花の群落に魅せられて方々の山に脚を向けているからだ。

花好きは困ったもので、同じ場所でも今年はもっと咲いているかも知れない、などと勝手な想像をしてはその場所を訪れる。

実は今日も県北のある花の群生地に出かけようと思っていた。しかし先日来の雪で覆われて悲惨な状況だろうとも思う。

年によって咲き方が違うから楽しいのかも知れないね。

さて、今日の山、鉢巻山への取りつきは呉市焼山にある「呉市斎場」前の「寿光霊園」という墓地を通過して歩き始める。広大な墓地だ、お彼岸から一週間しか経っていないから供えてある花もきれいに咲いたまま。植え込みにはまだスイセンの花が満開状態なのは寒さの続く今年の冬らしい。

鉢巻山は手軽なハイキングで登る初心者向けの低山だ。特に人気があるわけでは無い、現にこの日も誰一人出会うことも無いちょっと寂しい山歩きだった。

驚くほどの快晴にもかかわらず肌寒い朝の始まりだ。このところの異常気象はいったいどうなっているんだろう、台風は多いしいつまでも雪が降る。

登山口からしばらくは投棄されたゴミが目立つ。しかしこれはこの山だけの話ではなく、市街地にある山ならどこでも抱える課題だろう。

投棄されたゴミが多いということは投棄する車が入ったということ。確かに車が通るくらいの広い山道が通っている。これは戦時中に山頂にある砲台まで行き来できるようにしてあったためらしい。戦艦大和を造船していた呉市の周囲の山には過剰なくらいのこういったものがある。

オオバコやオオイヌノフグリの山道、アカマツの幼木まで道の中に生えているところを見ると今は車が入ることはなさそうだ。もっともすぐに台風後の倒木が道を塞いでいることに気が付くが。

ヤツデやカクレミノ、真紅の花のヤブツバキが目立つ。ヤブツバキは瀬戸内では普通に見る樹木だが、ここでは大木が多い。

山道ではアセビに白い花が咲き春の装いになっていた。

鉄塔から鉄塔へ

  歩き始めると身体が暖まり春を感じることができる。静かな山だ。ウグイスも盛んに鳴いている。

  鉢巻山の名の由来は知らないが、この山道はゆるやかに山を反時計回りに巻いている。そう、「はちまき」のように巻いているのだ。

  倒木にからみついたキヅタ、咲き始めたヒサカキ、おやこれはホソバタブのようだ。歩き出して10分で竹林を左に見る。ナワシログミやツルグミもある。そして最初の鉄塔、中国電力の送電線だ。

この鉄塔の場所でようやく今日の目的の植物が出てきた、アオモジ(クスノキ科)だ。見事なまでにびっしりと咲いている。それも高木、良く似たクロモジが低木なのに比べ、かなり大きくなる。

山道に沿って山側(左側)に石垣の塀が続くのは、これも戦時中の造作であろうか。この石垣はほぼ山頂まで続く。

登山者が少ないからだろうか、ブッシュの中から我々に驚いた野鳥がバタバタと飛び立つ。

涌き水もあるようで道が濡れていた。ヤブツバキの花が山道の斜面一面に落ちて見事だ。

山道でアオモジがたくさん見られるようになった。広島県でアオモジはあまり見ることが無い。恐らく知らない人は広島県には無いと思っていることだろう。しかしこの山では山道に沿って次々と黄色い花が咲いている。高木が多いが、それでも目の高さで見られる木もある。

春に咲き、黄色い花なのでクロモジ属(クロモジ、シロモジ、ダンコウバイ、アブラチャン、ヤマコウバシなど)と思われがちだが意外にもハマビワの仲間だ。雌雄異株で花付きのよい方がオス、クロモジと間違えそうな大人しい咲き方の方がメスだ。

岡山県、山口県が本州の分布と図鑑には書かれているが、このように広島県でも地域特定で見られる。県内にはクロモジ、シロモジ、アオモジとモジモジ三兄弟が揃っているのだ。アオモジのいいところは、何しろ高木なので満開の時期には見ごたえがある。その時期にやっと来ることができた。

丸いつぼみが弾けると、中から5つくらい花が出てくるのが面白い。また、葉よりも先に花が咲くので見ごたえもある。

アオモジと言うからには幹もやや緑っぽい。クロモジ同様、和菓子の楊枝の材料になるという。また実は非常に辛く、別名をコショウノキとかショウガノキとか言うらしい。

次の鉄塔のある場所まで花をつけたシキミやクロキ、ヒサカキも春爛漫の光景を見せてくれる。

ゆるやかな坂道はだらだらと続くが、道が広いので歩きやすい。そういえば最初の鉄塔以降は投棄ゴミを見ることが無くなった。

振り返ると呉市のシンボル「灰ヶ峰」が見える。

海が見える

鉢巻の山道が熊野町方面から南側に回りこむと吉浦方面の海が見えてくる。不思議にアオモジは見られなくなりネズミモチ、リョウブ、ネズなど瀬戸内らしい植生に変化してきた。相変わらず石垣のある山道、ストレスの無い山歩きは木々の間から見える海の景色と鳥の声でとても快適だ。

この山はガイドブックにもほとんど書いて無いため、知らない人も多いようだが、無理をしないハイキングのできる親しみやすい山だと言える。

呉市の魚見山が見えてくると山頂も近い。

遠く、ボワーと汽笛も聞こえるぞ、足元にはタチツボスミレ、艶やかな葉は真っ赤な花のヤブツバキだ。いろんな方面からの取りつきもあり、案内看板が立ててある。車で来ていなければ別の出口に出たいところだ。

山頂には三等三角点があり、標高400m、覚えやすい。あら、ここにアオモジの大木が立っていた。周囲にはクロキ、オオバヤシャブシ、ヒサカキ、ヤブニッケイなど。南に面しているので日当たりが良いのだろう、クロキの地味な花やオオバヤシャブシの毛虫みたいな雄花も咲いている。

山頂の砲台跡は四角いコンクリートで囲まれた井戸のようなものが残っているだけだった。戦時中はここから米軍の戦闘機に対して機銃放射をしていたのだろう。平和な現代の山歩きができる幸せを今更ながら感じる。

もう少しこの山頂の周囲の樹木が整備されていると瀬戸内の見晴らしも最高なんだろうけど、手付かずのままの鉢巻山も残して欲しい。

痛し痒しだね。

下山は元来た道の往復だけど、見下ろしながらのアオモジ群落はまた一層数が増えたように見える。この山の魅力アオモジを十分堪能できた気がする。

【編集後記】

例年この時期(3月末)に訪れる場所は、バイカオウレン、ミツマタ、コウヤミズキ、ショウジョウバカマ、アズマイチゲなどの群生地。いずれも県北の寒い場所だ。

この日もユキワリイチゲ、ホソバナコバイモの群生地を3時くらいから訪れた。その場所で知ってる顔に出会う、みんな考えることは一緒だね。

特にユキワリイチゲなどキンポウゲ科では晴れた日の午後でないとしっかり開いていない花が多いのだ。そんな経験を、何年も通って身に着けた。

一週間違えば咲いている花も様相が変わってくる。仕事も遊びも一気に忙しくなるから困ったものだ。