□ 第十九回「夏の始まり」〜ヴァイオラの徒然日記 □

460年6/16
ジーさんが朝から別人モード。昨夜の夢は相当核心に迫るものだったらしい。何も言ってこないんで、ひとまずトールと一緒に用事を片付けて回る。まずはお祝い品を頼んであった仕立て屋へ。出来上がりや如何に。
……わぁ、すごい。さすがだラッキー。こんなところにまで神の寵愛が及ぶとは、恐るべしホムンクルス。
40GPで一世一代の仕事を二回もこなした職人さんには、大枚の心づけをはずんでおく。

鏡を買った店でメンバー分のピンブローチを購入。線彫りの奇麗な「季節の花8個セット」があったんでそれに決める。主にロケート用&「もしもの時」の救済基金だが、ちょっとだけ仲間の枠を作る意味もある。
ヒマワリがセイ君、コスモスがジーさん、アイリスがラッキー、スイセンはカイン、バラがコーラリック、ユリがトール。寝ているアルトにはスズラン、そしてガーベラがロッツ君の分。
物が物だけに、トールに値切らせてなおガーネットがいくつか消えて無くなった。

サラさんの出産祝いを贈りにパシエンスへ。トールがいるので近道。久しぶりに猫の裏道を通った。ここでは新顔だからチンピラが襲ってくるかも、と期待したが何も起こらず。身の程を弁えた連中ばかりでつまらない。
そんじょそこらではお目にかかれない産着を渡し、トールの顔見せを済ませて帰る。

大司祭が珍しく普通の手紙を寄越した。セイ君の兄貴が行方不明になった廃墟についての情報(内部地図付き)だった。どうも兄貴の幽霊が出没しているらしい。これは一度行ってみる必要があるか?
にしても、「帽子の青年」はないだろう。大司祭ってばネーミングセンス悪すぎ。
ラッキーにお祝いの帽子を渡す。うん、似合う。そうしていると、いつもよりもかわいく見える。やはり相当いい仕事しているからね。

今日はもう何にもなかろうと思ったのだが、いきなり坊ちゃんがカインを押しのけて現れたり、ジーさんが衝撃の事実(と言っていいのか……?)を垂れ流してくれたり。理解の範疇を超えた話を延々聞かされた。はっきり言って、半分ぐらいしかわからなかったよ。
……しかしムカツクなぁ。今までの常識がガタガタになったのは別にいい。問題は、役にも立たない知識のために、修道院や神殿の先生達から散々叱られたという事だ。あの無意味な時間と労力を返せ。
それにしても、覚醒したジーさんはトーラファン並みだね。次から次へとよく喋る。しかも裏情報ばっかり。まあ、そのおかげでひとつ思いついた事があるけど。ダメもとで保険をかけておくとしましょうか。まったく、フィルシムってのは何処に何がいるかわかんない土地だよ。
とにかくジーさんの立場もわかったことだし、やれることは何でもやってみないとね。


――最後の最後で未だかつて無い、身の毛のよだつほどとてつもなく嫌な出来事を聞かされた。


以前、母なるエオリスに仕える「神の目」と呼ばれる種族(ビホルダーの亜種。ごく偶にビホルダーの中から生まれてくるらしい)を冠島の生誕地だか聖地だかから攫った魔術師がいた。
その「神の目」はなんとか逃げ出したけれど、懲りない魔術師はまたしても「神の目」を攫ってきた――それとも前の奴の複製を創り出したのか、この辺りがよくわからない。とにかく人型にされた「神の目」に、いろいろと処置を施して逃げ出さないように創意工夫を重ねたらしい――まったく魔術師って奴は度し難い。
そこへ女神の「使徒」とやらが現れて魔術師をぶち殺し、囚われの「神の目」を逃がしてやったんだそうな。めでたしめでたし。 ちなみにそれはゴードンだったんだとさ。ついでにアルトのお師匠で、レスタトやアルトを監視するために張り付いていたんだと。知らなかったよ。当たり前だけど。



その「神の目」、ヴァイオラって名前なんだってさ。

 
6/17
アーベル幽霊の廃墟を目指して出発。だのに、昨晩はうなされまくって、ほとんど寝ていない。考えちゃいけないと思うのに、嫌な方へ嫌な方へと想像の翼は広がるからだ。
――たとえば。
助けられた「神の目」が人型のまま子供を産んで、実はそれが父か母の先祖だった、とか。
実はおじさんがゴードンで、「生まれ直してこい」とかいって赤子に戻したわたしを家に預けた、とか。
このパーティメンバーに入った時点で記憶操作されてて、実際は「カジャおじさん」という知り合いはいなかった、とか。

……やめよう。これ以上は、まずい。このままいくと、さすがに許容限界を超える。こんなところでアイデンティティ崩壊起こしている場合じゃない。

(S) 廃墟探索出発の報告

 
6/18
何事もなく過ぎる。
 
6/19
目的地に到着。情報通り幽霊に遭遇。なんか言っていたようだが、すぐに消えてしまった。その際、セイ君の中に何かが吸い込まれたらしいが……。今すぐどうこうできる事じゃないし、家族の守護がついたという考え方もある。
兄貴の心残りを探すべく家族お揃いの指輪にロケート。反応があったので明日また探索する。
 
6/20
ひたすら瓦礫をかき分ける。焦げて変形しかかった指輪を発見。状況からみてハイブをまとめて焼いた場所らしい。とすると、やはり兄は親父のファイアーボールで死亡か。覚悟を決めていたのか、セイ君はさほど動揺しなかった。
だんだん形見を収集する人数が増えてきてやな感じ。

野営中に新顔二人組が周りとの親睦を深めていた。意外にコーラリックが世間知らずな坊ちゃんな事を発見。トールはジーさんが気に入ったらしい。チクチクいじめていた。
 
6/21
廃墟を出発。
 
6/22
ピクニック日和だ。
 
6/23
フィルシム到着。
男どもはセイ君をハメるため、もとい親睦を深めに夜の街へと繰出した。経験豊富なガイドが二人もついている事だし、明日の朝にはコーラリック共々、立派な男になって戻ってくるであろう。

ラッキーを送りがてら、ジーさんと一緒に某「人の王」と談合。「審判」が避けられなくなった時のために、ウィッシュポイントを訊きに行く。最初は何のことやらという素振りだったが、話し始めると早かった。
神と対話するには、やはりそれ相応の代償がいるようだ。当たり前だけどね。通じやすい場所も教えてもらったし、近所までなら連れて行ってくれるという約束も取り付けた。後はその手段を使わなくてもいいようにがんばるだけだ。
親切にも不在時の連絡方法まで教えてくれた。あのデッドリーな「赤の鎖城」で歌を歌えば留守居役に会えるようだ。変な歌だった。

かなり夜が更けた頃、カインが戻ってきた。セイ君が酔いつぶれたので毒抜きしてくれという。まあ、そうだよね。寝こけていたり役に立たないんじゃ意味ないもんね。一人残しておくと何かありそうなので、ジーさんも連れて行く。
セイ君の相方はいかにも優しそうなお姉さん系。さすがだ、好みばっちり。媚香を死ぬほど焚いておきゃあ、勝手になだれ込んでくれるであろう。そろそろやり方を覚えておかないと本番で恥かくよ。
しかし、酒を中和して部屋を出たところでジーさんから「待った」がかかった。目の前に公認の恋人がいるのに、なんで他の女と床を共にするんだ、という。そうかぁ、まだ発情期前だとばかり思っていたんだけれど、実はちゃんとその気があったのね。
しかしながら、この件はセイ君の自省を促す為の策謀であるからして、一緒に朝を迎えるのはお姉さんでないといけない。折衷案として、お姉さんには誠に申し訳ないが、コトが済んだ後に入れ替わるということで合意に達した。
ダルフェリルの記憶があってもセイ君が床上手になるわけもなく。きっとジーさんの負担も顧みずに突き進むんだろうなー。だから最初に上級者に教えてもらうべきなんだけどね。
まあ、やる気になってんだから仕方がない。念のため、お初用の準備その他をありったけ用意したうえ、ジーさんにもいくつかの心得を伝授する。
そんじゃ、後はよろしく。

みんなが自分の相方とよろしくやっている間、わたしはジーさんを待っててヒマだったので、店の女の子を一人呼んで暇つぶしする。
それにしても、カインはやけにセイ君を庇っていたなぁ。あそこまで自分でお膳立てしておきながら、最後の最後でやっぱり可哀相だとか言いくさって。これだから男同士ってやつは。
 
6/24
朝食前に男どもが朝帰り。セイ君の世も末な風情は予想通りだが、後のコーラリックが妙にイッちゃった雰囲気なのが気になる。まさかトールともあろう者が、変な娘をあてがうとも思えないけど。
一応最初の予定通り、「ずっと寝ないで待ってたのに、のうのうと朝帰りなんかしてきたわね」計画を発動。ジーさんと二人でいじめる。時間はかかったが、やっと自覚と反省の色が見えたので、二人まとめて外に送り出した。
長い道のりだった……。これでなんとか一息つける、かな。
コーラリックの始末はカインとトールにまかせ、わたしは荷物を持って宿を出た。


どこか、だーれもいないところ、だぁれもわたしをしらないところ。
……あった。


近所であるにもかかわらず、誰も寄りつかない恐怖の城「赤の鎖城」。わたしはその門の脇に簡易テントをたてて野営の準備に入った。フィルシム初代王にして「人の王」、今の名前でいうところのグラの話では、門の中に入らなければ別にどうってことないみたいだし。怪物でさえ怖れて近寄らないのなら、今のわたしにとってはまたとない好条件。一人でぼーっとするにはバッチリだ。
というわけで、雲を眺めながらお茶を飲む。向こうの街道を通りがかった隊商が奇異の目を向けてきたり、(たぶん)城の誰かがこっそり覗きに来たりしたが、いずれもガンつけしたら逃げていった。


そらがあおいなー……。

ゆうひがまっかだなー……。

つきもほしもきれいだなー……。

 
6/25
よあけだ……。

ぽかぽかしてきもちがいいな……。

あ、ありんこだ……。


少し、風が冷たくなった。そろそろ帰らなければ。
なんとなく癖になった「チビカブの歌」を鼻歌で唄いつつ、入念に野営地の始末をする。貴重な時間を提供してくれた城に一礼し、フィルシムに戻った。

宿の前でラッキーがもじもじしていた。どうやら昨晩、現場に踏み込んでしまったらしい。共有部屋でやるとは……まあ、覚えたてだから仕方ないか。
その後どんな情景が繰り広げられたのか、見なくても手に取るようにわかっちゃうのが嫌だ。今頃うちのパーティがどんな噂になっているのかは、考えたくもない。
ラッキーには、とにかく気にするなと言っておいた。
ちょうど下りてきたジーさん達と一くさり話をつけ、さて食事でもと思ったその時。扉の向こうから奴の声。……やっと来たか。わたしは逃げ腰になったラッキーの足を引っかけて止めた。
待っていたよ、ティバート。

バルジ復活祝いという名目のもと、キリがいいので小銭28Gpで宴会料理を頼む。
皆の心は一つだった。一瞬でベンチ席が埋まる。
「ささ、バルジさんは真ん中にどうぞ。主賓ですからね。おっと、席が足らないな〜。じゃあそこの二人はそっちのテーブル席ね」
にこやかに、そして有無を言わさず。親父の心づくしで花まで飾られた二人席を指さした。ティバートが恨めしそうこっちを見たが、知ったことではない。
最初はぎこちなく話していたようだが、とうとうラッキーが例のシャツを取り出した。ほーら、やっぱりあるじゃない。しかも奴の分だけ綿シャツ。わたし達のは麻だったのに、奴は綿。
彼はトクベツってことですか? いやーすごいね、ラッキーってば。教えられなくても恋する乙女の定型をちゃんと踏んでるじゃないのよ。
助っ人兄貴はいい歳して、いまいち踏ん切りがつかなかったのか、どうでもいい話がしばし続く。しかし、とうとうラッキーに告白しおった。それで良し。
賑やかに歓談しつつも(ジーさんの手の中で杯がみしみし音を立てていたが)、全ての神経は隣の二人に集中。周り中が同じことしているのが何だなー。バルジとティバートには根強いホモ疑惑があったらしいから当然か。しかもラッキー泣いちゃったからねー。またまたゴシップに拍車がかかったわ。

その後二人は静かな場所を求めて上の部屋へ。聞き耳をたてに行きたいがどうするか、と思っていたら、バルジがウィザードアイで実況中継してくれた。ナイスだバルジ! さすがはゴンのマスター!
で、結局ラッキーはティバートの部屋へと連れ込まれた。なかなか速い展開だな。まさかここで何事かを致すとは思えないが。軽く酒を飲みながらの雑談の後、なぜかラッキーは一人で部屋に帰ろうとしたようだ。何か言ってはいけない事を口走ったらしい。ティバートめ、失敗しくじったな。
このままラッキーを放っておくなら、ホモ疑惑を確定してやる。そう思ったところで、バルジが「よし」と握り拳で頷いた。

階段口で泣き濡れたラッキーを、追ってきたティバートが――

ジーさん、あんまり歯軋りすると歯が悪くなるよ。


一応ティバートも腹を括ったようだ。ラッキーやバルジが部屋に上がったのを見計らい、我々に一言断りに来た。が、妙に高圧的というか、なんというか。「彼女は貰っていくぞ」的な姿勢にカインが毛を逆立てた。
まあ、騎士クラスの実力がある奴から見たら、我々なんぞ目下の存在なんだろうけれど。その態度はいただけないな。
甘く見ないで欲しい。うちのパーティメンバーに手を出す以上、この運命共同体に巻き込まれるんだから。生半可な覚悟じゃやっていけないんだよ。そのことを判らせるべく、カインと二人で奴を叩く。
向こうは向こうで格下から散々に言われてカチンときたらしい。だんだん語気が荒くなり、終いには武装中立状態に。なんだ、意外にケツの穴が小さい男なのね。
不穏な空気は「おやすみ」を言いに現われたラッキーによって払拭された。メンバーチェンジで仕切りなおす。しかしあまり状況に変化はない。
こいつ、意外に馬鹿だね。
わたし達が聞きたいのは、「すまない」でも「ラクリマをくれ」でもない――いや、もちろん言ってもらう分にはかまわないけど。一番大事なのは「ラクリマを幸せにする」という言葉。できるかどうかは問題じゃない。そうするつもりがあるっていう姿勢を見せろという事。
奴も散々叩かれて、やっとそれに思い至ったようだ。ぎりぎり合格点。となれば、これで奴も一蓮托生決定。せいぜい扱き使わせてもらいましょうかね。

(S) ティバートの身辺調査依頼及び戦力支援としてセロ村赴任願い

奴の一般的な評価を集めるべく、トールにも身辺調査の依頼をかける。表と裏と両方の顔を知っておけば、何かあった時に便利なんだな。
 
6/26
朝、床に巻物が転がっていた。こういう怪しいことするのはトーラファンぐらいだろう。うん、やっぱり。中身は妙に詳細なティバートの経歴だった。出生の秘密まで書いてある。
それによると、なんと先々代のフィルシム王族の妾腹の孫……って、何のメリットもないな。だからどうした。バルジとは昔っからつるんでいたらしい。幼馴染みということね。妹が一人いたけど幼い頃に殺されてしまい、その事件が元で騎士になることを決意した、と。
――これはマズイ。ラッキーが「わたしは妹さんの身代わりなんですね」とか言い出して、また自閉モードに突入する可能性大。こいつ絡みでそんな事になったら、それこそ立ち直れないかもしれないなぁ。先に釘刺しておくか。というわけで、ジーさんに「ティバート新聞第2号」を発行してもらう。
トールの調査もほぼ同じ結果だった。おかしな裏はないようだ。ちょっと安心。ちなみにベーディナとヴォーリーはくっつかなかったらしい。なんでだろう。

バルジと一緒に見送りに来たティバートは、さっそく綿シャツを着込んでポイント稼ぎをしていた。まあいいか。ラッキーが喜んでるし。ジーさんの新聞と共に再度釘を刺す。
「また近いうちにお会いしましょう」
とっとと左遷されて来なさい。セロ村は楽しいところだよ。
ついでにバルジもゴン二世を連れておいでね。大歓迎。
 

 

 

 

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文責:柳田久緒