□ 第二十回「夢の跡」〜ヴァイオラの徒然日記 □

460年6/26
門を出てすぐ、ライニスのF&KならぬF+Kが待ち構えていた。どうにもカインをぶち殺したいらしい。説得も通じず、お付きの連中を振り切り、ついでに騎士の誇りもポイ捨てして突っ込んできた。何もそこまでせんでも。そんなにカインが嫌か。
鼻息荒かった割りに、あっさり生け捕られる。殺すのもつまらんので、武装解除した上に縄で括って馬に積んでフィルシムに戻した。人質ならぬモノ質に盾を押収しておく。

(S) ライニス騎士、無辜の一般人襲撃の顛末、および証拠品押収の報告

+1シールドか。せっかくだからしばらくの間有効活用させてもらおう。色も変えちゃえ。
 
6/27〜6/30
ツェーレン達の祝福が惜しみなく降り注がれている。
 
7/1
さらに風化した馬車の横でエステラ嬢の隊商とすれ違う。見ると護衛がやる気なし中年男、サリデンしかいなかった。うわー、危ないなー。いくらツェーレン達が守ってくれるといっても、限度があるでしょう。そんなわけで、まだ早いけどここで野営。
実はご隠居がポックリ逝っていたらしい。老体にセロ村行は辛かったのか。相手が相手だけに、セイ君はおくやみをのべるという芸当を見せた。人妻じゃなくて婚約者でもOKなんだね。守備範囲広いなぁ。
新たに判明したコーラリックのダメダメさが妙にベルモートとかぶる。半人前同士気が合うかもしれない。友達になってみたらと提案しておく。
いっその事、ベルモートを村長にしてコーラリックを補佐にすると面白いかもしれない。

一緒に野営してよかったのか悪かったのか。虎ハイブ×3の襲撃。まあブルードだから大したこと無……くは無かった。ハイブのくせにビーストチェンジしおった。ヘルモーク氏の嘘つき。
一体だけ尾曲がりでハゲな奴がいた。もしかしたら素性が割り出せるかもしれないので覚えておこう。
 
7/2
夜、寝入り端をいきなり叩き起こされた。
うるさいんだよ。この犬コロどもが。物わかりの悪いお前らなんぞイヌだイヌ。
どうせしっぽ巻いて逃げ帰るんでしょ。それなら族長に「馬鹿め」と伝えておきなさい。方針転換は今の内だよ。こっちが聞く耳持っている間にね。

追記:蛇はなかなか重宝する。
 
7/3
さすがに暑くなってきた。
 
7/4
暗くなる頃にセロ村到着。
川辺でカーレンと戯れていたリールが、今回も名指しで歌を唱いおった。今回の犠牲者はカイン。
……なんか、哀れな奴だな。坊ちゃんって。カインと二人で一人前か。それにしても、カインの相手って誰よ。
キャスリーン婆さんに、よくメンバーの替わるパーティだねとか言われた。しょうがないでしょ。好きで入れ替えてるんじゃないわよ。失礼な。
なぜか狩人の一人が強制労働していた。どうもメーヴォルにハメられたっぽい。その辺りの詳しい話をグリニードがしてくれた。この人ってば、ほんと生真面目というか杓子定規というか。
大事件はなかったが、小事件はいくつかあったようだ。一週間前に虎ハイブ×6が襲ってきたり、ガサラック達がハブにされていたり。
皆を樵亭に送り出してから女神亭に顔を出す。入り口でメーヴォルが村娘3人侍らしているのにぶつかった。なんか知らないが、カインは奴に敵対意識を感じたらしい。嫌だ嫌だという割には、しょっちゅうそのタラシな顔を活用するんだよね、君ってば。
折良く中にはヘルモーク氏がいたので、食事も早々に外へ出る。なんかいきなりアルトから伝言があるとか言うし、面倒くさい話はここじゃできない。ガサラックとヘレンの間にも何事かあったらしいが、それはカインが娘達を誑かして聞き出してくれるだろう。分担分担。

大司祭から宿に手紙が届いていた。中身は分捕った盾の使用許可書。ちゃんとガラナーク本国の印章が入っている。へー、さすがだ大司祭。あの一幕をどんな風に使ったのか、いつか聞いてみたいな。さぞかし楽しい遣り取りがあったことでしょう。

ヘルモーク氏宅で密談。この前の満月に、なぜかアルトが起きたらしい。メモだけ書いてすぐに寝たのはいいが、どうにもわかりずらい内容だった。もっと具体的に書きなさいよ。
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突然、目が覚めてしまいました。強力な魔力にあてられたせいで、アミュレットの鎖が外れたからです。ヘルモークさんも虎の姿でいないと、この魔力の元では体がもたないと言っていました。

魔力の源は今日の満月と村長さんの家の地下に感じました。

これ以上起きていては、僕ももたないので再び眠ることにします。
『月の魔力は時が満ちたことを示し、村長宅の地下では何らかの解析が完了した』
――今の僕が伝えておけるのは、これだけです。

それではお休みなさい。

 

 

6/15 アルテッツァ・シリル・ノイマン=ステップワゴン

 

P.S. 指輪の色は白でした。安心してください。

 

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「巻物」ですか。トーラファンは起動装置だか手順書だか、そんなような物らしいと言っていた。するとやっぱりゲートか魔晶宮か、その両方か。どうやってか、ガルモートのとこの魔術師がそれを見つけ出したのだろう。面倒くさいことをしてくれる。
この前の満月が特別なのも気にくわない。ジーさんが目覚めた満月期。時間がないんだと言われているような気がしてならない。

例のハイブコアを掃討するために、虎族の村をベースキャンプにしたいと頼む。種族間摩擦だの偏見だので居心地は悪いだろうが、コアに近い安全地帯を確保する方がよっぽど大事。なに、こっちには「審判の巫女」がいる。連中も無下にはできまい。
ヘルモーク氏は冗談で「一緒に逃げようか」などと言っていたが、半分ぐらいは本音なのかも。獣人としてだけでなく課せられた何かがあって、それが重荷になっているんじゃないかな。
公職につかない主義なのも、虎族が出ていっても一人この村に残っている理由も。いったい何に縛られているんだろうね。

それにしても、まずいな。ハイブコアのある場所って、あの「夢見石」のとこでしょう。石のせいでハイブが進化したのかね。あんまり考えたくないな。
場所聞いたらラッキーが嫌がるだろうなー。でも言わなかったらばれた時が怖いしなー。

家に戻ったところで情報の整理。新人さんにはこれまでの経緯と合わせて、コアを潰しに行く事を説明した。どっちも予想通りの答えだった。当たり前だ。
コアの場所を聞いて、ラッキーは真っ青になった。こりゃダメかな、と思ったけど、何とか踏み止まれたみたいね。少しは成長したか?
カイン情報によると、村の勢力配置図に変動があったらしい。ゴロツキーズの一人が早々に所帯を持ったそうな。へー、あのゲットしたサギ師がねぇ。いやー、ベアード・ギルシェの親父に頼んでおいた甲斐があったわ。これが偽装でないなら、村のためにも喜ばしい。
しかしガサラック達の立場はちょい微妙。どうも裏でよくない風評流している奴がいるようだ。なんとか梃子入れしておく方がいいだろう。明日あたり親父っさんに会いに行ってみようかな。
村のメンテとの兼ね合いも考えて、コアに向かうのは3日後、または一週間後ぐらいということになった。ガルモートの動きも気になるし、状況によってはもう何日かずれるかも。

夜半、重苦しい空気とセイ君の叫ぶ声に叩き起こされる。目を覚ました途端、周り中から息苦しいほどの圧迫感。ねっとりと纏わりつく、何か。
どうも村長宅地下で何事かが起きたらしい。爆発まであったようだ。……ガルモート達だろう。馬鹿者共が。
戦闘準備を整え、魔法もありったけ使い、皆は村長宅へ。わたしは念のためもう片方の「巻物」を借りにキャスリーン婆さんの家に向かった。婆さんもさすがに危急の時だと思ったらしく、すんなり貸してくれた。
現場にはすでにグリニードとフェリアさんとヘルモーク氏がいた。さすがに素早い。フェリアさんはなぜか村長宅を睨んで仁王立ち。その後姿には殺気すら漂っている。専属護衛だけあって、地下に何らかの禁忌があることを聞かされていたようだ。
ようやっと現われたベルモートを言いくるめて家の中へ。まずは探知呪文で地下への隠し通路の入り口を確認。面倒な仕掛けの部分はトールがなんなく探り出してくれた。後ろでベルモートがめちゃめちゃ驚いていたが、こんな大掛かりなカラクリが何度も動いていたのに全く気づかないのもどうよ。
白々しいのは百も承知で、ガルモートを救出するというお題目を唱えて地下へ突入。ひたすら階段を下りた先には頑丈そうな大扉があった。ここまで来たら後は野となれ山となれ。いち、にの、さん、で飛び込んだ。
入ってすぐ、さっきから異様に重い空気が強すぎる魔力のせいだということに気づく。何となれば、奥の部屋には稼動中の魔晶宮が聳え立ち、誰が見ても暴走中。せっかく蓄えられていた魔力は辺りにだだ漏れ。「巻物」が無いのに無理矢理動かすからだよ。
ガルモート達は全員集合している。という事は、魔術師の独走ではない。たいした使い道もないくせに、大きい力に無条件で飛びつくあたりが小物。……これだから馬鹿は嫌いなんだ。
妙に得意げな魔術師が自画自賛し始めたので、思った通りのことを言ったら突然キレた。
――どうして怒るのかしら。あなたに魔晶宮の制御は無理だと言ったから?だって、本当のことじゃない。たかが蛮族魔術師ごときが、わかりもしないくせにあちこちいじったりして。ほら、こんなに負荷がかかってしまった……っと、まずいまずい。リズィが出てきちゃった。まあ、確かにわたしもそう思うよ。
こんな状況では穏便な話し合いになるはずもなく。向こうも見られたからには生きて帰す気などないだろう。ガルモートの「殺っちまえ」を合図に、戦闘態勢に突入した。
予め魔法をかけていたのは正解だった。なんかヤバイものが召喚されたりもしたが、信念勝負はわたしの勝ち。あっという間に決着がついた。賢くも命乞いをするガルモートを気絶させ、念のために武装解除しておく。
ざっと部屋を見てまわろうとしたら、何故かツェット爺さんが立っていた。足元にはガルモートのとこのシーフが転がっている。……昔っから胡散臭いと思っていたけど、やっぱりタダ者じゃなかったのね。どうせ教えてくれないだろうから、何も訊かないことにする。面倒くさいので、シーフの始末だけお願いした。
魔晶宮は止まったが、ちゃんと動かすにはいくつか部品が足りないようだ。うーん、もしも修復できたら、ちょっといいかも。「審判」がダメな結果に終わったとしても、獣人族のための出産場所を提供できるんじゃないかな。あとでヘルモーク氏に提案しておこう。
ガルモートは意外と潔かった。バグレスの陰謀に騙され、わたし達に助けられたという筋書きをすぐに呑み込み、すすんで念書も書いた。上に戻った時の猿芝居も天晴れで、村人達にも堂々と演説をかましていた。
頭も悪くないし、ちゃんと手綱がついてれば、けっこう良い村長になるかもね。ちょっとメンテしておこうか。
「故村長がなぜ村長でいられたかおわかりですか? 目に見える力が全てではないということです。
まだ遅くはないですよ。あなたがその事を弁えてこの村に戻ってきたのなら、きっと村人はあなたを村長に推すことでしょう。
……たとえそれが村長を選んだ後だとしても」
彼は珍しくちゃんと人の話を聞いたようだ。
 

 

 

 

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文責:柳田久緒