□ 第二十四回「私の愛する人」〜ヴァイオラの徒然日記 □

460年7/19
起きたらジーさんの髪が伸びていた。寝ている間に何事かあったらしい。しかし言いたくなさそうだったので待つことにする。
ついでに夢を見たようだ。セイ君はシャウエッセン、いやマウエッセンの娘かもしんない奴だとか、アナスターシャやロッツ君に囲まれて鍋の前の猪状態だったとか。ふーん、それはある意味死ぬよりまずい事態になった気がする。フィルシムでコア造りながら待っててくれるという事だし、急いでこっちの事後処理を済ませてしまおう。
遺品の回収、荼毘と埋葬、ゴミ捨て場の浄化、やる事がありすぎて嫌になる。本当なら虎族の村に帰って、村人達の手を借りるつもりだったんだけどね。そうも言っていられない。

(S)セロ村コア掃討終了とティバート消息不明の報告。
   ついでにコア増設の可能性とフィルシムの新規コアについての報告。
   バーナード・パーティ内にユートピア教関与の疑いあり。

大司祭からはすぐに返事が返ってきた。5万GP用意して待っていてくれるそうな。

出発が昼前だったので虎村についた頃にはあたりは真っ暗だった。そのまま真っ直ぐ族長の家へ。コアを潰した報告とヘルモーク氏行方不明の件について。明日の朝コミューンを使ってもらうことを再度念押しする。
くつろいでいたら、なにやらカインとラッキーが複雑な内輪話を始めたので席を外す。……わたしにはできなかったけれど、カインならラッキーの蟠りをといてくれるかもしれない。力不足を突きつけられるのは痛いね。
ぶらぶらと族長の木のとこまで夜の散歩をしていると、ジーさんがやってきた。
「ヴァーさんとカインには言っておこうと思って」
ジーさんが昨夜見た夢には続きがあったようだ。族長が人の手にはあまるから、と「夢見石」をくれたんだそうな。ふーん、アーティファクトか。単に人の手にあまる力を持っているというだけなのね。
ジーさんも完全に力が戻ったみたいだし、少しは希望がもてるかも。
 
7/20
朝、族長にも同席してもらい、フェルディランの神殿で神へのお伺いをたてる。とにかく村長を信じていいのだと納得してもらわないと。そこさえクリアすれば、セロ村へ帰還するのはほぼ確実だろう。
質問は3つ――
・我々はダーガイムを欺いていない
・アズベクト村長はダーガイムに終生誠実であった
・バルジとティバートは今現在生きている

最後の質問はコアを潰した報酬代わりにさせてもらった。何れも「はい」「いいえ」のみの返答だが、まあ予想通りの答えを貰った。
気持ちの整理がつけばきっと村に戻ってきてくれるとは思うが、それを悠長に待っている時間はない。なので、族長にセロ村まで虎さんを貸してくれないか頼んでみた。返答の仕方で今後の風向きも占える。
族長はなぜか返答を躊躇った。まだ葛藤があるようなので、「やっぱりいいです」と言っておいた。もしかしたら、もう帰る気があるけど意地張って言わないだけかもしれないし。

昼過ぎに村を出発。途中で通りすがりの蛇に噛まれてジーさんが危うく昇天するところだった。ひゃー、やっぱり蛇は強いねぇ。解毒呪文ニュートラライズポイズンとっておいてよかった。
 
7/21,22
時折何かしらの影が過ぎったが何も起こらず。
 
7/23
もうすぐセロ村というところで、突然後から何かに呑み込まれた。なにがなんだかわからない。真っ暗でぬるぬるしてなま暖かい感触と鼻をつく刺激臭に混乱する。このままでは消化されてしまうのでなんとか這い出ようとしたが無理だった。
……仕方がない。ここでカエルだかトカゲだかのウンコになるぐらいならレッサーファイターになってやる。わたしは腰に差したダガーに手をかけた。やりたくないけど、ホント仕方ないもんね。
と、いきなり目の前が急に明るくなった。コーラリックが腹を割いて助けてくれたらしい。ぬるぬるのべたべたが気持ちわるいが、まだクレリックのままで生きている。ああ、ありがとう。

かつて族長のお姉さんが村長と待ち合わせていた場所(らしい)に差し掛かったあたりで、見たくないものを見ることになった。村へ続く道の真ん中には、完全武装で戦闘態勢に入ったバーナード達――予想通りレイは知らなかったらしく、一人オロオロしていたが。
ジャロスは例の邂逅をしっかり覚えていたらしい。あんな遠目で、しかもほとんど一瞬の出会いだったのにね。恐るべし、女好きの記憶力。だから最初に会ったとき、妙にからんできたのか。
夢見石の迷宮に行ったことで、わたし達があの時の目撃者だったと確定して、ここで待っていたというわけ。こうなっては説得もきかないよなぁ。飲み仲間と戦うのは嫌なんだけど。別にユートピア教に敵対しているわけじゃないしさ(向こうはそう思っていないようだが)。
彼らはいつものユートピア教みたく、自己欺瞞に満ちた理想論を振りかざして来なかった。でもやっぱりムカつく。その透けて見える負け犬根性が。
てんでんばらばらに、説得だの呼びかけだの宣戦布告だのをした後で戦闘開始。レイは中立を宣言して、両陣営にヘイストをかけてくれた。思い切ったことする人だ。
やる気がおきないせいだろう、わたしはあっさりスコルのホールドに引っかかった。すぐさまラッキーが解いてくれたが。……やっぱりやる気でないんだよね。
ジャロスが倒れた。妙にあっけない。なんか死んだふりしているくさいが、今は先にすることがある。毎度お馴染みヘビをばらまいて、バーナードとスコルの動きを封じる。スコルはヘビの毒牙にかかって、ばったり倒れた。ヘビ万歳。ほぼ同時にバーナードも倒された。
ジャロスはやっぱり生きていた。近付いたら「降参、降参」と両手をあげた。ユートピア教ではなく、スカルシ村の回し者だったらしい。彼は他の連中に任せて、スコルのところへ急いだ。今すぐ解毒呪文をかければ彼は助かる。――わたしは、迷わず呪文を唱えた。
だって、頭にくるんだもの。自分ばっかりが辛くて苦しい、どうせお前達にはわからないだろう、って顔で。死んでもしょうがないとか思っていそうで。こんなつまんない宗教にはまっちゃって。
だから生かしておいてあげる。くやしかったら、またおいで。ユートピア教のためでなく、それが理由で来るのなら、ちゃんと相手してあげるから。

レイとは口裏合わせをしてバーナード達が殉死したことにする。村に入ってすぐブリジッタがいた。薄々何かを感じていたのだろう。我々が敵対したことに気づいていながら、黙って話を合わせてくれた。
バーナードを霊安所に安置しようとしたら、バルジに会った。なんだ、やっぱり無事だったじゃない。その場で我々がいなくなった後の顛末を聞き、思わずトールと顔を見合わせる。その時二人の心はひとつだった。
ダメダメじゃん。
神殿でマグロになっている駄目騎士には、生き返ったばかりだし人目もあるので一言だけにしてやった。

バルジから我が名付け子ヴァイオラちゃんのロッドを受け取る。しかしゴードンってば、直接渡しにくればいいのに。名付け親としては、彼女が幸せに暮らしたかどうか気になるところ。もう、会えないんだよねぇ。これが形見だと思うとよけい大切に思える。

身支度した後、トップ会議を招集。やれやれ、結局ブリジッタは村長候補を辞退した。これで振り出しに戻る、か。いまや村長候補はベルモートのみ。大丈夫なのかね。三年間は面倒見てやるけど、その後のことは知らんよわたしは。
コア殲滅の報告と遺品の受渡し、バーナードの葬儀について打ち合わせて閉会。
その後ベアード親父とグリニードに現状を聞く。
狩人たちは現状維持。しかし悪化していないなら上等だ。こういうのは時間かかるもんだしね。村の中に問題はないようなので、安心してフィルシムへ行けそう。

夜、トールと一緒にツェット爺さんのところへ顔を出す。入れてくれないのはわかっていたけど、念のため。……ほんと言うと、アドバイザーとしての権限で聞くという手もあったのだけれど。今回は大人しく引いておいた。まだ、その時期じゃない。
トールに2000gpのブレスレットを渡す。
魔晶宮についてはほぼ予想通りの答えが返ってきた。しかし巻物の存在を知っているとは、恐るべしシーフギルド。手を出さなかったのはヤバイネタだと思ったからかね。それとも修理法を知らないからか。スルフト村で目撃されている事も考えると、それがらみの話があったのかもしれない。

(S)ティバートの消息とセロ村コア増設可能性低下の報告

今後のために、ツェット爺さんと大司祭にわたし達に対する世間の評価を問い合わせてみた。こういう各階層での噂は事前に把握しておかないとね。
それによると、

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□ パーティに対する世間様の目 □

王宮
使い勝手の良い善良な冒険者(←笑える)
扱いは難しくとも潰しが効く
フリーな騎士級戦士や司祭の卵がいて狙い目
他国の者も狙っている
神殿
大司祭(代理)と問題を起こした者達
司祭クラスが居る実力者
町中
相当の実力者
おもしろいヤツら
男色やバイ、恋愛関係のもつれが複雑に絡み合ったラヴラヴファイヤーパーティ
盗賊
危ない連中(←よし)
危険なことによく首をつっこむ
色々問題を抱えていて関わらない方が良い
スカルシ村と敵対者が居る
貴族の非嫡子がいる

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だそうだ。比較的好意的でそれなりに高い評価をうけている。
このイメージを保持するべきだろう。
ちなみにわたし達への支援及び敵対勢力についても訊いてみた。これも知っていると知らないとでは大分違う。

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□ パーティ支援&敵対勢力 □

支援勢力(☆1〜5)
クダヒ貴族   ☆☆:主にアベラード家&ロールバレラ家
クダヒ神殿   ☆:一応は、ということか
フィルシム王家 ☆:上に同じ
フィルシム神殿 ☆:上に同じ
スルフト村   ☆:コーラリックとコア潰しの分
セロ村     ☆☆☆☆☆:但し領主不在で影響力無し
パシエンス   ☆☆☆☆:ラッキーは愛されている
トーラファン  ☆☆☆:興味深い研究対象だからか
ウェアタイガー ☆☆☆:対人間ならこれが最高評価?
大司教     ☆:神託を受け継ぐ者として(実際は★…どうせ他国の田舎者だもんね)
マコちゃん   ☆☆☆:あくまで私的評価(騎士としての公的評価は☆…ま、こんなもの)
敵対勢力(★1〜5)
ロウニリス   ★:目障りな奴ってこと(実際は☆☆☆☆☆…これが信頼関係)
スカルシ村   ★:「潜在的な敵対者」、で済んでいる
ユートピア教  ★★★★★:不倶戴天の敵らしい
ウェアウルフ  ★★★:敵対的から撤退中?
その他
アンプール家  −:表だっては何も無し(★★★★…内部工作で切り崩し中らしい)
ラストン    −?:表だっては何も無し

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まあこんなものか。
 
7/24
早朝、坊ちゃん塚に腰掛けて空を仰ぐ。葬儀の日に相応しい蒼天が広がっていた。
「どうしてくれるのよ」
コアを潰したら、いままでの恨み辛みをぶつけつつ、この塚を完膚無きまでにぶっ潰し、その場で全部忘れてやるつもりだった。予定では。
しかし――
「今日から『坊ちゃんバカ』に改名するかな」
ただの墓でもいいけれど、カインとレスタトが混じっているなら墓はいらない。その代わり、今までに為した愚かな行為をここに葬るのもいい。そう、これからはこの場に立つたび、自らを省みることにしよう。

「……『ばかの塔』も捨てがたいよね。どっちがいいと思う?」


バーナードは村の英雄として村人達に惜しまれつつ葬られた。上層部の意向でまたしても助祭として立ち会わねばならなかったが、今回は目立ちたくなかったので地味にした。もう専任の司祭がいるのに、なんでわたしが出張らないとイカンのよ。めんどくさー。
葬儀の後、ついでに村長の墓参り。やっとコアを潰した報告ができる。ついでにイシュリーンのことも。
もっとも、昨日村へ向かう途中に気を引かれて振り返ったら、魂が昇天するのが視えた。あれはイシュリーンだったのだろう。それはなんとなくわかった。だから今、彼女は村長と一緒にいるはずで、教えられるまでもないんだろうな。
帰る間際のキャスリーン婆さんを呼び止めて、婆さんにも話しておいた。ずっと心にかかっていた事だろうからね。

昼過ぎにセロ村を出発。バルジ&ティバートも一緒。結局何しに来たんだろうね、この二人。
出がけにグリニードが村宛の手紙を持ってきた。ひとまず丸く収まったようで何より。

(S)虎族、セロ村帰還の報告

 
7/25,26
ツェーレンにもコアを潰した報告。
 
7/27
ガーウ君の埋まっているところにブレス。
ふと気が付くと、道の真ん中に、いかにも変身するぞ〜といわんばかりの服を着た男が一人。獣人だね。しかも狼族のなんとかいう奴、ジュダとかいったっけ。
長広舌かまされたあげく戦闘になったら嫌なので、先に遺品を渡す。ここで渡しておかないと、袋の肥やしとして底に埋もれそうだもんね。いま出てきてくれて良かったなぁ。
彼は人なんか嫌いだとかいいながら、親切にも狼族が村(スカルシ村かな)に帰ることを知らせにきてくれたらしい。おまけにどっかで見た短剣を投げて寄越した。相変わらず、同族から物を奪っているんだね。「剣」といいこれといい。
……にしても、これ、もしかしてリエルの短剣か? 大丈夫だったのかな、あの子。
 
7/28,29
やはり虎さんが欲しい。
 
7/30
大司祭から連絡。セロ村、クダヒのコアは完全掃討されたとのこと。わざわざ神に確認とったらしい。それから、フィルシムに着いたら神殿に来いとあった。いいのかな偽装しなくて。
 
8/1
また大司祭から連絡。セイ君がユートピア教の手先となって大活躍、という噂が広まっているそうな。火のないところに煙は立たない――そういうことだ。
コアに送った調査隊が戻って来なかったというから、これも餌食になったんだろうなぁ。やれやれ、どうやってフォローするかな。
セイ君はおそらく薬か魔法かで操られているのだろう。それを解いた後、どうやって世間に操られていたことを証明するか。上の協力があれば楽なんだけど、どうかなー。そこまで面倒見てくれるかわかんないし。駄目だったときの為にショーテスに匿ってもらえるよう、どっかで話つけておくべきか。トールにも裏で動いて貰うことになるだろう。

いまさら誰も驚かないだろうから、野営時に仕入れた情報を流す。やはり誰も驚かなかった。
 
8/2
もうすぐフィルシム。正念場だ。
 
8/3
昼過ぎにフィルシム着。まずは皆でトーラファン邸へ。ジーさんの羽根用鎧を披露されたが、相変わらず話しが長くなりそうだったので、早々に院長のところへ挨拶に行く。
帰りにトーラファンと軽くアラファナの話をしたら、また変なもので覗かれた。ほんとにこの親父は。どうせ知られたことだし、ロッドのカバー製作を依頼。それと一緒に、ヘビの卵も頼む。……9000gpだぁ? 注文つけたのはわたしだが、それにしたって高い。どんなヘビだ……って、ワンダーエッグか。それじゃ高いわな。どうせなら割って呼び出すんじゃなく、普通のヘビと同じように温めたら孵る方が美しいよね。
ついでに夢見石の迷宮で拾ったポゼッション・ソードを売ろうとしたら、変な物が憑いているからヤダと言われた。神殿で憑き物を落としたらアシが出るしなー。それぐらいなら自分でやるよ。
一汗かいて、6000gpで売る。
子どもらは夕飯を食べていくようなので、トールと青龍亭へ先行する。なぜか赤龍亭の前にはガウアーがいた。リーンティアとローファシャを連れて。思わず叫んだ。
「なんでこんなところにいるの?!」
「お前らこそ! ……って」
トールが「あ〜」と顔を顰めて横を向いた。その姿を眺め、「やっぱりな」とガウアー。なんかストレートな誤解をしたらしい。当然か。トールは苦笑いして「違う違う」とか言ってるけど、ああいう態度をとればそう思われるに決まってる。
しかし、ガウアーはトールの「抜け駆け」を怒らなかった。なぜなら、彼にはすでに婚約者がいたからだ。……手、早いよガウアー。それとも惚れっぽいの?
でも嬉しいよ。ガウアーならあの子のこと、幸せにしてくれると思うもの。きっとね。
あなた達の結婚式、必ず出席させてもらうわ。

ガウアー達とご飯を食べた後、夜が更けてから神殿を訪ねる。まずは今までお世話になった活動資金5000gpを返す。神殿の金だったら気にせず貰っておいた――それだけの仕事は十二分にしている――が、これは大司祭のポケットマネー。お金は借りたら返す、基本中の基本。だからといって、これで貸し借りナシにはならないが。餓えている時に施された一杯のスープ、だからね。
セイ君とロッツ君の処遇については、大司祭の方でいろいろと手を回してくれるようだ。本当にありがたい。
明日、報奨金とコア討伐依頼で王城に行くことになるけれど……。フィルシム王宮には大司祭ほどの器量を持つ人はいないのだろう。後手後手にまわってばかりだもんね。
 
8/4
迎えの馬車で再び王城へ。またしても末っ子王子の謁見。今回は成金趣味な王妃が横に控えていた。王様帰ってきてるのか。でも謁見は末っ子王子。そんなものか。
5万gpを受け取って、例のコア討伐依頼を受けた。
ジーさんが突然、なんか背中がもぞもぞするんだと言う。嫌な感じ。これ、絶対なんか仕掛けられている。謁見中だけど構うものか。咎められる前に問答無用で探知呪文をかけた。
あー?変な人型のものが……。 謎の物体は、見るからにやばそうなイっちゃった系親父の元へひょこひょこ歩いていった。キ印親父は気色悪い笑いを浮かべ、ジーさんへのストーカー行為を平然と告白しやがった。
普通、招かれた先で招待主側の人間が無礼を働いたら、当然招待主はお客に謝罪するだろう。それがたとえ王族と一冒険者の関係であろうとも。今の王族はもともとただの冒険者あがり、ガラナークじゃあるまいし、気取るような立場でもなかろう。
だからわたしは当然の要求をしたのだが。それに対し、末っ子王子は我関せず。大司祭がとりなした上、横にいた王妃の方が気さくに謝ってくれたというのにね。
……これが一番切れ者な跡継ぎか。へー。
だめだな、この国は。

一緒にコアを攻略するのはガウアー達とホモコンビ、それにおかま。報酬は1パーティ3万gp。相変わらずショボい。
会議室でマップを広げて攻略手順の打ち合わせ。皆、わたしたちの目的を十分に踏まえたうえでの作戦を組み立ててくれた。ありがたいことだ。いつもたくさんの人に助けてもらっている。

そういえばエフルレス、脱走したそうな。ついでにルルレインはロストしたらしい。ますますカインは一人歩きできなくなった。
おかマコちゃんのもたらした情報で少し心の整理がついたのか、あれだけ頑なだった態度もだいぶ解れているようだ。このまえ荒んでいた理由について、なんとなく言いたげだったので水を向ける。
……あー……なるほど。それは荒れたくもなるわ。犬に噛まれたと思って忘れるには、ちょっとね……。
でもそんなのばかりじゃないよ。それはわかっていると思うけれど。
 
8/5
貧民街も極まれり。こういうところで暮らす人達って、本当に夢も希望もないんだろうな。そんな場所にコアはあった。前もってありったけの魔法と薬を投入し、他のパーティに露払いしてもらったわたし達は迷わず目的の場所へ突入した。
部屋の前にいる連中を黙らせ、念押しにロケートでヒマワリを確認。扉の向こうに反応有り。覚悟を決めて扉を開けた。
情報通りの面子にご対面。が、カインの元仲間、ディートリッヒは人型ハイブマインドに改造されていた。それもジェラを助けるために、泣く々々。彼女をめぐって密かに恋敵だった彼は、多分に逆恨みな呪詛を撒き散らしつつあっさり自爆した。言っちゃ悪いが、ヘチョい最期だった。
アナスターシャはお人形さん好きなんだろう。部屋にはレッサーセリフィアハイブがたくさんいた。でも、所詮はレッサーセイ君。枯れ木も山の賑わい。そしてセイ君は、操られていても飲み込みの悪さを遺憾なく発揮していた。なんだかアナスターシャの方が哀れに思える。どうしようもない子だなー。
ジーさんはセイ君の目を覚まさせようと、体当たり作戦を敢行。――びっくりさせないでよ。いくら獣人だからって、そんなことされたら、心配するじゃない。おまけにセイ君の攻撃に対してはまったく無抵抗。取り憑いていたお兄さんと一緒に悪いものは抜けたけど、それまで結構攻撃食らってた。あとで叱る。
ラッキーからロッツ君確認の報。逃げられる前に挟み撃ちだ。コーラリックにディメンジョンドアを使わせ、直接部屋の中にジャンプした。

覚悟していたけれどやっぱり痛い、そんな表情かおだった。わたしは無言で襟元に留めてあったガーベラを外した。ロケート用にと、皆に渡した「季節の花8個セット(定価400gp)」のピンブローチ。
――パーティの一員であることを示すもの。
「これ、君のぶん」
それは鈍く銀色に光りながら、短い弧を描いてロッツ君の手の中に収まった。

戦況は明らかにわたし達が優勢だった。エリオット装備のアナスターシャはさすがに堅いが、それも時間の問題だろう。そっちはジーさん達に任せておけばいい。わたしはこっちの始末をつける。
BBにロケート。なぜか反応が二つ出た。一度にひとつしかわからないはずなんだけど、都合がいいので不問。場所は予想通り頭と胸だった。同時に始末しないと残った方が爆発する。確実に。
ラッキーに声をかけようとした瞬間、ロッツ君はそばにいたハイブに斬りつけた。
……こぉのガキャあ、また逃げるつもりか。しかも今度は死に逃げだと?
っざけんな、バカ。
三人がかりで押さえ込みをかけさせ、ラッキーと同時にディスペル。なんとかギリギリ間に合った。手の下の震えで、彼が声を殺して泣いているのがわかった。
――馬鹿な子だよ。

アナスターシャはそれなりにセイ君のことを想っていたのかもしれない。それはわかる。けど、それにしたって破滅型だよ。わたしにはとてもじゃないけど理解できない。身の処し方といい、男の趣味といい。
セイ君が倒れたアナスターシャを大事そうに抱えてこっちへ来た。別にそれはいいんだけどね。その前に言うべき事を言ってくれていたのならば。
「ふざけるな」
本気の一撃を叩き込む。さすがに堪忍袋の緒が切れた。
本っ当に何も考えてないね、君? さっき、ジーさんがどれだけの想いを抱えて君の前に立ったか、全くわかっていないでしょう。わたし達がこうして君を迎えるために何をしてきたのかなんて、推測する気もないんだろうね。きっと。
――攫われて、薬で操られたのは仕方がない事だって。自分は精一杯頑張ったけど駄目だった。でもでも、きっと誰かが何とかしてくれると思っていたんだ――そんな感じ。そして、皆が助けに来てくれたのを当然のように受け入れて。

お前はどこのお姫様だ。

あんまりムカついたので、ついでにロッツ君にケリ入れる。お前もお前だ。よくもさっき死に逃げしようとしたわね。しかも舎弟の分際で、この前とさっきとで二度もわたしに手をあげた。ティバートなんかに詫び入れするハメになったのも、お前の不始末。
――わかっていると思うけど。
「落とし前、つけなさいよ」

落ち着いたところで内部情報を引き出す。大体目星つけてた通り、やはりトップはラストン人。ばかだ。まあ、このネタがあれば、「ロッツ君密偵説」もすんなり通るだろう。そこらへんのお膳立ては大司祭がいるから問題ない。
全員揃ったことだし、他の連中を支援すべくアナスターシャの遺体を引きずってマザー部屋へ。しかし、すでにあらかた掃討されてやることもなかったので、ブツを渡して領収書を貰う。今度生まれてくる時は、もっといい男を引っ掛けなさいね。
そのまま王城へコアを潰した報告に行く。大司祭のナイスな誘導により、ロッツ君とセイ君の嫌疑は晴れた。ついでに我々の株は相当上がったと思う。背後関係まで洗いざらいぶちまけてやったからねー。労をねぎらってくれるのか、半月はかかるセイ君の薬抜きを神殿が請け負ってくれた。元手がタダとはいえ、いやはや、すごい大盤振る舞い。
そして相変わらず末っ子王子はどうしようもなかった。

宿に入って今後のことを話し合う。コアを潰した事で、パーティとしてつるむ理由はなくなった。こっから先はそれぞれが自分のしたい事をすればいい。別れることになるなら資金配分もしなくちゃいけないので、一応どうするつもりなのかだけ確認してみた。
ジーさんはこれから「審判」がある。わたしもカインもラッキーも、最後までつき合うつもりだった。
問題はセイ君。ラリっているせいばかりとは思えない台詞がぼろぼろと。なんかさー、本当にレスタトが泣く気持ち、わかっちゃうよね。なんでジーさんはセイ君が好きなんだろう。鷹族だから人とは嗜好が違うってことかな。
話し合いと薬でへろへろになったセイ君を寝かしつけた後も話は続いた。
ちなみにコーラリックはもうちょっとしたら、ひとまず村へ帰るつもりらしい。トールは決着つくまでつき合うと言ってくれた。さすがだ、友よ。そして、ロッツ君は明日にでも落とし前つける旅に出たいと言った。
ま、いいんじゃないの。落とし前は速やかにね。わたしに対する落とし前は、ゆっくりでいいから。
ただ、ひとつ気になっているのがシャバクの件なのだけれど。寝る前に、小さな声で問うてみた。
「……グルバディは?」
「シャバクのことでやんすね。もちろん忘れているわけではありやせん。そっちもきっちり落とし前をつけてきやす。……それは彼らがもう少し経験を積んだ後にでも」
やっぱり、君だったのか。

ラッキーとジーさんが話しているのを聞いていて思った。やっぱりラッキーって、「完璧なクレリック」だけあるなーって。
神の代弁者であるならば、全ての存在に対して公平に接することを求められる。そんなの人間には無理だけど、少しでも近付こうと努力して立派な神官になっていく。それが普通のクレリック(職業神官のわたしには関係のない話だ)。
ラッキーは最初からそれをクリアしちゃっているのね。だからクロムはマッドだけど、すごい奴なんだと思う。
そう思った通りのことを言ったら、ラッキーは押し黙った。これはまずい部分に踏み込んでしまったか? わたしとしては「美人だね」とか、「力持ちだね」と同じ感覚で誉めたつもりなんだが。……どうもいけない。ラッキーとは話せば話すほどドツボにはまる。なんでかなぁ。
敗北主義だが、ここはひとまず静観しよう。もうちょい経験を積んで、度量の広い人間になってから再挑戦するか。

それにしても……。ウィッシュリングかー。えらいもん貰ったな。そりゃあ、なんでも叶うわけじゃないけど、普通ならどうにもできない事だって、なんとかなっちゃうんだよ。一回限りとはいえ、その汎用性の高さは侮れない。
――もしかしたら、やれるかもしれない。ちょっと考えてみよう。

 

 

 

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文責:柳田久緒