□ 第二十五回「つがい・1」〜ヴァイオラの徒然日記 □

460年 8/6
カインからコア討伐メンバーを招いて祝勝会をしようとの提案あり。ふーん、カインらしからぬ外交作戦。これはやはり、ライニスに行く気なのかな。
どうせやるならデカイところでやった方が宣伝効果も高かろう。竜紋亭に予約を入れようかと提案。たぶん大司祭につなぎとってもらえるだろう。

(S)今後のスタンス確認と竜紋亭へのつなぎ依頼
大司祭からは明日午後に竜紋亭でアポ。

まずはガウアーに話をしに行こうと思ったら、何の用だか末っ子王子から召喚状が届いた。「ヴァイオラ殿と有志の方」とは、宛名からしてふざけている。が、一応顔を出しておかずばなるまい。後で難癖つけられても嫌だし。
ガウアー達にも召喚状が来ていたようだ。午後になったら城で会おうと約束して別れる。
妙に気を回す連中がいたので当初の予定を変更し、皆でぶらぶらと街の中を歩く。ほとんどコーラリックの買い物につき合って終わったが、それはそれで目的は果たせたので良し。そうか、ラッキーは真珠が好きか。じゃあウロコは真珠色にしてあげよう。
せっかくのパーティだからと、この前のところで各々100gp相当の礼服を仕立てる。
出席確認のついでに王城で末っ子王子と謁見。どうせたいした用じゃないだろうと思ったが、案の定くそつまんない話を聞かされた。……ばか?
あのねー、こっちは戦争ごっこにつき合わされるほどヒマじゃないの。ラストンのバカ共なんぞカノカンナに任せておけばいいのだ。せっかくの緩衝地帯をうまく生かさないでどうする。
つくづく思う。残念ながらこの国の未来は暗い。
本題のマコっちとデパートに出席確認。当たり前だが両者ともOKだった。
帰りにルブトンのところに寄ったら、とんでもなく忙しそうだった。大変だなー。わたしとしては、彼のようなまめで実直な人が仕切ってくれると大変助かるが。

せっかくロッツ君からいいもん貰ったことだし、例の計画、ちと本気で組み立ててみようか。考え事にはやはりあそこがいいだろう。皆はパシエンスに行くというので、ウロコの件をトーラファンに言付ける。
皆と別れ、ひとり「赤の鎖城」に赴いた。が、相変わらず何も出ない。やっぱり噂はあてにならないなー。どのへんが恐怖の城なんだろうか。わからん。
ヴェスパーを支柱に簡易テントを設営し、お茶でも淹れようかなと思ったところで――
「何を、しているのですか」
上から声が降ってきた。

なるほど、あなたが噂の留守居役さんですか。とうとう好奇心に負けて(?)、姿を見せたというわけですね。事も無げに城壁から飛び降りるあたり、すでに普通人じゃないとお見受けしますが。……当たり前か。
暇でしょうがないらしい彼は、なんとなく人恋しいような風情を見せた。まあ、わたしも心の棚卸しをしたいところだったので丁度良い。行きずりのひとに話を聞いて貰うノリで、今までの事を最初から語ってみた。
全部話すのに真夜中までかかった。
 
8/7
午前中いっぱいかけて、昨晩予定していた構想を練る。
……まあ、いいんだけどね。人脈が広がるのは喜ばしいことだし、一応他人様の家の前で寝起きする以上、家人への挨拶は必要だとも思う。
けど、せっかく見つけた絶好の瞑想スポットとは、これでおサラバか。けっこうお気に入りだったのになぁ。残念。

宿に戻り、竜紋亭で大司祭と密会すべく身支度を整える。今回は貴族の令嬢風に装ってみた。なぜかカインが変な顔をした。失礼な。
大司祭の話はこれからの身の振り方についてだった。自由に放浪するか、神殿の配下になるか、独立系神殿を建てるかの3択。それぞれに長所・短所があり、それによって大司祭との距離も決まる。どの道を選ぶにせよ、今まで培ってきた信頼関係に変化はなさそうだった。返事は「審判」が終わってからでいいとも言ってくれた。相変わらず外さない。
……やっぱり大司祭には言っておくかな。信頼の証に。ヴァイオラちゃんのロッドの事を。
大司祭はちょっと驚いた後、低い声で呟いた。
「やはり、手放したくはないな……」
やっぱりこの人、好みだなー。でも大司祭ってばそう言いながら、誘っても動じないんだよね。つまんないの。
帰る前に予算1800gpで祝勝会の予約を入れた。

夕食時、久しぶりにシア=ハが現れた。いろいろと動き回った結果、教祖のピエールがユートピア教に手を貸したフシがあり、本人の行方を知らないか訊きに来たらしい。いやー、全然そんな形跡なかったけどね。そうでなきゃ、今のユートピア教とは別物だって噂流さなかったよ。
とりあえず、これからラストン方面へ探しに行くらしい。ご苦労様。
なぜか彼には真ユートピア教徒としてのお墨付きを貰った上、握手まで求められた。きっと友達いないんだろうな、このひと。

今日あたり、ロッドのカバーができているはず。例の計画も細部をつめておきたいし、とりあえずトーラファンのところに行く。……つもりだった。
が、突然ジーさんから警戒警報。パーティを分散させるとユートピア教から各個撃破されるらしい。ふーん、本当に力が戻ったんだね。なんかジルウィンを思い出した。
話し合いの結果、今日は大事をとって皆でトーラファン邸でお泊り。
そういうわけで、ぴよロッドご披露。「こんな感じがいいな〜」と言った機能が全部ついていた。ほんとにやるとは思わなかったよ。さすがはトーラファン。

セイ君のダメダメさがここでも判明。襲撃者が使っている鷹族もどきな力を持ったアイテム「エルの瞳」は、鷹族の目を刳り貫いて作られたアイテムらしい。どうも夢見石の時に、ジーさんとセイ君は本人に会っていたようだ。
しかもジーさんにそっくりだったというエル(ジーさんと同じ名前なんだね)に言い寄られ、二人でいちゃいちゃしていたくせに、彼女は単なる友達だと言い張る。うわー、最っ低。
皆が呆れかえったところで、なぜか突然、セイ君の心の声がダイレクトに伝わってきた。ジーさんが夢見石の力を使ったらしい。へー、便利だね。
心の声を垂れ流すセイ君と話していて思った。なんでこんなにバカな子なんだろう。話せば話すほどに情けない。あんなに何度も何度も繰り返しフォローしてきたにもかかわらず、彼には全くその意味が理解できなかったようだ。
今までわたし達がやってきた事って、まったくのムダだったのね……。なんだかどっと疲れが。
大いなる徒労感に襲われ、同じくへろへろなカインと共に寝室へ倒れ込んだ。
 
8/8
ふと、夜中に――いや、むしろ明け方に近い――目が覚めた。寝る前に飲んだ疲労回復安眠薬のせいだろうか。なんとなく水分が欲しい気分だったので、水を求めて部屋を出た。が、台所の位置がわからず迷う。あきらめて戻ろうにも、すでに現在位置すら不明。
どうしようかなー、と廊下で考え込んでいたら、後から声がした。
「なにを、しているのですか」

思わず笑ってしまった。
「……ラーカスターさんと似てますね」
気配を殺して、ひっそり現れるところとか。台詞まわしとか。
しかし彼女は外見の事を言われたと思ったらしい。ふーん、そうなんだ。随分若いおじさんなんだね。
まあ、丁度良い。元々彼女と話をしようと思ってここへ来たのだし――それはセイ君のおかげでうやむやになったが。念のため、トーラファンの耳を警戒して図書室に移動した。
「……訊きたいこととは?」
「女神に会うための作法ってありますか?」
赤の鎖城で考えていた事、ウィッシュリングで「場」を呼び出す方法をとった場合どうなるか。それが神の定める作法に反しているのなら、別の道を考えなければならないから。
でもさ、わたし如きが竜王山なんかにジャンプしたら、絶対帰ってこれないし。それを考えると、この手が一番確実だと思うんだな。
――結論から言えば、やはり近道は使えないらしい。訊いておいて良かった。
しかも、霊格を相当上げなければ神の目に留まらず、また存在力の大きさに圧倒されて何もできずに終わってしまうようだ。
それ、一体何年かかるの?

途中から「人の王」に戻った彼女は、相変わらずべらべら喋る。グラの時との差が激しい。よくわかんないけど、わたしと同じような理由が元で神になろうと思いたったらしい。ふーん、そうなんだ。面倒見がいいね。わたしは嫌だな、神なんて。
霊格上げるための助言をいくつか貰った。ふと思いついて、居留守役の人にも声をかけていいか聞いてみた。暇だって言ってたし、城の主に話しを通しておけば出かけても問題ないだろうから。
奴は引きこもりだから、ばんばん連れ出せと推奨された。
 

 

 

 

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文責:柳田久緒