初心者のための昔話 「必須アイテム・火口箱」

 冒険者にとって欠かせない装備は多々ありますが、見過ごされやすい物の一つに「火口箱」が挙げられます。「火をつける」事は、冒険する上でしばしば行われる行為です。焚き火を熾したり、松明やランタンに火を点す、油を流してモンスターに火炎ダメージを与える時にも使います。
 定住している事の少ない冒険者達は、基本的に火種を持っていませんから、当然一から火をおこすわけです。が、この時、発火具を持っていないと話になりません。時には魔法の力を使うという選択肢があるにはあります。けれど、毎回そんな事をしていたら、その術者はいざという時役に立たないでしょう。

 

 昔々、とある初心者パーティがおりました。一番ベテランでも若葉マークがとれたばかりという、まことに初々しいグループでした。
 彼らはある日、山の中へ山賊退治に出かけました。気前の良いことに麓の街で支度金が出たので、ファイター達の装備は充実しておりました。その為か、パーティ一行は大した傷も負わず、見事依頼を果たして下山しました。
 が、ここで思わぬ落とし穴が待っていたのです。アジトを潰して帰り支度を始めたのは午後も遅い頃、山を下りる内に日が暮れてしまいました。登りは日が出ていたので気づきませんでしたが、なんと誰も発火具を持っていなかったのです。
 土地鑑(土地勘ではない)の全くない山の中で、灯りも持たずに動くのは得策ではありません。そこで彼らは仕方なく野営をする事にしました。しかし悪いことは重なるもので、たまたま山の中を徘徊していたモンスターとかち合ってしまったのです。
 いくら良い装備に身を固めていても、暗闇の中で闘うのは大変不利です。一人、二人と倒れ、残りの仲間は闇雲に逃げ出しました。その彼らも不運な事に、崖から落ちて戻っては来ませんでした(崖自体は低かったのですが下には川が流れていたのです。重い鎧を着たファイターは沈んだっきり、浮かんで来ることはありませんでした。合掌)。朝になって村に帰りついたのは咄嗟に木の上に逃れたシーフのみ。
 こうして、お金は余っていたのに誰も発火具を買わなかったがため、彼らのパーティは壊滅したのでした。