初心者のための昔話 「戦闘時の心得」

 大抵のプレイヤーにとって、戦闘とは心躍るひとときであります。なぜなら、最も多くダイスを振る時間帯であるため、ゲームに参加している実感を強く味わえるからです。この時ばかりは普段あまり動かないキャラクターも、人が違ったようにイキイキと活躍するようです。
 しかし、それはある程度慣れたプレイヤー達の事。本当の初心者は、膨大なルールに戸惑うばかり。例え事前に戦闘ルールを説明されたとて、その場に最も相応しい行動を瞬時に判断できるわけがないのです。コンピュータゲームなら、一時停止でもすれば、ゆっくり取説を読み返しもできます。が、テーブルトークは常にリアルタイム。人を相手に遊ぶ以上、長考の構えは許されません。かといって、何も考えずに突っ込んだりすれば、他のPCに迷惑が及びます。死んでもリセットできないのですから、最低限の戦術は必要です。(といっても、普通は他のPC達がカバーに入ってくれるものですが。もしそうでないプレイヤーしか周りにいなかったら、そこを見限って他の面子を探すか、諦めて自助努力しましょう)
 そんなわけで、本人の体験を踏まえ、最低限の心得をいくつか挙げてみたいと思います。

 

其の一「単独で行動するなかれ」

 作ったばかりのキャラクターは当然のことながら弱い。装備は貧弱であり、技能%もレベルも能力値も低いと相場が決まっている。そんな村人に毛の生えたようなPCが単独で突っ込めばどうなるか。当然のことだが良くて半死半生、悪ければ死ぬだろう。
 逃げる時も同じである。他のPCが強いなら、後ろに下がって観戦してもいいが、皆がヨワヨワな時にそれをやると洒落にならない。一人頭の負担が大きくなって、結果的に死人が出たりする。状況にもよるが、基本的に単独行動はしない方が無難である。

 昔々、本人の二番目のPC(以下Aと呼ぶ)は、一発食らったらまず倒れるだろうという戦闘に向かないキャラであった。ある時、大変強い敵と戦闘になったのだが、当時のAは前述の通り貧弱だったので全く手が出せない。パーティの方が人数が多かったのだが、なぜか相手にダメージを与えられず、戦闘は延々続いた。
 Aは乱戦のため援護射撃をすることもできず、大変暇だった。ふと見ると、敵の斜め後方に怪しげな洞窟がある。敵を避け、ぐるっと大回りすればあの中へ入れそうだ。「もしかしたら、あの中には敵を倒すための手掛かりが(←この辺コンピュータゲームに毒されている)?」
 そんなわけでAは移動を開始した。困ったことに一身上の都合で戦士が二人(Aに惚れている奴とAから莫大な借金をしている奴)護衛についてきた。敵はとんでもなく足が速いので、Aの移動範囲は攻撃される可能性が高かったから、彼らとしてはそうするより他になかったのだ。
 当然だが敵に当たっていた戦力は大幅にダウン。なんとか死人は出さずに倒せたものの、周りからは非難の嵐。実際、賽の目がほんの少しでも悪ければ、パーティの半分は死んでいたと思われる。後からそれに思い至った本人は、しばらく落ち込んだものである。

 

其の二「敵に後ろをみせるなかれ」

 システムによって戦闘時のルールはまちまちであるが、大体において一致するペナルティ(又はボーナス)がある。それは背面攻撃である。
 説明する必要もないであろうが、人間は後ろからの攻撃に弱い。視界は前方のみであり、武器や盾は前に向けて構える。従って敵に後ろを見せるという事は、防御できない弱点を晒すわけで、それだけ死ぬ確率が高くなるのである。

 昔々、とても小柄ですばしっこいPC(以降Aと呼ぶ)がいた。Aは攻撃力はほとんどなかったものの、回避能力は大変高かった。また、精霊を封じたアイテムを持っていたので、いざという時には敵を倒す事さえできた。
 ある時パーティは敵対する騎士の一団に襲われた。敵は鎧をがちがちに着込んでいるから、そうそう倒れてはくれない。Aはこの時とばかりに精霊を呼び出し、前線で敵と対峙した。自らの回避力を恃み、短期決戦で決着をつけるつもりだったのである。
 二撃を食らわせたところで、敵に助っ人があらわれた。2対1の不利な戦いである。が、ここで一人は倒しておかねばと、Aは無謀にもその場に踏み留まった。この時戦っていた場所は開けた土地であり、Aはパーティの端に位置していた。
 平坦な場所で2対1、これは大変マズイ状況である。遮蔽物があればそれを盾に、または背中を預けて戦えるが、だだっ広い場所でそれはできない。実際この時もあっさり側面をとられ、位置修正ボーナス付の攻撃によるクリティカルを食らって、片手を切り飛ばされた。以後、Aは義手をつけて暮らすのだが、片手が無いためスコアも技能もガタ落ちだった。まさに浅慮の報いというべきか。

 

其の三「武器は複数用意せよ」

 冒険者たる者、どんな状況にも対応できなければならない。常に臨機応変、柔軟な姿勢を保てなければ、社会のプーであるが故に顎が干上がってしまう。当然戦闘においても同じ事がいえる。空を飛ぶモノには弓矢を、水の中の相手には槍を、狭い場所では短めの武器を使うというように。これができていないと、状況次第では一方的に叩かれ、PCを失う事にもなる。
 また、貧乏でないのなら必ず換えの武器を持たせるべきである。時々見かけるが、ダメージの大きい武器を扱う戦士等は、使い勝手が良いせいか他に何も持っていなかったりする。これは大変危ない。ファンブルで武器が折れた瞬間、その戦士は役立たずと化し、システムによっては防御さえままならなくなる。たとえ手斧や短剣でも、あると無いとでは大違いなのだ。

 昔々、同じパーティにシミター二刀流の戦士(以後Wと呼ぶ)がいた。右手で攻撃、左手で受け、いざとなったら「ザクザクモード」という戦闘スタイルだった。彼はそこそこ技能%も高いのに、なぜか受けばかり成功し、攻撃は一向に当たらないという、動く盾のような人だった。
 そんなある日、いつものように戦っていたWは、いつものように受けばかり成功していた。他の連中は既に自分のノルマをこなし、ボス格に戦いを挑んでいる。Wが焦って「ザクザクモード」に切り替えようとした矢先、敵のクリティカルを受けて左のシミターが折れた。(この世界の武器は青銅なので、クリティカルな受けでないと受けた武器が折れる)更に次のラウンドでWはいきなりファンブルを出し、右手のシミターを取り落とした。つまり手ぶらである。
 Wは他に武器を持っていなかったし、鎧は重くて回避能力が低かった。だから敵の攻撃はばんばん当たる。鎧のおかげで大きなダメージはでないものの、ちまちまとHPが削られていく。ズタボロになって、もう駄目かというところで別のPC(非戦闘員)が敵を倒し、なんとかWは無事だった。
 この戦闘後しばらくの間、Wは「戦士のくせに使えない奴」というレッテルを貼られてしまった。

 ざっと挙げてみましたが、どうでしょう。戦闘は状況によって千差万別、決まり切った手順では対応しきれません。しかし、最初は何をしていいかわからないものです。そんな時は、パーティ内の誰か(できればPCレベルが同じくらいのベテランプレイヤー)と同じ行動をするといいかもしれません。老兵は生き残りの方法を知っているものだからです。