初心者のための昔話 『全ての山に登れ』〜失敗のすすめ

 初心者の人はシステムに慣れていないせいか、よくおかしな言動をとります。原因は現実世界の一般常識と、ゲーム世界の常識が一致しない為です。これは仕方の無いことで、おいおい慣れてゆけばそういう事もなくなります。むしろ、最初の内にたくさんミスをしておく方が、後々のプレイの為には良い肥やしになるでしょう。ミスをするという事は、つまりPCが色々な行動をしているという事だからです。いくら冒険を重ねて経験を積んでも、毎回同じような行動しかしないのではプレイヤーのスキルレベルは上がりません。
 それに最初から絶好調すぎると、いざつまづいた時――テーブルトークを続けるなら、必ず起こる事です――ベテランとは思えない醜態をさらす事にもなるからです。若葉マークをつけているならいざ知らず、遊び始めて何年も経ったPCのポカというものは、――往々にしてキャラクターのレベルも高いため――周りに甚大な被害を与える場合があります。
 それを防止する上でも、色々な行動をしてみると良いでしょう。たとえ歓迎されないような事でも、自分でやってみなければわからない匙具合があるからです。どんな些細な事であれ、それはプレイする上での経験値になるはずです。

 

 昔々、あるところにメンバー十人の、高レベルパーティがおりました。彼らはマジックアイテムをがっちり装備した、半数以上がネームレベルという強者共でした。彼らはずい分と長い間、とある姫君を生国に送り届ける旅を続けていました。
 そんなある日、パーティはとある理由により二手に分かれることになりました。一方は盗賊シーフ魔術師マジックユーザー修行僧マンクの三人組。もう片方は盗賊その2、司祭クレリック、そして戦士ファイター系5人のあわせて7人。いつも一緒に行動し、危急の際にはその身を守っていたのは修行僧や魔術師だったのですが、事情により姫君達(もう一人研究者の青年がいた)は戦士組と一緒に馬車で移動する事になりました。時々雑魚エンカウントをこなしながら、そろそろ野営の準備でもしようかというその時、彼らの遙か前方に怪しい人影が現れました。相手はみるからに邪悪な雰囲気を発しながら、だんだんと近づいてきます。
 それに気づいた戦士と司祭は、いつものように一斉に突っ込みました。残されたのは盗賊と姫君の馬車のみ。そしてそれを見越したかのように、側面からライカンスロープの群が手薄になった馬車に突っ込んできました。それだけではありません。慌て逃げだそうとした姫君たち目掛け、間髪入れず、特大のファイアーボールが飛んできたのです。
 盗賊はレベルの高さとマジックアイテムに助けられ、なんとか襲撃の範囲から身を逃れることができました。しかし、問題は馬車にいた二人の一般人ノーマルマンです。当然ですが、彼らの耐久力は戦士が一発殴れば昇天する程度しかありません。つまり、この攻撃で彼らは死んでしまったのです。なんとか敵を撃退した戦士と司祭が戻ってきた頃には、黒こげになった馬車と二人の死体が煙をあげていました。
 こうして、最も大切な守るべき姫と長年の協力者であった青年は、何の防御策もないまま放置されたために、あっけなくこの世を去ったのでした。

 

 パーティ内の戦士達には聖騎士パラディン騎士キャバリアもいました。彼らは少なくとも――クラス特性から鑑みて――、自分たちが普段どんな敵に遭遇しているかを理解し、周りに指示を出してから戦闘行動に入るべきでした。何を目的として旅をしているのかを考えるならば、パーティが二手に分かれてしまった時に、最低限の防御策を講じておかなければいけなかったのです。いつも皆で突っ込んでいけたのは、後ろを守っている人達がいたからこそだという事を、彼らはこの高いレベルにしてようやく理解したわけです。
 このパーティの戦士達はなまじ強かった為、取り敢えず突っ込んで叩けば大抵勝てました。普段でも戦闘時でも、頭を使って様々な手を試みるのは戦闘力の弱いキャラクター達でした。彼らは生き残る為に、少しでも有効な策を見いだす必要があったからです。そして、そんな小細工のいらないPC達は、その手の分野は彼らに任せっきりだったわけです。

 

 少々くどくなりますが――様々な状況に適切な対応をとるためには、レベルの低い内から経験を積む事が大切です。時に周りに迷惑を掛ける事もあるかもしれません。ですが、失敗した事の方が上手くいった時よりも鮮明に思い出せるように、経験値もミスをした時の方が上がるでしょう。何度もそんなミスを重ねる内に、微妙な力加減や小技を覚えていくはずです。
 そうして、いつしか本当の意味でのベテランになった時、今度は自分が初心者のミスをフォローしてあげましょう。かつてお世話になったベテランプレイヤーの心情を、まざまざと理解できるはずです。