同窓会

 

(3) 作成

 マサフミ達は、彼に家の居間へと入っていった。
「途中のコンビニで買ってきたぞ」
 シンジは、コンビニの袋から往復葉書を取り出した。
「何枚買ってきたの?」
 クミは、その凄い量の往復葉書を見ていった。
「40枚。人数分だよ」
「馬鹿だな。オレ達の分はいらないのに」
 マサフミは、あきれていた。
「そっか。すっかり忘れてた」
「そう言えばそうだね」
 一緒に買いに行ったユウコまで気が付かなかったようだ。
「実は文面は、もう考えて書いてあるんだ」
 マサフミは、自分の部屋からワープロを持ってきて、電源を入れた。
「何だよ。そこまでできているのかよ」
 シンジは、呆れているのと感心しているのが、交錯していた。
「当然だろ。まぁ、これ見てくれよ」
 以前書いたと思われるデーターをフロッピーから呼び出し、そしてB5版の紙に印刷して、シンジ・クミ・ユウコ に手渡した。そこには2月13日に同窓会が開催されること・場所・時間などが書いてある往信用。そして、 自分の名前や連絡先などや出席の有無を書かせる返信用の2つが書いてあった。
「いいんじゃない」
 クミは手に取った紙をマサフミに返した。
「みんなは?」
 マサフミは、残ったシンジ・ユウコに聞いた。
「これでいいよ」
「任せる」
 2人からOKサインが出るとマサフミは印刷に取りかかった。
「宛名は手書きだな」
「えー。どうして?」
 ユウコは面倒くさそうにいった。
「40枚もインクが足りないよ」
「じゃ。ケンイチも呼ぼうか?」
 そういうと、ユウコはみんなの意見も聞かずに、自分の携帯電話からケンイチを呼び出した。そして、ケンイチ にマサフミの家にみんなが集まっていることだけを説明して電話をきったのだ。
「まだ仕事中だって。仕事終わったらくるって」
「おまえ、宛名書きすることいってないだろ」
「そんなこと言ったら来ないでしょ」
 ユウコこそ宛名書きしないで、自分の買ってきたお菓子を食べ始めていた。
「なるほどね」
 シンジの走っていたペンも止まった。
 そして、ユウコの携帯がなった。マサフミの家にいた誰もがケンイチからだと思っていた。
「もしもしー」
 マサフミは、その声を聞いただけでケンイチではないことは分かった。なぜなら、その声は、いつも 彼がモノマネをしている声と違ったからだ。
「分かった。じゃ後で」
 そういうとユウコは電話を切って、帰り支度をはじめてしまった。
「帰るの?ケンイチからじゃなかったの?」
 クミは電話の相手はケンイチだと思っている。
「違うよ。友達から。忘れ物返しに行かなくちゃ。じゃ」
 ユウコはそういうとマサフミの家から立ち去った。
「あいつ何しにきたんだ?」
 あっけに取られていた3人であったが、何事もなかったかのように作業を再開した。
「前にもこんなことあったよな」
 マサフミはすべてのはがきの印刷を終えると、思い出したかのように言い出した。
「なにが?」
「ユウコだよ」
「あったあった」
 それからの3人は、ユウコが起こしてきた数々の事件について話し始めた。それは、話尽きることがないくらい 沢山の出来事だ。しかし、どれもが嵐のように話題を振り撒き、そして嵐のように去っていくのだ。だからこそ 、彼らは何事もなかったかのように作業を再開できたのだ。
「あっ。もうこんな時間、帰らなきゃ」
 3人の会話が時間を忘れさせていた。
「じゃ、送っていくよ」
 そう言って、マサフミは立ち上がった。
「後は宜しくな」
「あぁ」
 マサフミは後のことをシンジに任せ、クミを送っていった。マサフミの家からクミの家までは歩いて 2・3分の距離である。
 さっきの雨がウソのように晴れ渡り、夜空には星までが輝き始めた。しかし、2月のはじめらしく 2人の吐く息は白く濁っていた。
「同窓会に来れなくても、オレの携帯に電話しろよ」
「えっ」
「声だけでも出席しろよ」
 マサフミは照れているのか、クミを見ずに前を向いていた。
「うん。絶対する」
 このクミの返事には明るさが感じ取れた。例え声だけでも同窓会に参加できることが、彼女を勇気付け 、そして元気にさせたのだ。
「オレが責任持って、全員に回すから」
「ありがとう」
 それからの2人に言葉はなかった。ただただ、クミの家へと歩いていたのだ。
 そして、マサフミはクミを送り、走って家に帰っていった。彼自身なんか胸に詰まっていった物が取れて、 すがすがしい気分になれたのだ。
「遅かったじゃないか」
 マサフミの帰宅を待っていたのは、シンジの他にケンイチも増えていた。ケンイチは、マサフミ達と入れ替わりで 来たらしい。
「送り狼にでもなったのか?」
「そんなことしてないよ」
 しかし、マサフミはにやけていた。
「何笑ってんだよ。やっぱり何かあったんだろ」
「えっ」
 マサフミは、そのまま何も言わなかった。なぜならば、彼らにこの話をしても理解してもらえないと感じていたからだ。
 それから、ケンイチを加えた3人は宛名書きを終え、当日の簡単な打ち合わせをして、終始昔話に花が咲いたのだった。

1999作 SUGAR F