逆転
(1) 依頼
私こと木根英次はタヌキこと田門木耕作とともに、なんでも屋『パーフェクト』を経営している。そして、 ついさっきオーストラリアでの仕事を終えて帰ってきたばかりであった。 「やっと日本に帰ってきたんだ」 本当に疲れたような表情のタヌキが、荷物の整理や片付けなどは私に任せ、自分はソファーの上に横たわり 煙草を吸っていた。その時であるいつものように、電話がなった。 「もしもし。こちらなんでも屋『パーフェクト』ですけど」 「・・・・」「もしもし。仕事の依頼ですか?」「・・・・」 何だよ。この忙しい時に冷やかしの電話かよ。 「何だ。仕事の電話か?」 タヌキはまだ片付けをしないで、ソファーに横になっている。 「どうもいたずら電話らしい」 そう言って、電話を切ろうとすると受話器から。 「あの〜」 小細い声で女性の声がした。 「もしもし。仕事の依頼ですか?」 「そうなのですが、なんでもやってくれますか?」 女性は、私達の活躍を知らないようだ。 「えぇ。営利誘拐・殺人・放火以外だったら何でもやりますよ」 私は、久々の若い女性からの依頼だったのか、仕事の内容を聞かずに仕事を引き受ける気持ちでいた。 「今、どちらから電話をお掛けですか?」 私は、ペンとメモ帳を取りだし、彼女の居場所をメモしようとしたが、私達の良く行く喫茶店だったので、 私は5分後に行くと言うことだけを伝えて電話を切った。(2) 可愛い依頼者
私は、これから難問を依頼されるとも知らずにウキウキした気分で喫茶『アライグマ』に向かった。 そして、その道中のわずか数分の間にさっきの電話の声から美形の依頼者の顔を想像していた。 『アライグマ』に着いた私は、何故か急に緊張してしまい、大きく深呼吸してからドアのノブに手を伸ばし、 そして、ドアを開いた。 『カランカランカラン』 ドアに付いた鈴が店中に鳴り響いた。 「あっ木根ちゃんいらっしゃい。お客さんがお待ちかねだよ」 アライグマと言うよりも、ただのクマといった方が良く似合うマスターが私に挨拶をした。私はマスター のマスターの声に店のカウンターやテーブルに座っている客に目を向けたが、店の中には、新聞を広げた サラリーマンと母親が見当たらない小学生位の女の子が口一杯にケーキを頬張っていた。 私は、さっき自分が考えていた人物が見当たらないので、とりあえずカウンターに座ったが。 「木根ちゃん。何やってんの?その女の子がお客さんだよ」「えっ」 私はまさかと言う思いで後ろを振りかえった。そうするとケーキを食べ終わった女の子が私の方へ やってきた。 「なんでも屋さんですか?」 「そうですけど。電話をくれたのは、お母さんかお姉さん?」 「いえ。私ですけど」 女の子は不満そうに答えている。 「おじょうちゃんいくつ?」 私は、単なる子供のいたずらだといまだに思っていた。 「15歳よ。中学生じゃ仕事を引き受けてくれないの?」 15歳と聞いて、私は正直びっくりした。身長は140センチ位でおかっぱ頭、どこから見ても小学生 の高学年、下手したら低学年でも通用するいでたちだった。私は、まだ信じられない様子で爪先から頭 までを見上げたが、そこには頬っぺたを膨らませた女の子が立っていた。 「ねぇ。仕事を引き受けてくれるの?くれないの?」 「ごめん。わるかったよ。話だけでも聞かせてよ」 私は、さっき頼んだコーヒーを彼女の座っていたテーブルまで持っていった。 いつもの私ならば、こんな小さな女の子の依頼なんか引き受けることは、まずないのだが、どうせここで 帰ったところでタヌキの片付けを手伝わなければならないと思うと、女の子の話を聞いて時間を稼ごうと 思っていた。そして、ある程度の時間がたったら仕事を断って帰れば良いと思ったのだ。 「私、中山恵って言います。A中学の3年生です。実は、この手紙を見てください」 恵は、そういうと1枚の手紙を私の前に差し出した。私は、その手紙を受け取り、手紙を見たが、なんだか 訳のわからないことが沢山書いてあるだけだった。 その内容とは、次の通りであった。 1.月を使った料理 (落書きの刑) 2.食後には空気のジュースのデザート (清掃の刑) 3.太陽を西から昇らせて東に沈ませること (無視の刑) 「何、この無茶苦茶なことは?」 私は、その手紙を返した。 「実は、この手紙の内容をかなえて欲しいのですが」 「そんな馬鹿な。世界中の魔法使いのパーティでもやるつもりだったのか?」 私は、すっと席から立ち上がり帰ろうとした。 「やっぱりだめですか。誰にも相談する人がいなかったんです」 恵の目には涙が溢れていた。 「泣いたって、そんな依頼はできないよ。それに、このかっこ書きの刑って何?」 私は、さっきから気になっていたことを恵に聞いた。 「それは多分、1番ができなかった場合、私の教科書やノートに悪戯書きが書かれ、2番ができない場合は、 トイレの便器を私の舌で綺麗になるまで舐めること、3番ができない場合は、卒業するまで学校中のみんな から無視されるということでしょう」 「キミもしかして、いじめられているのか?」 恵は、私の問いに声を出さずに、ただうなずくだけだった」 「これ、いつまでにやればいいんだ?」 「1週間以内ですけど。引き受けてくれるのですか?」 「あぁ。やってやるよ」 「有難うございます」 恵は一礼をして、『アライグマ』を出た。その時私は、こんな約束をして良かったのかと後悔してしまったが、 私には恵の依頼を断れない理由があったのだ。