逆転
(3) 難問
『アライグマ』を出た私は、事務所に向かって歩いていた。今までにこんな難問の依頼はなかったと、私は そんなことばかりを考えていた。 事務所についた私は、事務所のドアを開け、そこにはまだ寝そべっているタヌキの姿が目に入った。 「何だよ。まだ片付けてなかったのかよ」 そう言いながらも、タヌキの荷物を片付けている自分がいた。 「仕事の依頼だったのか？」 まだタヌキは何もしない。 「あぁ。可愛い女性からの依頼だったよ」 私は、多少皮肉のつもりでタヌキに答えた。 「えぇマジかよ。それでどんな仕事だ。また浮気調査か？」 タヌキの目つきが変わった。 「月の料理に空気のジュース、それに太陽を西から登らせて東に沈ませることだ」 「なんだそれ、悪戯か？」 「いや、その依頼引き受けたんだ」 「御前。何考えているんだ。そんなの無理に決まっているじゃん。どうして、そんな依頼引き受けたんだ」 タヌキは、吸っていた煙草を慌てて消して私に怒鳴った。 「まだ、キスの味も知らない少女の唇に便器を押しつけるなんて、例え神が許しても、この俺が許せなかったからな」 本当の理由はそんなことではなかった。 「なんだそれ、とにかく御前の依頼だから、御前１人で頑張れよな」 タヌキは完全に呆れ返っていた。 「そんなこと言わないで、何か良い方法はないか？」 「あるぞ」 タヌキは、いとも簡単に答えた。「えぇ。な・何だよ」 私は、まさかと言う思いでタヌキの答えに期待していた。 「そんなの簡単だよ。ピーターパンの背中に乗って、おとぎの国へ連れ行ってもらうか、それがだめだったら 不思議の国のアリスにでも頼むでみたら」 こんなヤツに聞いてみた私が馬鹿だと思い、私は無言で片付けを続けていた。(4) ヒント
仕事の依頼から６日が経っていた。つまり、明日が期限の日である。なのに私は何の回答も出せないまま でいた。私はあれから、事務所にこもりいろいろな文献を読み漁っていたが何の手がかりも無いままでいた。 『落書きだったら本人が消せばすむことだが、卒業するまで友達ができないと言うのは、学校へ行く意味が無いじゃ ないか。なんとしてでも、この太陽を西から東にすることはやらなければならないな』 私は、頭を抱え込んでいたが、その時。 『最後に明日の天気です』 それは、つけっぱなしにしていたテレビから聞こえてくる声であった。 『それでは、「ひまわり」からの映像を御覧ください』 私は、その映像を見てピンと来るものがあった。 「ひまわりは、静止衛星だろ。と言うことは、地球と同じ速度で同じ方向に向かっているってことだよな」 私は、このヒントから前回のオーストラリアの１件で友人になった、アメリカ空軍のワトソン中佐の元へ 国際電話をかけたが本人は留守であった。彼の奥さんであるジェーンの話によると、彼は今、日本の横須賀 基地に訓練のために来日しているという。基地の電話番号は家族以外教えられないと言うことなので、彼女 が基地に電話をして横須賀のワトソンから私の元に電話するように伝えてくれることになった。 そして、待つこと１時間位でワトソンから電話がかかってきた。 「英次どうしたんだ。急用って何だ？」 「実はな・・・」 私は恵のこと、そして彼女のいじめのこと、そしてその解決方法として、ワトソンの協力が必要であること 、などを説明した。 「う〜ん。ちょっと難しいかもしれないが、英次の頼みだ努力しよう」 「サンキュー。よろしく頼むよ」 「あぁ。じゃぁ、明日の夜８時にここを出港しなければならないから、それまでに来てくれ」 ワトソンは、そう言うと電話を切ってしまった。 私自身、本当にやってくれるのかと心配になったが。なぜならば、私のお願いしたことは、一般常識から 言ってとてもかなえられないことだったからだ。