ピース

 

(1) 依頼

 私こと、木根英次(きねえいじ)は、タヌキこと田門木耕作(たもきこうさく)と一緒に『パーフェクト』 と言う「なんでも屋」を経営している。人は「キツネとタヌキのパーフェクトコンビ」と呼んでいる。それもそのはず、 私達は営利誘拐・殺人・放火以外のことなら、なんでもパーフェクトに仕事をこなしてきたからである。
 しかし、最近の私達ときたらペットの散歩や捜索などの動物がらみの仕事がほとんどだった。
 そんなこんなで、平和な毎日を過ごしていた。そして、ある日の夜半に突然1本の電話が鳴った。
「もしもし、こちらなんでも屋パーフェクトです。仕事のご依頼ですか?」
「うちの太郎ちゃんを捜して欲しいのですけど」
 電話の女性は涙声で、木根に依頼してきた。
「はいはい。分かりました。それで、太郎ちゃんは犬ですか猫ですか?もっと詳しい特徴を言ってください」
 私は、いつもの依頼のような口調で女性に聞いた。
「何を言っているんですか。太郎ちゃんは私の子供です」
 女性は、涙ながらに怒っている。
「失礼しました。しかし、それなら警察に電話してみてはいかがですか?」
「しかし、今回が初めてではなく。その度に警察に電話しているのですが、探しているとちゃんと布団の 中で寝ているのです」
 私はその時、彼女が言っていることに理解ができなかった。そして、この事件があんなに大きくなるとは、 この時私は思ってもみなかった。
「分かりました。今からお宅へ伺いますが宜しいでしょうか?」
「よろしくお願いします」
 私は、そう言って電話を切り、タヌキと2人で私が所有する四輪駆動の車に乗って依頼者の家へと向かった。
「依頼者の家は何処だ?」
 タヌキが私に聞いた。
「愛知県の一の宮だ」
「遠いなぁ」
 タヌキは愚痴るように言っていたが、私は逆に、私達の噂がこんな遠くまで広がっているのに、嬉しさを感じていた。
 首都高速・中央高速と乗り継ぎ、一宮インターチェンジで降りた。インターから依頼者の家までは、たいした 距離ではなかったが、市街地から少し離れると、電灯1つない暗い道が続き、私はゆっくりと目的地へ向かった。
 そして、依頼者の家に着いた時には、12時を少し回っていた。
「タヌキ。着いたぞ!起きろ」
 私は、何時の間にかに寝ていたタヌキを起こした」
「分かった」
 タヌキは、私の声にあっさりと起きた。そして、車を降りて依頼者の玄関へ向かった。呼び鈴を鳴らすが 誰も出てこない。
「御免ください」
 私は、玄関のドアにカギがかかってないのに気付き、ドアを開けて中の様子を伺った。しかし、返答が なかった。その時、私達の背後から女性の声がした。
「なんでも屋さんですか?」
 依頼者の斎藤恭子に違いない。
「そうですけど。斎藤さんですか?」
「はいそうです。中へお入りください」
 私達は、恭子に案内され家の中へと入っていった。
「失礼ですが、ご主人は?」
 私は、ペンと手帳を取り出し恭子に聞いた。
「主人は、村の青年団の人達とまだ太郎を捜しています」
「そうですか」
 私は、タヌキと2人で今までの経過や数回にわたって太郎君が居なくなったことについて色々聞いていた。
 依頼者の名前は、斎藤恭子・35歳。夫、光太郎・38歳。愛知県一宮で桃や葡萄を作る農家を営んでいる 。そして、1人息子の太郎君・4歳が夫婦が寝ている間に失踪してしまった。初めの1・2回は警察に届け 、捜索してもらたらしい。
   その時、真夜中にもかかわらず、一瞬部屋が明るくなった。
「雷か。山の天気は変わりやすいって言うからな」
タヌキが窓の外を見ながら言った。
「太郎!」
 恭子は、話の途中にもかかわらず、すっと立ちあがり私達の前から立ち去った。只事ではないと思った 私達は、恭子の後を追った。恭子は、太郎君の部屋と思われる部屋にいた。そして、そこには、腰から 砕けて座り込む恭子と太郎君がいた。
「太郎は?」
 光太郎は、帰ってくるなり恭子に聞いた。
「帰ってきているわ」
 恭子の声には、安心感から元気がなかった。
 光太郎は、気持ち良く眠っている太郎君を起こし始めた。
「おい。太郎。起きろ」
 光太郎は、太郎君を抱きかかえて大声で言った。
「どうしたのパパ」
 太郎君は、眠たい目をこすっていた。
「御前何処へいってたんだ?みんな、心配して捜し回ったんだぞ」
「あのね。広ーい所にお山があって、そのお山のてっぺんに登っていたんだ」
「ウソを着くんじゃない。御前1人でどうやって山に登るんだ」
 光太郎は、物凄い剣幕で怒っている。
「ウソじゃないもん。木も草もない岩の山だもん」
 この時、私は太郎君がウソを着いているようには思えなかった。さらに太郎君が。
「あれ。アンパンマンのバッチがない。パジャマにつけていたのに」
 1度泣き止んだ太郎君が、また泣き出した。
「もういい。分かったからもう寝ろ」
 そういって、私達は太郎君の部屋を出て居間へ行き、さっきの話の続きを光太郎を加えて聞いた。
「奥さん。どうしてさっき太郎君が帰って来たとわかったんですか?」
 私が、恭子に問いかけた。
「前の2回ともそうでした。『ピカッ』と光ったと思ったら、太郎がいなくなって、また光ったと思ったら 戻って寝ていたんです。だから、あの時ももしかしてと思って・・・」
「私も同じです。太郎を探しいる時に、辺り一面が明るくなったので、急いで帰ってみたら、後は皆さん ご存知の通りです」
 恭子が話し終える間もなく、光太郎がいきさつを話し始めた。
「分かりました。とりあえず太郎君が戻ってきてよかったですね」
「はい。有難うございました」
 夫婦そろって頭を下げた。
「すみません。ちょっといいですか?」
 今まで黙っていたタヌキが話はじめた。
「何でしょう?」
 光太郎は、タヌキの方を見た。
「これは何ですか?」
 そういうとタヌキは、一辺15センチ位の石をテーブルの上に置いた。
「これは、太郎君の布団の中にあった物です。ご存知ありませんか?」
「分かりません。それにこの辺は畑が多いのですが、この様な石は見たことありません」
 光太郎は、そう言うと手に持っていた石をタヌキに返した。
「そうですか。でもちょっと気になるので頂いても良いですか?」
「はぁー」
 光太郎は、こんな物に興味を持つタヌキを不思議な目で見ていた。
「それでは、我々はこれで失礼します。後日また太郎君に会いに来ますので、その時はよろしくお願いします」
 そして、私達は斎藤家を後にした。

(2) 石

 私達は、帰る車の中でこんな会話を交わしていた。
「英次。俺やっぱりこの石のことが気になるんだよ」
 タヌキが石を見つめながら言った。
「俺もだ」
「誰か御前の知り合いに、石に詳しいヤツいないか?」
「うーん。あっ。そういえば、俺の大学の後輩で、国立大学で地質学の研究をしているヤツがいる。このまま 、大学に直行すれば、ちょうどいい時間になるな」
「よし」
 こんな会話がなされたと思ったが、あたりはもう朝日が昇り明るくなっていた。私達は帰宅するのをやめ 、都内にある国立大学へと向かった。
 大学に着き、後輩の山崎に会い、ウソの理由をいって石の成分を調べてもらった。
「木根先輩。大体のことは分かりましたよ。だいたい1億年前の物ですね。そして、この成分のデーター をパソコンにインプットし始めた。
「どこか分かったか?」
 私は、随分と待たされたせいか、結果を急いでいた。
「はい。これと同じ地質を持った場所は、オーストラリアの中央部です」
「オ・オーストラリア。そんな馬鹿な」
 私もタヌキも山崎のいった結果に驚いていた。
「はぁ?先輩何かご不満でも」
「えっ。あっ。いや」
 私は、何がなんだか、さっぱり分からない。一体どういうことなんだ。私は頭を抱えて考えたが、答えを出す ことはできなかった。もちろん、隣に座っているタヌキも同じであろう。
 そして、私達は無言のまま事務所に帰った。

1996年作 SUGAR F