ピース

 

(6) シドニー

 2日後、私は壁画の写真を数枚持って、タヌキの紹介である人物を待っていた。
「あのー。もしかして木根さんですか?」
 待ち合わせした場所から、数メートル離れた場所から声を掛けててた男がいた。オーストラリアで日本語 を聞くことは滅多にないので、その人物がタヌキの紹介してくれた佐藤であることは一発でわかった。佐藤 はラフな格好で現れ、さすが現地人というような姿だった。
「あーども。佐藤さんですか?」
「はい」
「田門木から大体のことは聞いていると思いますが?」
「えぇ。田門木は大学のゼミで同期でした。私は、シドニー大学でそのまま古代史の研究を続けています。 こんな所ではなんですから、その辺の店にでも入りましょうか」
 私と佐藤は、海岸線の窓際から見る景色が最高だといわれるレストランに入っていった。
「なるほど。それは凄い話だ。それで、田門木は?」
 佐藤は、驚いた口調であったが、喋り方が冷静であった。
「彼は、太郎君と一緒にオーストラリアの軍事施設にいます。多分、いろいろと取り調べを受けているに 違いありません」
「そりゃそうだ。パスポートを持たない少年が、何故エアーズロックにいたのか説明しなければならない」
「ええ。田門木の連絡によると、何やらアメリカのNASAや軍関係の人も来て、事情聴取を行っているらしい ですよ。あっ。それからこの話は、トップシークレットでお願いします」
「分かってます。UFOの話は、どの国も極秘事項ですから。それで、壁画の写真を見せてください」
「はい。これです」
 私は、現像したばかりの写真を佐藤に渡した。
 佐藤は写真を受け取り、じっと眺めていた。時折、難しい顔をしてみたり、何やら考え込むような姿であった。
「確かに、エジプト文字だ。本当にこれがエアーズロックの中にあったのですか?」
「間違いありません」
 私は、自身を持って答えた。その偽りのない返事が佐藤に通じたのか、佐藤はあっさりと信じたようだった。
「少し時間を頂けませんか?解読してみます」
 そう言うと佐藤は、写真を鞄の中にしまった。
「分かりました。よろしくお願いします。私はこの近くの××ホテルに居ますので、何かわかったら連絡してください」
 私達はレストランをでた。そして、出口で別々に別れた。

(7) 連絡

 ホテルに着いた私は、ゆっくりしたい気分だったが、そう言うわけには行かなかった。軍事施設にいるため 連絡の取れないタヌキと、大学で解読を行っている佐藤の2人からの連絡を待たなければならなかったからである。
そして、夕食前に私の元へタヌキから連絡があった。彼は、比較的に時間を守る男である。
「太郎君は元気か?」
「あぁ元気だ。子供は現金な者だ。軍から与えられた飛行機のおもちゃで遊んでいるよ」
「そうか。それかそれは良かった。それで、太郎君は日本に帰れそうか?」
「その辺は、オーストラリア政府がうまくやってくれそうだ。ただ、少々時間がかかるがな。それじゃまた何か あったら連絡するよ」
 そして、佐藤の連絡を待っているうちに、何時の間にか眠ってしまった。夜中の何時頃だろうか、 私の深い眠りを邪魔するものが現れた。
『ジリリリリーン』
 こんな夜中に目覚まし時計をセットした記憶がない。私は寝ボケていたが、あまりのうるさい音に起きてしまった。 電話を取るとその主は佐藤からだった。
「木根さん。これは大変な発見ですよ。今から伺いますのでよろしく」
 佐藤は、自分だけ喋って一方的に電話を切ってしまった。私は、熟睡している時に邪魔されるのが1番嫌い なタイプの人間であるから、この時の佐藤の電話が重要な内容であったとしても、なんて迷惑な人なんだろう と思っていた。
 佐藤は、それから30分もしないうちに私の部屋に現れた。
「やはり、あれを書いたのは紀元前のエジプト人でした」
 佐藤は、部屋に入ってくるなり私に説明した。
「そんな大昔から可能なんですか?」
 私は、不思議そうに佐藤に聞いた。
「光の玉ですよ」
「光の玉って、あの光の玉ですか?」
「はい。壁画の内容は、大体こんなもんでした。彼は、紀元前の科学者でした。それがある時、神のお告げ を聞いたらしい」
「神?」
「えぇ。神と書いてありますが、多分光の玉のことでしょう。彼は、その神の教えに従がい行動するように 言われたたが、考えが違うので拒否した。すると神の怒りに触れ、聖域である1枚岩に連れてこられた。 そう書いてあります」
「聖域の1枚岩?」
「つまり、巨大な1枚岩。エアーズロックのことですよ」
 私は、この佐藤の説明でますますこの事件での理解に苦しんだ。
 そして、この時太郎君が、タヌキの寝ている前で、光の玉にさらわれたと聞いたのは、次の日の朝だった。

1996年作 SUGAR F