ピース
(8) 会議
太郎君が行方不明になったその日、オーストラリアの空軍基地でそれぞれが持っている情報交換などを行う 秘密会議が行われた。私と佐藤は、一般兵士でさえ入ることのできないエリアに案内された。 この会議に出席した人物は、私・タヌキ・佐藤の他に、アメリカからNASAのジャクソン博士・マサチュー セッツ工科大学のワシントン教授・アメリカ空軍のワトソン中佐、オーストラリアから空軍のグラハム大佐 ・同じくノーマン大尉の8名によって話し合われた。 「太郎君という日本の少年が、発光体によって消えたのは事実です。彼の救出を第1に考えて情報を交換しましょう」 私がこの会議の司会をする形で話し合いが始まった。 「まず始めに、彼が消えた状況を説明して欲しい」 ジャクソン博士が問いかけた。私はその問いかけをタヌキに説明し、タヌキが言うことを私が通訳した。 「私と太郎君は、軍の施設の同じ屁やに寝ていました。よく時間は覚えていませんが、部屋が明るくなったので 起きてみたら、太郎君はすでに宙に浮いていました。その時の彼は、眠ったままだったと思います。そして、 私が手を伸ばそうとすると、突然ガラスが木っ端微塵に割れて、次の瞬間、彼は光の中へ吸い込まれるように 消えていきました。私はその時、拉致される前に書いたと思われるメモが机の上にあるのを発見しました」 タヌキは、その時のメモを机の中央にだし、皆が見えるように見せた。そのメモには”0・2”とミミズ のはったような字で書いてあり、これが誰の目にも子供が書いた物だとすぐにわかった。 「これがメモですか?オーツー。どういう意味ですか?」 ワトソンがメモを取り上げタヌキに聞いた。 「私にも、分かりません。私から報告はこれでおわります」 タヌキは、席に着いた。続いて、ノーマンが。 「では、オーストラリアで掴んだ情報を発表します。オーストラリアでも今年に入って、エアーズロックを中心 として、半径50キロ以内でのUFOの目的は12件あります。いずれも黒い物体が、明るく光って消える と言うものです」 「私達が遭遇した物と同じですね」 私が、発言した。続いて、ジャクソン博士が。 「実は、NASAでも同一の情報があります」「アメリカ軍でも同様です」 ワトソンもジャクソンの意見に続いた。 「一般に科学者はどのように考えていますか?」 グラハムがワトソン博士に問い掛けた。 「もちろん。全面否定派が圧倒的です。賛成する根拠がありませんから。ところで、エアーズロックに書かれて いた壁画について説明してください」 「はい。この壁画は、太郎君を発見した場所に書かれていた物です。太郎君の発見については、軍や警察の 調書にもあるように、皆さん御承知のことと思いますがよろしいですね。そして、壁画の解読には、佐藤教授 が解読に成功していますので、佐藤教授に説明してもらいましょう」 私の言葉に佐藤は解読したメモを取り出し、すっと立ち上がりメモを読み始めた。 「はい。では、要約して説明します。私の名前はプラテレス。カイロの町で数学や化学・哲学を研究している 学者だ。私は神の怒りに触れ、この1枚岩の中に閉じ込められ、刑罰を受けている。ここが何処だか分からない。 しかし、神の棲む聖域の中であることは間違いない。髪は、ある日私の中から話し掛けてきた。それは、様々な 要求であり、私の考えとは違っていた。私は、神の要求に逆らった。そして、怒りに触れた。神は、私を雲 に乗せこの聖域に連れてきた・・・。ここから彼が何を言っているのか分かりませんが、大体このようなことが 書いてありました。神は光る。神は岩山に棲む。エジプト人が泣いている。空に向かって泣いている。 私は死を選ぶ。空に舞って死ぬ。以上が壁画の内容です」 この会議に参加した残りの7人が佐藤の説明に続く言葉がなかった。それぞれが、壁画の写真を見て 無言だった。 「この神というのは、今回のUFOと同じと考えていいんですよね」 かなりの沈黙の後、ノーマンが言った。 「私も今そのことを考えていた。もし、同じだとすると紀元前の時代からこのUFOはこの地球上にいたことになる 。そうするとまた新たな問題が生じてくる。食料や燃料、そして、彼等の寿命が1番の疑問だ」 ジャクソン博士が疑問を投げかけた。そうすると、皆が一斉に自分の持っていた疑問をしゃべり始めた。 『なんのために』・『神が光るとは?』。そして、始めに説明しただけで、ずっと黙っていたタヌキが 重い口を開いた。 「すみません。ちょっといいですか?」 皆が、タヌキと私に注目した。 「私は専門家ではないので、カンでしか発言できませんが。私と木根は太郎君救出のために穴の中に入りました。 つまり、この古代人と同じ視点にたった訳です。そして、目の前に見えたのが岩の山々でした。後に地図で調べた のですが、エアーズロックから30キロ離れたところにある、マウントオレクズと言う山です」 そして、タヌキは太郎君の書いたメモをもって説明を続けた。 「そこで、太郎君の書いたメモですが。UFOに連れていく前にテレパシーを受けたとすると、頭の中に 浮かんだ文字を書いたんじゃないですか。もちろん、彼はまだ字が書けません。ひょっとしたら、このメモ に書いてある”0・2”は『オーツー』ではなく、アルファベットの『O・Z』ではないでしょうか? マウントオレグズは『OREGZ』ですよね。R・E・Gは彼にとって複雑で書けなかったと考えられ ないでしょうか?」「グレイト」 この会議に参加した、他の人物が声をそろえた。私は、自分のことで精一杯で、タヌキに彼等の話を 通訳することを忘れていた。それなのにタヌキは、文句を言わず黙っていた。彼はこのことについてずっと 考えていたのだろうか。 さらに、彼の説明が続いた。 「彼は、私に自分の行き先を教えていったんじゃないでしょうか?」 「すばらしい推理だ田門木。その通りだ」 佐藤は、物凄く興奮しているようだ。 私達はタヌキの推理に従い、会議を中止してマウントオレグズに向かうことにした。私は、タヌキの推理 に確定する根拠はないのだが、そこに太郎君が必ずいると確信していた。(9) マウントオレグズ
私達は、軍の通信班のメンバーを数人加え、2台の車に便乗してマウントオレグズに向かった。基地から 2時間位の所にマウントオレグズがある。随分とでかい岩山がいくつも群がっている。エアーズロックのように 1枚岩ではないのだが、規模はそれよりも大きく、1周するとゆうに2・30キロはある。 私達は、木々が沢山立っている中で、1部分だけ生えてないスペースに車を止め、その場にベースキャンプ を張る事にした。 いざ、ベースキャンプを張るとなると、軍の人間は手際が良い。いろいろな機材やテントなどをあっという間に 揃えてしまった。私達、一般人はただそれを見ているだけだった。 「私、壁画の『エジプト人が泣いている。空に向かってないている』というフレーズが今でも 気になるんですよね」 佐藤が、私達に話し掛けてきた。 「えぇ。私もそのことについては多少気にはなっていたんです。とりあえず、車から降りて外の空気 でも吸いましょうか?」 私・タヌキ・佐藤の3人は、車から降りて深呼吸をした。私は煙草に火をつけ、一服しようとした。 その時である。私の体にてっぺんから足の爪先まで1本の電気が走った。「あっあれ!」 私は、マウントオレグズの数ある岩山の1つを指差した。 「エジプト人が泣いている。空に向かって泣いている。ってあの山のことじゃないですか?」 その岩山は、頂上は丸く輪郭はおろか、左右に開いた穴が目に見え、中心から伸びた岩が鼻のように見え る。そして、穴の下にある岩の形状が川の流れのようになっている。これは、見る人によっては、泣いているように も見えた。 「本当だ。エジプト人かどうかは分からないが、確かに人が泣いている」 これで、佐藤の謎も解けたことになる。 そこからの私達は、ひたすら待つしかなかった。もうとっくに日は暮れていた。眠る者、食事を取る者、 待っている間の過ごし方は様々であったが、皆絶対ここに太郎君が帰ってくると思いこんでいたことには 変わりはない。