BAR BIL BAOの前を通りがかった。
店からマスターが飛び出してきた。
「懐かしいな、来てたのかよ」
ああ、覚えていてくれたのか。
嬉しいなあ、数年前に一度立ち寄っただけなのに。
早速、店に入りモヒートをスペシャルで作ってもらう。
BAR BIL BAOは朝7時から開いている。
オールド・ハバナの飲んだくれが集まる。
観光客など間違っても入ってこれない雰囲気がある。
ショット・グラスに注がれたラムがカウンターの上を滑る。
常連客が一息で飲み干す。
「何でハポネスがいるんだよ」
見慣れない俺の姿を見て絡んでくる酔っ払いも多い。
「ハポネスがいて何が悪いんだ」
西部劇ならそのまま撃ち合いになる場面だ。
「まあまあ、良いじゃないか」
気の良い客が仲を取り持ってくれる。
「なかなか良い日本人のピッチャーがいたんだよ」
野球が盛んなキューバ、その話題で盛り上がることも多い。
今回、隣になった男の話では、1981年から83年までキューバで活躍した、
日本人のアンダースローの投手がいたらしい。
「サダオマチ、サダオマチ」
町 貞夫とでも言うのだろうか。
今から20年以上も前、単身キューバに乗り込んで
3年間投げぬいた日本人の人生に思いを馳せた。
「で、仕事は辞めちゃったのか」
「そうそう」
「もったいないな。ミュージック・カンパニーなんだろ」
「まあ、でも、今は旅だ」
「じゃあ、写真で食っていくのか」
「いや、そんなつもりはないよ」
「でも、この写真は凄く良いよ。店に飾らせてもらうよ」
「グラシアス。今日は会えて嬉しかったよ。アスタ・ルエゴ」
「元気でな。また来いよ。チャオ」