ハバナを出発して3時間、バスはビニャーレスに着いた。
懐かしい道を歩くと、アルベルトの家が見えてきた。
「アルべルト!元気だったか」
玄関の前に立っていた彼はキョトンとした顔をしている。
「俺だよ、俺。覚えてないのかよ」
「・・・・・覚えてない」
マジかよ、ガッカリだなあ。
せっかく会うのを楽しみに来たのに・・・・
「3、4年前に来たジャパニーズだぜ」
「テツロー・・・カネコ?・・・・」
アルベルトは顔は忘れているのに、なぜかフルネームを覚えていた。
アルベルトの家には、以前この地を訪れた時に1泊した。
道で会った、このぶっきらぼうな男に好感を持って付いていったのだ。
当時は、あまり客がいなかったようで(宿帳を見ると1ヶ月に3人ほど)
泊まってもらうのが嬉しくてしょうがないといった様子で歓迎してくれたのだ。
彼の生活は家の中を見る限り、ずいぶんと裕福になった。
以前はガッチャンと押し込む古ぼけたラジカセが一台あっただけの居間には
テレビ、ビデオ、CDステレオが増えていた。
大変なことだ。
泊まり客も、ほとんど毎日のようにいるみたいだった。
アルベルトのお腹もずいぶんと出っぱってきた。
「テツロー、ビデオを見ても良いか」
夜になるとアルベルトは客のくつろぐスペースの居間でビデオを見たがった。
「オッケー、良いよ」
多くの泊まり客はビデオを見たがるのだろうか。
こんな静かな田舎に来てまで、ビデオを見る気にはなれない。
耳栓をして布団を被って寝てしまった。
以前、一緒に過ごした夜を思い出す。
ノラ(アルベルトの奥さん)の心のこもった夕飯。
ローソクの灯り(電気は貴重なのだ)
オンボロのラジカセで2本しかないカセットを鳴らした。
ホセ・フェリシアーノとサルサ。
近所の人たちが集まってきた。
片言での会話が楽しかった。
一本のラムをみんなで飲んだ。
歌い踊り笑った。
温かい夜だった。
現在のアルベルトの生活を見ていると
何か大切なものを無くしてしまったような気がしてならなかった。
彼はあまり笑わなくなった。
まあ、それでも今の生活が彼が望んだ姿なのだろう。
いつまでも元気で幸せでいてくれたらと思う。