「俺にとってはサパティスタというよりは笠置さんやねん」



5月11日、サパティスタ自治区を訪れる日。


スペイン語の話せない俺のために片桐くんが付いて来てくれた。



彼は現在、25歳。


約一年前、小学校の教員を辞めて世界を巡る旅に出た。


初めての海外旅行だった。


初めに訪れた国がメキシコだった。


そこで笠置さんに出会い、三日三晩語り合った。


世界を巡る旅を中止して、笠置さんの立ち上げる宿「カサカサ」を手伝うことにした。


宿が軌道に乗るまでの一年という期限付きで、彼は「カサカサ」の共同経営者になった。



自治区に向かう道すがら、片桐くんにサパティスタのどこに共感するのか聞いてみた。


「俺にとってはサパティスタというよりは笠置さんやねん」


良い悪いじゃなく、ひとつのことに一生を賭ける生き方が凄いと思う。


その生き方に自分の一年を寄り添わせてみたかった。


シラケ世代よりも更にシラケた時代に生きる俺は、


あの全共闘のひとつになって世界を動かそうとしたエネルギーに惹かれる。


彼の中には、もっともっと言葉では言い尽くせない、熱い思いがあるように感じた。


ああ、ここにも旅をしている男がいるなと思った。